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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

持続可能で競争力ある農業を構築し、ブランド価値を創造するには

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右上から時計まわりに、二宮氏、青木氏、久枝氏、田中氏

日本の農業就業者の高齢化は進み、食料自給率は50%を大きく下回っている。こうした状況の中で、どうすれば持続可能で競争力のある農業を構築することができるのだろうか。サステナブル・ブランド国際会議2021横浜では、「持続可能で競争力ある農業をいかに構築し、魅力あるブランド価値を創造できるか」をテーマに、日本の農業の最先端を走り、新しい農業の形を模索する経営者と、自社商品の生産農家をさまざまな形で支援する大手企業の担当者らが、それぞれの立場から、持続可能で競争力ある農業を日本でどう構築していくかなどについて話し合った。(岩﨑 唱)

ファシリテーター:
青木 茂樹 サステナブル・ブランド国際会議 アカデミックプロデューサー
パネリスト:
田中 進・サラダボウル 代表取締役
二宮 かおる・カルビー 社会貢献委員会 委員長
久枝 和昇・大和フード&アグリ 取締役

今回のセッションは、パネリスト全員がオンラインでの参加となった。ファシリテーターの青木氏が「生命線というべき農業を、日本の社会は置き去りにしてきた感があります。今回ご登壇の皆さまは、どういう考え方で農業にチャレンジしているかをお聞きしたい」と述べ、パネリスト一人ひとりを紹介した。

デジタル技術導入で農業を魅力あふれる仕事に

「農業の新しいカタチを創る」と題し、農業法人「サラダボウル」の田中進氏がプレゼンテーションを行った。銀行を辞めて2004年にサラダボウルを立ち上げ、経営的に難しい環境の中で農業経営が成り立つようにするために世界でも最先端の設備を持つ大規模農場を日本に合わせた形で、山梨や岩手など全国数カ所で運営し、生産性の高い農業経営を実現している。「社員は週休2日、今の時期ですと8時に出社し5時には退社しています」と農業で働くイメージを一新している。大規模のハウス農場では「重いものは持ち上げないし、かがんで作業をしないので80歳のパートさんでも無理をせずに働くことができます」と地域の人々が働ける場所を作り出している。こうした生産性の高い農業経営が可能になったのはセンシングやモニタリングなどの技術を駆使し、技術者でもある栽培管理者(グロワー)が、作物の生育に最適な環境を管理することができるようになったからだという。

2016年からはベトナムにも現地法人をつくり、農業生産を展開している。「農業が親から農地を引き継いでやるものだというところから制限が外れ、ダイナミックに展開ができるような時代になってきました。私たちはたくさんある農業の一つの形に過ぎませんが、生産者という立場からお伝えできればと思います」。

農業に寄り添った経営を実践

次にカルビーの二宮氏は「商売は人助け」という創業者の言葉を紹介。「この言葉は、すべてのステークホルダーの方々に貢献する会社でありたいという気持ちを表しています。また、人々の健康に役立つ商品づくりを目指し、カルシウムの“カル”とビタミンB1の“ビー”を合わせて“カルビー”という社名にした」と創業者の食を通じて人々に貢献したいという決意が社名にも表れていると述べた。同社では1975年からポテトチップスの製造を始めたが、ポテトチップス製造には原料として生のじゃがいもが必要になるので、国産のじゃがいも調達に特化したカルビーポテトという会社を設立している。サステナビリティ推進のため2019年に策定した中期経営計画では2030年に国産じゃがいも40万トン調達という目標を掲げ、「私たちは農作物を原料として商品を製造しているので、自然の恵みがいちばん大切です」と農業を重視した経営を実践している。

証券会社が投資先として農業に注目した理由

続いて大和フード&アグリの久枝氏がプレゼンテーションを行った。大和証券グループは、2018年の新中期経営計画でハイブリッド型戦略を掲げ、伝統的な証券ビジネスを核としながら、外部ネットワーク、周辺ビジネスを拡大強化することで新たな価値の創造を目指そうと考えている。その中で生まれたのが大和フード&アグリで、日本の農業ビジネスが抱えるさまざまな課題を解決するビジネスを創造し、そこに最先端技術とリスクマネーを提供していくことを考えている。久枝氏は「大和証券グループは、投資のリターン追求だけを考えているのではありません。企業の永続性を考えたとき、人類が直面する社会的課題の解決が不可欠となります。そこでSDGsに照らしながらビジネスを展開しています」と説明。具体的には2020年から山形県と大分県で大規模ハウスによるトマト生産を開始したほか、食・農分野での外部ファンドへの投資、熊本県でのベビーリーフ生産設備への投資などを行っている。

