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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

SB Student Ambassador:高校生が考える、企業に取り組んでもらいたいSDGs目標とは

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全国の高校生が「企業に取り組んでもらいたいSDGs」について、実際に企業にプレゼンテーションする「SB Student Ambassador(SBスチューデント・アンバサダー)」がサステナブル・ブランド国際会議2020横浜で開催された。書類選考を通過した8校32人の生徒たちは、企業の理念やSDGsに関係する事業について入念に調べ、取り組むメリットなどを挙げながら、新しい事業や商品を提案した。提案を受けた企業はカシオ計算機、サントリーホールディングス、エプソン販売、みんな電力、日本旅行の5社だ。

生徒たちは2日間にわたって行われた同会議に参加し、企業や自治体などの最新のサステナビリティの取り組みを学んだ後、プレゼンテーションに挑んだ。各校に与えられた発表時間は5分間。企業の視点に立った提案を心掛け、パワーポイントや模造紙を使いながら、工夫を凝らした発表を行った。

人間とロボットの幸せな共存を実現するには

最初に発表を行ったのは奈良県の育英西高等学校。同校では独自科目「シナジータイム」を通して、問題を自ら発見し、共同で問題解決に取り組む力を養っている。今回、「人間はロボットと共存することで幸せになれるか」という問いを立て、ロボットの力によって労働力不足を解消することが持続可能な社会をつくり、人々の幸せにつながるとの結論を出した。そこで、エプソンの技術力を用いてロボットを生産現場に導入することで労働力を補うことを考えた。さらに少子高齢化の要因の一つに「育児の大変さ」があると指摘し、家事や育児を手伝ってくれるロボットを作ることを提案。製造においては、リサイクル素材を使い、環境負荷物質や二酸化炭素の排出量が少ない方法をとることが必要だと訴えた。生徒たちは「私たちと一緒により良い未来をつくりませんか」と声を揃えて呼びかけた。

提案を受け、エプソン販売の大木崇嘉氏は「提案いただいた内容は今後、日本がものづくりの現場で直面し、取り組んでいかなければならないもの」と講評。また実情についても触れ、「ロボットができることと人間でなければできないことがある。例えば、ゆで卵を人間のようにロボットが掴むには高い技術が必要になる」と説明した。

途上国で再エネを普及し、生活の質の向上を目指す

札幌日本大学高等学校は、発展途上国におけるエネルギー供給問題を解決したいと発表した。フィリピンの電線が入り組んだ様子を写した写真を見せながら、こうした状況は電気がショートし火災が発生する可能性や、夜に勉強することが難しいなどの課題を挙げた。みんな電力に対し、事業を拡大し、ノウハウを生かして途上国でも再生可能エネルギーを普及させられないかと提案した。電力が普及することで、新たな雇用が創出され、発展途上国の技術革新が進み、子どもは勉強時間が増え、灯りがあることで通学路の安全性も高まるとメリットを挙げた。また地域の特徴を見極め、どのような再生可能エネルギーを導入するかを見極めることが重要だと語った。生徒の一人は「大人の方の中には、子どものアイデアを取り入れることに抵抗がある方もいるかもしれないが、若い世代のアイデアを活用してほしい」と呼びかけた。

みんな電力の間内賢氏は、「現在、インドやバングラデッシュでは太陽光パネルを屋根に設置する方が電力会社から買うよりも安い。雇用が増えるのはその通りだ。日本でも再エネ業界の規模が拡大するにつれ、仕事が増えた。地域の地形などの特性を見極める重要性についてはよく調べられている。再生可能エネルギーを設置する際には、地域の循環、安全性、災害リスクを見極める必要がある」と語った。

防災訓練をアップデートし、未来の危機に備える

愛知県の岡崎城西高等学校は東日本大震災の翌年から、宮城や福島でボランティアを行ってきた。現在も東北スタディーツアーを行い、被災地の高校生や仮設住宅で暮らす方々との交流を続け、復興について学んでいる。その経験を生かし、「水と生きる」を掲げるサントリーと連携し、防災訓練をアップデートしたいと語った。その一つが、災害発生時に死活問題となる水の確保。電気を使わずに水をろ過するキットを作り、さらに岡崎市の八丁味噌を使ったドライ味噌汁を非常食として入れたオリジナル防災袋をつくることを提案。また災害時にスマートフォンの充電や非常食を備蓄できる自動販売機を公民館や学校などの公共施設に導入したいとした。こうした取り組みは、サントリーのブランド価値をさらに上げるものだと説明した。

サントリーの椎名武伸氏は、「気づきが多くあった。防災対策機能のある自動販売機はすでにあるので、より多くの方々に知ってもらえるよう努めたい。みなさんのように地域に根差した形で人を助けようとすることは、将来的に自らの幅を広げていくことになる」と語った。

超高齢化社会は「ハートフルウォッチ」で健康管理を

岐阜商業高等学校は、簿記の授業で馴染みのある電卓のブランド、カシオと連携して社会課題を解決する商品を作ることを考えた。生徒たちは同社について調べる中で、医療機器を製造していることを知ったそうで、「超高齢化と健康」という日本の課題を解決する「ハートフルウォッチ」を提案した。これは腕時計に健康状態が把握できる機能が備わった商品で、血圧や脈拍数、体温などを測定でき、倒れた場合には救急車を呼んでくれる。また健康状態や所在地を医師や家族に知らせることができ、高齢者の見守りにもなるとした。市場に投入する際には、サブスクリプション方式を採用し貸し出すことで、商品や部品を循環利用し、商品を売ることでごみが発生しないようにしたいと語った。販路も考え、高齢者の集まる病院のほかジムやヘルスケア事業者に委託することで幅広い年齢層の健康増進に貢献していきたいと結んだ。

