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サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイト

ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

ファッションは社会とのつながりを欠いては生きていけない

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右上から時計回りに、植月氏、溝口氏、山田氏、長谷川氏

ファッションはエシカルを欠いては生きていけないーー。そんなハッとするタイトルのセッションがサステナブル・ブランド国際会議2021横浜の初日にあった。若い世代に人気のインフルエンサーであり、ファッションを媒介に環境や社会問題を発信する、モデルの長谷川ミラ氏をファシリテーターに、独自の視点でファション業界のサステナビリティに挑む3人のパネリストが登壇。日本に本物のブランドはあるのか、100%オーガニックコットンを使用すればサステナブルな洋服なのか、深刻な洋服の大量廃棄問題にどう対峙していくべきなのか、といったさまざまな課題の解決策について、活発に意見が交わされた。「ファッションはエシカルを欠いては生きていけない」とは、「ファッションは社会とのつながりを欠いては生きていけない」と言い換えることができるのではないか――。そんな思いも聴衆に抱かせたディスカッションを振りかえる。(廣末智子)

ファシリテーター:
長谷川 ミラ
パネリスト:
植月 友美・Enter the E CEO
山田 敏夫・ライフスタイルアクセント ファクトリエ 代表取締役
溝口 量久・豊島 営業企画室 執行役員 兼 営業企画室室長

セッションに入る前、まずはパネリスト3氏の横顔から紹介する。

「日本に本物のブランドはないのか」 同僚の言葉に衝撃受ける

熊本市からオンライン参加したライフスタイルアクセント ファクトリエ 代表の山田敏夫氏は、同市の老舗洋品店の家に生まれ育ち、20歳で渡仏。グッチのパリ店の地下でストック整理の仕事をしていた時、同僚の発した「なぜ日本には本物のブランドがないのか」という一言に衝撃を受けた。「彼が言うには、エルメスもグッチもルイ・ヴィトンも工房から生まれた。本物のブランドというのはものづくりからしか生まれない」と。これが契機となり、帰国した山田氏は全国各地の工場を探して歩く。そこで見たものは、常に赤字で若手の採用などとてもできず、意欲の低下している下請け工場の現実だった。そこで山田氏が立ち上げたのが、すべての商品に工場の名が付き、工場が価格を決定する、「クラフトマンシップによって『語れる洋服』をつくる」というミッションを掲げるブランド「ファクトリエ」だ。商品には一等級のカシミヤを使ったマフラーや、半永久的に撥水加工が効き、通気性に優れたコットンパンツ、絶対に穴の開かないソックスなどがある。「長く着られる、長く愛用してもらえるということこそが最強のエコであり、サステナブルだと思ってやっています」。

10着のうち1着でもスローファッションに

Enter the E CEOの植月友美氏は、18歳でファッション業界に入り、古着のバイヤーなどを経てグローバルビジネスを学ぶために渡加、渡米。ニューヨークで就労後、帰国し、12年間、日本の大手小売企業で店舗運営や商品企画、マーケティングなどを担当した。この間、ファション業界による環境破壊を目の当たりにし、人生をかけて「地球と人が洋服を楽しめる社会の両立」の実現に挑むことを決意する。2019年、人や環境に配慮した商品のみを扱うエシカルファッション専門のセレクトショップ「Enter the E」を創業。「エシカルでありながら、普通の人が普通に着ることができるデザインと価格帯」の商品を充実させ、受注販売を中心とする新しい洋服の買い方「スローファッション」をSNSなどを通じて提案。現状では世界中で年間に33億着(約100万トン)の洋服が破棄され、日本でも新しく作られた洋服の半分が売れ残り、破棄されているという事実から目を逸らさず、その状態を少しでも改善させようと、まずは、「10着のうち1着でもスローファッションに」と消費者の側に呼びかけている。現在、東京・有楽町の商業施設で期間限定のショップも運営中だ。

オーガニックコットン10%の服を100人に

溝口量久氏は独立系繊維専門商社である豊島(愛知・名古屋)に入社し、繊維原料部門の営業やインドネシア駐在を経て、2005年にオーガニックコットンを普及させるプロジェクト「ORGABITS(オーガビッツ)」を立ち上げ、同社のサステナブル推進の核を担う。15年以上続いているオーガビッツは、オーガニックコットンを100%使用した衣服を1人が着るのではなく、10%のオーガニックコットンの入った衣服を100人が着る社会を目指そうという趣旨だ。同社のサステナブルな素材には、このオーガニックコットンのほか、再生ポリエステルもあり、最近ではバイオ繊維への出資も行っているほか、縫製工場の環境改善など労働面の課題にも向き合っている。また、テクノロジーを生かして生産と販売のロスをなくしたり、スマートウェアの開発にも乗り出し、洋服に寄付金をつけて販売したり、店頭で回収した商品の素材を循環利用するなど、洋服を通して社会に貢献できる仕組みづくりにも力を入れているという。

