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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

変化に対応できる街づくり――木造建築、コミュニティ形成、複合的都市開発はどう進めるか?

公害が社会問題となった1960年代の環境配慮に始まり、クリエイティブシティ、コンパクトシティ、スマートシティが提唱され、そしてサステナブルシティへ――。国内での持続可能な都市設計の議論は、脈々と続いてきた。2030年までの達成を目指すSDGsを前提に、先進的な開発を進める建築や設計業界はいま何を見据えているのか。サステナブル・ブランド国際会議2021横浜では、「サステナブルシティ実現のアーキテクチュア」と題し、竹中工務店、大和ハウス工業、パナソニックの担当者らが意見を交わした。(横田伸治)

このセッションでファシリテーターを務めたのは、サンメッセ総合研究所の山吹善彦氏だ。山吹氏は冒頭で、内閣府の資料を引用しながら、「深化するサステナブルシティ」の目標としてスーパーシティ構想の概要を解説。「住民が参画し、住民目線で、2030年に実現される未来社会を先行実現する」ことを目指すために、住民の生活に関わる複数分野が先端的なサービスを提供し、かつ相互にデータ連携を行うことがポイントだと指摘した。

ファシリテーター
山吹 善彦・サンメッセ総合研究所(Sinc)SB Japan Lab 副所長/上席研究員、サンメッセ ソリューション統括本部
パネリスト
松崎 裕之・竹中工務店 木造・木質建築推進本部 本部長
瓜坂 和昭・大和ハウス工業 本社 営業本部 ヒューマン・ケア事業推進部 副理事
荒川 剛・パナソニック ビジネスソリューション本部 CRE事業推進部 SST推進総括

資源と経済循環のため、木の割合さらに増やす:竹中工務店

その先端的なサービスの具体例として最初に事例を紹介したのは、1610年の創業以来、東京タワー、東京ドームなどを多くのランドマークを手掛けてきた竹中工務店の松崎裕之氏。建築会社から「まちづくり総合エンジニアリング企業」への転換を目指す同社では、不動産・開発や設計・建築だけでなく、建造物のメンテナンスやリニューアルも含めて「まちのライフサイクル」を回すことでサステナブルシティの実現を目指すという。中でも特に力を入れているのが、環境と共生した高層木造建築だ。日本初の10階以上の中高層木造建築物である集合住宅「PARK WOOD高森」(仙台市)を完成させた2019年以降、毎年高層木造建築を手がけ、2021年には東京・日本橋に17階建ての木造オフィスを完成させる予定だという。

「なぜ今、木造建築なのか?」。松崎氏は、脱炭素社会の実現に向けて循環資源である木材を利用する価値があると説明した上で、気候変動対策としては、森林活性化によるCO2吸収効果も挙げた。さらに、「木造は日本の文化に合う。ESG投資の時代にあって、資源と経済の循環を目指したサイクルのために、今後は木の割合をさらに増やしていきたい。行政の補助金制度の活用や、大学での研究との連携など、産官学の力を結集した取り組みが必要だ」と語った。

「まちの再耕」は開発企業の責任:大和ハウス工業

大和ハウス工業の瓜坂和昭は、高度経済成長期から、のべ6万区画以上の郊外型戸建て住宅を手掛けてきた同社による、「ネオポリス(新しいまち)」構想の現状と、「既存のまちの再耕」の取り組みについて紹介した。たとえば、1974年に分譲開始となった横浜市の上郷ネオポリスでは現在、住民の約50%が高齢者となっており、小学校は閉校、商店街も閉店が相次いでいる。2030年までには、全世帯のうち約14%となる123棟が空き家となる可能性があるという。そこで取り組んでいるのが、産官学が連携して住民をサポートする体制作りだ。

具体的には、2015~16年に、住民らによる「まちづくり委員会」「まちづくり協議会」を発足させ、さらに企業(交通会社、商業施設など)・大学(東京大学・明治大学)などを交えて具体的な新事業について検討する「まちづくり協議会」を立ち上げた。協議会は横浜市とも連携し、事業案を実現につなげていく仕組みだ。この枠組みから2019年に生まれたのが「野七里(のしちり)テラス」。コンビニを併設した地域交流拠点で、住民ボランティア団体が運営・管理を担う。住民同士の交流を促進するだけでなく、高齢者や子育て層の就労の場の役割を果たすほか、空き家を改築した住民向け生活相談窓口も併設した多機能施設だ。今後は、ネオポリス内に分散型のサービス付き高齢者向け住宅を設置し、若年層の誘致に向けては複数のテレワークスペースを設ける予定だという。瓜坂氏は「コロナ禍でのコミュニティ崩壊も懸念される。ネオポリスの問題は、開発した企業の責任として取り組む」と強調した。

コンセプトは「生きるエネルギーがうまれる街」:パナソニック

パナソニックの荒川剛氏は、神奈川県藤沢市の同社工場跡地を活用した郊外型住宅の開発事業を紹介した。「Fujisawa SST(Sustainable Smart Town:サスティナブル・スマートタウン)」と呼ばれるこの事業は、「生きるエネルギーがうまれる街」をコンセプトに、CO2の70%削減、生活用水30%削減、再生可能エネルギー利用率30%以上、などを目標として出発。2014年に戸建て住居の入居が始まって以降、現在まで各施設が次々とオープンしている。住民や施設事業者がつくる自治会と、パナソニックのほか東京ガスやNTT東日本、三井不動産レジデンシャルなど9社が出資する株式会社の「Fujisawa SST マネジメント」が共同で運営する体制を採り、慶応義塾大学など大学との連携も活発だ。全戸建てに太陽光発電システムと蓄電設備を備えるほか、電気自動車や電動自転車のレンタル窓口、医療・介護・薬局が連携した総合的なケアシステムなど、多くの住民サービスを提供している。

マネジメント会社としてのマネタイズ方法を問われた場面では、「住民向けサービスに対し、共益費・管理費にあたる料金が発生しているほか、インフラ事業での収入など、複数の収益源で維持している」と明かした。会場からも「住民の主体性を入居時だけにとどめず、世代交代時にどう引き継いでいくのか?」と質問が飛ぶと、「住民の交流が実現される取り組みが大事だ。ハード面では、戸建てに入居した住民が、子育てを終えたら集合住宅に移り、子ども世代が戸建てを引き継ぐような、地域内の循環を作っていきたい」と答えた上で、「変化に対応できる街であることが大事。住民、企業、行政、大学が自分ごととしてまちづくりを考えていく必要がある」と、各登壇者らに共通していた産官学連携の重要性を指摘して、セッションを締めくくった。

横田伸治(よこた・しんじ)

東京都練馬区出身。東京大学文学部卒業後、毎日新聞記者として愛知県・岐阜県の警察・行政・教育・スポーツなどを担当、執筆。退職後はフリーライターとして活動する一方、NPO法人カタリバで勤務中。