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地域の協創で実現する活気あふれるまちの姿――第3回未来まちづくりフォーラム(2)

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パシフィコ横浜ノースで2月24日に開催された「第3回未来まちづくりフォーラム」では有識者、専門家、企業代表による講演のほか、連携する企業と自治体が登壇し、具体的な事例を語る「特別セッション」が行われた。全5事例のうち今回は東日本大震災で甚大な被害を受けた宮城県女川町とPwCコンサルティングによる復興の先を見据えたまちづくり事例と、地元中学校やNPOを巻き込んだエプソンの紙資源循環スキームの構築の2事例をレポートする。後者の発表では福岡教育大学附属小倉中学校の生徒たちがオンラインで登壇し、企業、自治体、NPO、学校連携によって得た実感を発表した。両事例を通して垣間見えるのは、繋がりが生み出す活気ある未来の地域の姿だ。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局)

復興の先にあるプラットフォームとしてのまちづくり

特別セッション「未来に向けた変革~次世代を見据えたまちづくりの推進~」
須田善明氏 宮城県女川町 町長
宮城隆之氏 PwCコンサルティング合同会社 公共事業サービス部 パートナー

PwCコンサルティングの社会課題を知る、感じるという社員研修が宮城県女川町で行われたのは2018年のこと。それをきっかけに連携が始まり、昨年12月に包括連携協定の締結に至った。次世代のまちづくりの推進として持続可能なまちの形成をはじめ、スマートシティの実現による住民生活の向上や自治体のDX、人材育成推進などで協業し、女川町の発展と世界に通用するまちづくりの事例形成を行っている。

税収減、職員減、課題増、業務増。自治体を取り巻く環境は厳しくなっていると須田町長は説明する。自治体に求められる変革のポイントは4つだ。未来創造、心構えのある人材革新、業務改革だ。あるべき姿から想像して現在の施策を考え変革するバックキャスティングがポイントとなる。

女川町は10年前の3月11日、東日本大震災で甚大な被害を受けた地域だ。建物は3分の2が津波に流され、解体されたものを合わせると7割が一度失われてしまった。まちづくりに向き合わざるを得なかった背景がある。須田町長は「まちをつくるだけでなく、一人ひとりの復興だ。将来世代に託せるものを作り上げられるかどうか。遠い将来に向けたまちづくりへの挑戦でもあった」と振り返る。

宮城氏が「この先10年はこれまでの10年とどう違うか」と女川町のまちづくりについて投げかけると須田町長は「これまでの歩みは、この瞬間だけでなく先を見ながら今何をするかを考えてきた結果だ」と話し「今までの仕組み、今の人的資源だけでは維持していけない時代がこれから、もしくはもうやってきているかもしれない。これを解決するのは技術ではないか」とDX、インフラも含めた新しい仕組みを取り入れるチャレンジをしていく段階であると見解を示した。

一方、直近で解決したいテーマを「人」として「何かやりたい人がいた場合、『条例があるからできない』とならず『いいよね』と後押しできるプラットフォームとして町を形成したい」と姿勢を話した。自治体DXについては「自分より若い世代の方がどう導入し、それによってどうなっていくかをわかっているだろうと考えている。その知恵を見たいという気持ちがある」と柔軟な考えを語った。

宮城氏はセッションの最後に「変化の早い現代においては、課題を的確に整理し、解決に向けた取り組みを複数のプレーヤーと協働して進めることが重要。自治体は間違いなく、課題解決におけるキープレーヤー。持続可能な社会の構築に向けて協働を進めたい」とメッセージを発信した。

紙の循環プロジェクト「KAMIKURU」が地域にもたらした協創の効果とは

特別セッション「紙の循環から始める地域共創プロジェクトin北九州」

宇野剛氏 北九州市 企画調整局SDGs推進室 SDGs推進係長(SDGs未来都市)
小橋祐子氏 NPO法人わくわーく 理事長
柴田康弘氏 福岡教育大学附属小倉中学校 研究部 研究部長 教諭‘(社会科)
中野雅陽氏 エプソン販売株式会社 取締役
ファシリテーター:
網岡健司氏 八幡東田まちづくり連絡会 会長/特定非営利活動法人 里山を考える会 理事/株式会社エックス都市研究所 参与