「それで社会は大きく変わるのか」 消費者としての疑問

そんな3氏の活動を聞いた、ファシリテーターの長谷川氏は、「一消費者として、疑問に思った点がある」として、溝口氏の進めるオーガビッツプロジェクトの「オーガニックコットンを100%使った商品よりも、10%使った商品を100人に着てもらう」ことを掲げる趣旨と、植月氏の消費者に対する、「10着のうち1着でもサステナブルなものを取り入れてもらえれば」という思いを挙げ、「オーガニックコットンが100%でなく10%しか使われていない服で、また、10着のうち1着でもサステナブルを服を取り入れればいいというペースで、社会が大きく変わるんでしょうか?変わるとすれば、その重要性を教えていただきたいです」と切り出した。

これに対し、溝口氏はオーガニックコットン100%にするとまず商品の価格が上がりなかなか買ってもらえないこと、しかし10%でも入っているものを100倍の人が買ったら、それだけ流通量が上がり、生産者の栽培意欲にもつながることなどを説明。「ファッションブランドの企画や販売の方々からも、10%のオーガニックコットンだったらできる、という声があり、気持ちが盛り上がるのが分かって手応えを感じている」と話した。

オーガニックコットンと通常のコットンは、見た目や性質はほとんど変わらないが、原材料である綿花の栽培方法が大きく異なる。通常のコットンが一般に、効率良く栽培するため殺虫剤や除草剤、落葉剤、化学肥料などを使用し、農地や生産者の健康に負担が掛かっているのに対し、オーガニックコットンは、各国の有機農業の基準により、化学物質や化学合成農薬を基本的に3年以上使用しない農地で手間暇をかけて有機栽培されるものをいう。

そうした違いを踏まえた上で溝口氏は生産農家の立場にも触れ、「農家の人たちは、僕たち商社の人間が『早く、大量に作れ』という歴史を作ったもんだから、本当は使いたくない農薬を使わざるをえなかった。本来、その土地の土や水と大切に向き合い、息子や娘に残したいと思って種をまいてきた。だからこそ今、ぜひ頑張ってオーガニックコットンを作ってくれと伝えると、ものすごい勇気が湧いているようです」とオーガニックコットンに対する生産者の栽培意欲を高めることの意義についてもあらためて語った。

一方、10着のうち1着でもサステナブルな、スローファッションを取り入れることを提唱する植月氏は、「みなさんにお聞きしたいんですが、エシカルファッションって聞いた時に、優等生的で生真面目なイメージをお持ちではないですか?」と問い掛けた上で、「私はそのハードルを下げることが重要だと思っている」と強調。そして「10着のうち1着でも」というコピーを前面に出していることについては、「エシカルファッションへのハードルが少しでも下がって、普通の方にまず手に取ってほしい、これなら私にだって始められると思っていただくためのメッセージです」と答えた。さらに、可愛いなと思って手にした洋服が実はサステナブルな素材で作られていたり、フェアトレードの製品だった、というのが当たり前の社会になることを目指している、と述べた。

ファッションは社会とのつながりを欠いては生きていけない

次に長谷川氏は、常に最新のトレンドをとり入れ低価格に抑えた衣料を短いサイクルで世界的に大量生産・販売する、いわゆる「ファストファッション」について話題をふった。「特に大量廃棄の問題はファストファッションの影響が大きいと思うのですが、ファストファッションは“悪”なのか、どうなのか」と山田氏にストレートに問題提起。これを受け山田氏はしばし考え込んだ後、「(ファストファッションのように)トレンドに振り回されたくなくて心がイガイガしているのか、あるいは大量廃棄の現実にイガイガしているのか。みんなそれぞれに違うと思う。でも、廃棄の問題で言えば、ファストファッションではない繊維産業もたくさんの廃棄を出していたりする。だから僕は、それぞれが、こうあるとすごく幸せだと考えるファッションのあり方に向けて、軽やかに、その山を登っていくことが大切だと考えていて、それはファストファッションとの相対比較で考えるようなことではないと思う」とゆっくり話した。

また山田氏は、倫理的なといった日本語で訳される「エシカル」という言葉についても「それぞれが自分の言葉で置き換えれば良い」と提言。「僕はそれを“クラフトマンシップ”と言っています。『ファッションは、クラフトマンシップを欠いては生きていけない』と考えて、ファクトリエをやっているんです。ある人にとってはオーガニックコットンかもしれないし、再利用できるという定義付けになるかもしれない。繊維産業は多方面的なので、さまざまな社会的課題と紐付いている。ですから、今日のテーマも、全体としたら、『ファッションは社会とのつながりを欠いては生きていけない』ということになるかもしれないですね」と見解を述べた。

