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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

子どもとともにサンゴ礁を育てる――三井アウトレットパーク横浜が目指す「メディアとしての商業施設」

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「商業施設も、メディアになれるのではないか」――。三井不動産は「三井アウトレットパーク 横浜ベイサイド」(横浜市金沢区白帆)の2020年リニューアルオープン以降、海と自然を守る活動「Save the Oceanプロジェクト」を進めてきた。サステナブル・ブランド国際会議2021横浜のセッションには三井不動産のほか、同プロジェクトの強化週間イベント「エコWEEK」内で子ども向け特別授業「ミライのシゴト」を実施したニューズピックス、そして施設内で半年間実際にサンゴ礁を育てる取り組み「よこはまサンゴ礁ラボ」を担当した東京大発ベンチャー「イノカ」が集まり、商業施設の新たな可能性についてそれぞれの視点を披露した。(横田伸治)

「SDGsから考える商業施設・場の未来」と題されたこのセッションでは、まず三井不動産の小村佳菜子氏が、Save the Oceanプロジェクトの概要を紹介。1998年に日本初のアウトレットとして開業した「横浜ベイサイド」は2018年から全面建て替えを行い、店舗数も以前の2倍となる約170店舗となって2020年6月にリニューアルオープンを迎えた。新たなコンセプトは「New Marina Life (ニューマリーナライフ)」と定め、海を眺めながらのショッピングや食事、広場でのアウトドア体験イベントなど、立地を生かした施設づくりを行っているという。

その中で、海辺の環境を守り、持続可能な地域を目指すSave the Oceanプロジェクトが始動した。清掃活動や募金活動、テナントのサステナブルな取り組みの後押しなどの環境保全活動と、エコWEEK (2020年8月31日〜9月6日)を筆頭とするファミリー層向けの教育活動を2つの柱とした取り組みだ。

同プロジェクト内でよこはまサンゴ礁ラボを開催しているイノカは、東京大在学中に出会ったメンバーらによる、「アクアリスト×エンジニア」を基軸とするベンチャーだ。2020年にはインド洋・モーリシャスで大型貨物船が座礁し、燃料油が流出した事故に際しては、商船三井と連携して環境回復事業にも参加した。イノカCEOの高倉葉太氏は、サンゴ礁生態系などの環境を、都市部のオフィスなど任意の場所で再現するという同社の「環境移送技術」を紹介し、「地球のお医者さんになる」というビジョンを語った。

よこはまサンゴ礁ラボでは、まず何も入っていない水槽を用意。子どもたちが自分の手でサンゴを植え付けることで、自然環境を自分事として感じてもらう段階からスタートしたという。さらに観察を通して新たな発見や疑問に導き、最終的にはそれぞれが不思議に感じたことを調べて発表するという探究学習につなげるのが狙いだという。全6回のプログラムは3月上旬に最終回を迎える。「自然保全には経済的な合理性もある。ESGの時代に、どうしたら子どもたちが自然の価値を考えてくれるようになるのか」とプログラム実施に込めた次世代への期待を明かした。

一方、大手ウェブメディアのニューズピックスはエコWEEK内の「ミライのシゴト」で、カカオ豆の生産やチョコレート店経営をめぐる授業や、イノカの高倉氏らと協働した「サンゴとデザイン」をテーマとするワークショップを行った。同社の山本雄生氏はセッションで、「海辺に面しているという場所の可能性を引き出したかった。そして、アウトレットが抱えるファミリー層に対し、何か刺激を与える内容にしたい」とアイデアの出発点を振り返った。

子どもと大人が一緒に話し合うテーマとしてSDGsを取り上げ、体験型の教育プログラムに仕上げたことで、「商業施設もメディアになれるのではないか。そして、人と自然が共存するプラットフォームになれるのでは」とメディアの立場から手ごたえを感じたようだ。

三井不動産 商業施設本部の粟谷尚生氏はエコWEEKの立ち上げにあたり、「商業施設は大転換期を迎えている。買い物がオンライン化していく中で、何がリアルな場に残るのか」と問いを立てたといい、重視するポイントとして「目的を限定せず、スタートアップやメディア、テナント出店者など多くのステークホルダーがそれぞれ価値を感じられる場を作り、子どもたちにバトンをつなぐ」ことを挙げ、山本氏の言う「メディアとしての商業施設」に共感したという。

アウトレットで教育を行うことについても大きな意義を感じているという。アウトレットは単に買い物をしに行く場所ではなく、より複合的な場を志向する「モノからコトへ」の転換や、コロナ禍でリアルな場の意義が問われた結果「偶発的な出会い」の価値が高まったことなどを背景として説明した上で、「未来を担う子どもと家族に豊かな時間を与えることは商業施設の原点」と力を込めた。エコWEEKでは幅広い分野のスペシャリストとの出会いがあったことから、「今後は衣食住、音楽、映画、デジタル、経済など、SDGsにとどまらない内容で、教育プログラムを継続していきたい」と前を見据えた。

横田伸治(よこた・しんじ)

東京都練馬区出身。東京大学文学部卒業後、毎日新聞社記者、認定NPO法人カタリバを経てフリーライター。若者の居場所づくり・社会参画、まちづくりの領域でも活動中。