カシオの木村則昭氏は「ハートフルウォッチは技術的に十分可能。貸すという発想が優れている。サーキュラーエコノミーという資源循環型の社会をつくろうとする流れがある中で、今後、大量に資源を消費するビジネスモデルを変えていく必要がある。それを先取りした素晴らしいアイデアだ」と評価した。

紙を有効利用しSDGsに貢献

名古屋高等学校は、使用済みの紙から新たな紙をつくる乾式オフィス製紙機「ペーパーラボ」を開発したエプソンと、紙の消費量の削減や新たな紙の生産量の削減を行い、持続可能な社会をつくりたいと発表した。梱包資材に使われる針金などを紙に変え、緩衝材も再生紙を利用することを提案。さらに、教育現場で活用できるペーパーデバイス(電子ペーパー)の開発も提案した。背景には、タブレット端末を使った学習による目の疲れ、勉強以外のものに使うリスクがあるという。エプソンにとっても事業の新領域を開拓するチャンスになると説明した。

エプソン販売の大木氏は「ペーパーラボで作った紙の梱包材への利用は試験的に行っており、将来的な実現可能性を探っている。ペパーデバイスはいいアイデアだが、商品が手ごろな価格になるにはまず企業が膨大な投資をし、量産効果によって価格が下がるという構造がある」と商品化までの過程にはハードルが存在することを伝えた。

学校を「顔の見える」発電者に

茨城県の岩瀬日本大学高等学校は「森林伐採をしてまで再生可能エネルギーに切り替える意味はあるのか」という疑問から、学校自らが発電者になることをみんな電力に提案した。「環境省の発表によると、ソーラーパネルの設置場所の86%が森林地域。最終的には、耕作放棄地にソーラーパネルを設置することで、森林伐採を防ぎ発電したい。資金は、バザーで地元の規格外食品を使った商品、使わなくなったものなどを売るほか、メルカリやクラウドファンディングを通して募っていきたい」とビジョンを描いた。そして力を込めて、「誰ひとり取り残さない持続可能な社会を実現するには、それに本気で取り組む人、企業の存在が絶対に必要」と語った。

みんな電力は「顔の見える電力」をキーワードに、誰がどこでどんな風にどんな思いで電力を生産しているかを伝えて販売する。間内氏は、「発電者になるという意識が素晴らしい。電力をどんな人がどんな思いでつくるかというストーリーは大切だ。ソーラーパネル以外にも洋上風力発電、バイオマス発電といった方法もある」と説明した。

新時代の豊かな生活、文化を生み出す旅行企画

東京都の三田国際学園高等学校は、日本旅行の経営理念「豊かな生活と文化の向上に貢献する」に沿った新たな企画・旅行商品を提案した。軸となるのは3つの社会課題だ。1つ目は、食品ロスと相対的貧困の解決。「日本では年間646万トン(2015年度)の食品ロスがあり、人口の6人に1人が貧困に苦しんでいる」と話し、日本旅行の顧客の学校、企業がフードバンクに寄付を行ったら修学旅行や社員旅行を割引することを提案した。2つ目は国内の教育格差の解消。進路選択の不平等に着目し、地方の学生が都市に、都市の学生が地方の大学に進学する国内留学ツアーを企画した。インターシップや民間奨学金などと連携して、学費の負担をなくす。都市から地方に人が流れることで、地域活性にもつながると説明した。さらにLGBTQへの差別・不平等を是正するために、LGBTQの人たちがそうでない人たちと共に心地よく旅行できる「ノンバイナリー・ツアー」を提案。こうした取り組みは日本旅行のブランド価値を上げるとし、「多様性を受け入れることは、企業自体の創造性や生産性を高めることになる。利他的な活動は社員のウェルビーイングにもつながっていく」と話した。

日本旅行の吉田一成氏は「国のビジョンやビジネスモデル、ブランディングの観点に立った実践的な提案だ。地方創生に求められている都市から地方、地方から都市へ人が動くための取り組みだ」と語った。

日本語でもてなす、日本らしい旅行を

東京都の聖徳学園高校は7年前から国際交流ボランティアを立ち上げ、訪日外国人におもてなしを行っている。日本旅行が販売する、子どもを対象にしたサマーキャンプや自然体験ツアー「トムソーヤクラブ」の中で、農家とのつながりを生かしたプログラムを行うことを提案した。例えば、カレーを作る際には地元の農家の方に協力してもらい収穫体験をすることや、ツアーの売上高の一部を貧困問題の解決に寄付する。また日本人と外国人が旅行プランをシェアできるようにすれば、お互いの国への興味関心が高まるとした。日本人にとっても自国の魅力を再発見する機会になると語り、「大人は英語学習の重要性を訴えるが、英語だけがすべてではない。逆に、日本語を学びたい外国人もいる。旅行の中で、日本人の学生が外国人に日本語を教えながら交流して互いに学び合うプログラムもいいのではないか」と説明した。最後に、旅行プランのシェアは日本旅行にとっても顧客のニーズをすくいとる良いチャンスになると語りかけた。

日本旅行の吉田氏は、「旅行業界が抱えている課題の核心に迫った内容だった。農村民泊などで大事なのは地元の方を巻き込むこと。そして農村のファンを増やし、移住や雇用に繋がるというのが求められる地方創生の姿だ。それは外国人でも同じ。旅行がきっかけで『日本っていいね』と思い、日本で住んだり、働くことにつながれば」と話した。

このプログラムは、日本旅行が未来を担う高校生にさまざまな企業のSDGsへの取り組みを知ってもらい、さらにこの経験を通して人として成長し、今後の進路選択に生かしてほしいとの思いから実施したものだ。