ファストファッションについては溝口氏も「ファストファッションが悪いといった意識はもう全然なく、むしろ仲間意識の方が強い」とし、そうしたブランドとも一緒にサステナブル素材を開発したり、意見交換する中で、「ファストファッションに属する人も、いわゆるアパレル関連の人も、このままの業界ではいけないぞというような、助け合いの気持ちで服を作る意識でいる」と商社の立場から感じる業界の変化を明かした。

一方、植月氏は、山田氏の提言した、「それぞれが考える、ファッションのあり方」に関連して、「いくらいい素材を開発し、いい洋服を作ったとしても、消費者自身が成長しないことには、それをまた使い捨てられてしまえば終わりだと思う」とした上で、「どうしたら、もっと服を愛でる気持ちや、作り手に対する敬意を育むことができるのだろうか」と悩みを吐露。最近では、ファストファッションブランドがオーガニックコットンを使った商品を消費者の手の届く価格で発売したというニュースに接することも多いが、「ファストファッションは、サステナブルな対応をやってます、とアピールするだけではなくて、そこは、私も含めてですが、魂を込めてやらないといけない」と指摘した。

これまでの生産の流れを変えられるか

「スローファッション」を掲げる植月氏だけに、やはり大量生産を前提とするファストファッションのあり方には疑問を脱ぐえないようで、SNSなどで自身が実際に展開している受注生産方式について、「やはりニーズを聞いてからものを作る。それがファッションの中に必要な要素じゃないかと思う。ファッション業界の中にこの仕組みをどうにかして作りたい」と切実に訴えた。

これを受けて、長谷川氏が、溝口氏に「どうでしょう?ファッション業界が、受注生産のような、今までとは逆の流れが主流になる、つまりビジネスの構造が変わるようなことは可能でしょうか」と質問。これに対し、溝口氏は「それは緩やかに変わっていくと思います。消費者の気持ちにファッション業界は敏感だから、きっとそれに合わせたものづくりの仕方や売り方に変わっていくと思います」と答えた。

その上で長谷川氏がさらに「では、このファッション業界の変革を推し進める上で何が重要になってくるんでしょう。どんなきっかけがあれば変われるんでしょう」と畳み掛けたのに対しては、山田氏が「いちばんシンプルなのは、いつのまにか、なんですよ。いつのまにか、その生活を普通にしていたら社会が良くなっていくというお膳立てをした方が世の中は早く変わると思う」と回答。植月氏もやはり、環境ファーストになるのでなく、「普通の人が普通に着られる洋服」をエシカルな視点で作り、広めていくことの重要性を強調した。

サステナブルの指標は、「心がイガイガしないこと」

この日のセッションをSNS上で告知したところ、「サステナブルファッションの見分け方が分からない」といった素朴な声が多く寄せられたことを明かした長谷川氏。これに対しては、「一つは透明性。誰がどこでどのように作った服なのかをちゃんと説明できるブランドがサステナブルに対して向きあっていると言えるんじゃないか」(植月氏)「お母さんの手編みのセーターはサステナブルなのか、生分解性で土に還る洋服がサステナブルなのか、定義はバラバラでいいと思う」(山田氏)といった意見が交わされ、この日、山田氏が口にした「心がイガイガする」という表現を基に、「(それを着ていて)心がイガイガしないこと」が、自分が何を大切に思うかという観点から、サステナブルの一つの指標になるのではないかという結論に。溝口氏も、「オーガニックコットンの服を着たら、心がイガイガしなくて良かったよ、みたいな日常会話が広がっていけばいい」と話した。

最後に長谷川氏が、「ファッションは、その裏側を調べれば調べるほど、地球に対する負の部分が見えてくる事実もあるけれど、それをどんどん楽しいものに、地球に良いものに変えられるよっていう答えを出している方々」とするパネリストの3氏に対し、「これからのファッションがさらに楽しいもの、サステナブルなもの、エシカルなものであり続けるために大切なことは」と質問。山田氏は「気づきの種を仕掛け続けること」、植月氏は「ファッションを、環境や労働問題なども含めて、正しさと楽しさの二軸で伝えていくための教育」、溝口氏は「ファッションは地球に悪いばかりじゃない、楽しいんだよということを服を通して実感してもらえるような体験づくり」と答え、長谷川氏が「たまたま手に取った洋服がサステナブルでエシカルなものだったり、作り手の思いが込められていたり。消費者にはそういう部分にぜひ着目していただきたいですね」と締めくくった。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。