農業を魅力ある仕事に変え、価値ある地域をつくる

ファシリテーターの青木氏が「3人のプレゼンテーションを伺い、農業の現場が変わっていると実感したと述べ、ここから先はリジェネラティブな農業にどのようにアプローチしているかを聞きたい」と質問を投げた。

サラダボウルの田中氏は「農業を通していかにソーシャルグッドな存在になれるかということを課題にしています。農業を、誇りをもって、夢中になれる仕事にすることで、関わる人を幸せにし、社会を豊かにし、価値ある地域をつくり出せます。そのための新しいカタチとして大規模農場を建設し、働き方や地域との関わり方を変えてきました」と強調。それを支えるロボティクス技術について、「何か魔法があるわけではなく、5分置きに収集するさまざまなデータを技術者がきちんと見て分析し、先手先手で最適な栽培環境を整え、成果物を最大化している」と説明。いま農業が急速にデータドリブン・マネージメントの時代に入っていると同時に、「今後は農業のデジタルトランスフォーメーション(DX)が目に見える形で起こってくる。収穫予測システムなどを駆使し、数年内にはいよいよ、生産現場のリアルタイムの情報をもとにフードバリューチェーンがつながり始めるだろう」などと予想した。そしてそんな時代だからこそ、「自ら価値を創り出し、成長していきたい。地域の、特に田舎の多面的な問題と密接にかかわっている農業を通じ、自分たちの事業そのものがCSVとして存在できる、地域にとって非常に価値ある産業になってきたと感じています」と述べた。

農家と一体となって生産性の高い農業をめざす

カルビーの二宮氏は持続可能な農業を行うという観点から、「じゃがいもの主な産地は北海道ですが、九州、関東、東北でも生産しています。桜前線が北上するように九州で5月末頃に収穫し、関東、東北と時間を追って収穫していき秋に北海道で収穫したものを翌年九州産が収穫できるまで貯蔵して、1年間途切れなくポテトチップスを生産するというアクロバットのようなオペレーションをしています。そのためには農家との協業が欠かせません」と契約栽培により安定供給を目指していることを説明。また、調達専門のカルビーポテトが農家と密接にコンタクトを取り、作付面積の相談、収穫機械などの支援、生産性が高くより品質のよい品種開発などを行っていることを報告した。また、お客さまにじゃがいものことを知ってもらう食育授業の実施、工場製品ごとに生産者が分かる仕組みをつくり情報公開している。食品会社として農家と密接に協業し、情報提供をはじめとするさまざまなサポートを行うことでリジェネラティブな農業の実現に貢献している。

大規模施設園芸が日本の農業の解決策の一つに

久枝氏は、取り組みを紹介する前に日本の農業の状況に触れ、大きな課題の一つが農業従事者の減少であることを挙げた。「このままスライドしていくと2030年には農業従事者が現在の半分以下になり、単純計算で一人当たりの生産高を2.5~3倍に高めていく必要がある」と述べた。このような観点から大和フード&アグリでは複合環境制御設備を持つ大規模施設園芸が解決策の一つになると考えている。「大規模農業生産のサステナビリティへの貢献には3つの観点があります。1つが食料安全保障の観点。日本国民の食料を安定して持続的に確保するには効率的な農業生産が不可欠。次に地域経済の観点。地方自治体にとって人口減少による過疎化は深刻な問題。大規模かつ最先端技術を駆使した農業を展開することで地域に雇用が生まれ、地域経済に貢献できます。最後がフードマイレージ削減による環境への貢献という観点。地産地消を推進することでCO2 排出削減に貢献できます。今後は外部のエネルギー開発プロジェクトから排出される熱、炭酸ガスの利活用、再生可能エネルギー分野と連携し環境負荷の少ない大規模農業の展開を進めていきたい」と強調した。

また大和証券グループの運営する農業会社として、同証券の持つ国内外の企業や投資家のネットワークの強みを生かし、「新たな農業ビジネスの創出や、農業セクターに必要な資金を呼び込む仕組みづくりを通じて、サステナブルな社会の実現に引き続き貢献したい」と締めくくった。

農業生産法人、食品会社、異分野の証券グループによる食と農の企業と、成り立ちも役割も違う現場から、持続可能で競争力のある農業を実現するためのさまざまな取り組みや今後の展望を知ることができた。農業分野でもデジタル化は始まっていて、従来はできないとされてきたことが、可能となり、生産性はもちろん、働き方も変わっている。これからの日本の農業に大いに期待したい。