八幡東田は北九州市のほぼ中心に位置する。1901年に官営八幡製鉄所が操業開始して以来、産業都市として発展してきた地域だ。2015年には「明治日本の産業革命遺産」の構成遺産として、官営八幡製鉄所の関連施設が世界文化遺産に登録されている。120ヘクタールに及ぶ遊休地化した工場跡を活用し持続可能なまちづくりを実現する「八幡東田総合開発事業」では、エネルギー、IT、ライフスタイルといった各分野で先駆的実証実験を行ってきた。

八幡東田地区で次に行うのが、オフィス内で古紙から再生紙をつくりだす画期的な機器「PaperLab」を活用したプロジェクト「KAMIKURU(カミクル)」。柱となるのは「PaperLab」の販売元・エプソン販売だ。エプソンの拠点もあるビル「九州ヒューマンメディア創造センター」に設置したPaperLabに市内の民間企業や自治体、学校から回収した古紙を集めて再生紙に生まれ変わらせ、新たな用紙を再び地域の各施設で活用するという地域ぐるみの循環プロジェクトを開始した。

中野氏は「さまざまな業界の皆さんとPaperLabをシェアし、地元で排出された古紙を自分たちで再利用する。産官学民の連携があり、さらに障がいのある方々の参加もある。SDGsに則った有意義な活動だと考えている」と概要を説明した。環境(PaperLabによる木材資源・水消費量・CO2排出量の削減)、経済(産官学の交流・連携)、社会(多様な雇用創出)においてプロジェクトの効果が期待できる。

舞台となる北九州市の宇野氏は「市の方向性とプロジェクトが一致している」として「こうしたモデル的な取り組みが広く発信され、水平展開されることで、北九州市、日本、そして世界のSDGs達成につながると考えている」と話した。

障がい者支援NPOの「わくわーく」はプロジェクトの中で、古紙回収や仕分け、PaperLabを操作しての紙の再生工程、アップサイクル品の製作や販売に関わっている。20人在籍する障がいのある人のうち4人が担当者として、施設外就労の中で実際の作業にあたっているという。

同NPOは10年前の設立以来、「互いに認め合いこころ穏やかに安心して暮らせる社会へ」をビジョンとして掲げ、それを実現するためのミッションを「場所づくり×モノ・コトづくり×人づくり⇒繋がりへ」と定めている。理事長の小橋氏はプロジェクトへの参加によって「環境保全だけでなく、働く喜びや就労者の自信に繋がり、収入アップによって生活にゆとりも生まれている。これまでにない人との関わりがたくさん創出されている」と語る。「特にSDGs8番や17番には、大当たり。多様な人や団体がお互いを認め合って協力しながら進めていくプロジェクトだ」と参画での成果に喜びを表明した。

わくわーくと密に連携しアップサイクルした紙製品の製造や広報、企画を行っているのは、北九州市にある福岡教育大学附属小倉中学校の1年生を中心とした生徒たちだ。「創造実践」を校訓とする同校は「教育大学の附属校で、先進的教育研究校」だと説明したのは柴田教諭。プロジェクトへの参画を教科横断の学びを実現する「カリキュラム・マネジメント」の一環と位置付けているという。

「カリキュラム・マネジメントを端的に言えば、学びに対して子どもが『ガチ』になれるかどうかということ。子どもたちが切実感、責任感をもっていかに社会に関わりながら、社会で働く力を発揮できるかという学び」(柴田教諭)

KAMIKURUプロジェクトに参画したことでどのような学びがあったのかを等身大の言葉で発表したのは、生徒たち自身だ。「新商品開発を授業の中で行っている」といった具体的な活動報告とともに、「創造実践(という考え方)や今までに習ったことを活用している。自分たちですべて企画するため、普段の授業とは違った面白さがあり、班活動で協力する大切さも学んだ。楽しくて環境に良いという一石二鳥のプロジェクト」といった率直な感想が話された。生徒会を担当している古森教諭はKAMIKURUプロジェクトを通し「生徒たちが各教科での学びを繋げ、深めていく姿を目の当たりにして『これだ!』と実感している」と話した。柴田教諭は「KAMIKURUプロジェクトが学校現場にもたらしたものは教室を越えたリアルな社会と学びの結束。未来社会を創るプレーヤーとしての学びだ」と熱を込めて語った。

ファシリテーターの網岡氏は最後に「KAMIKURUプロジェクトで北九州から、『ガチ』で世界を変える」と気炎を吐いた。登壇した一同からプロジェクトの実践的な効果と、将来への前向きな展開が垣間見える両セッションとなった。