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トリプルボトムラインを提唱者が撤回、再生型資本主義への変革を

持続可能な企業評価の指針となっている「トリプルボトムライン」の概念を提唱したジョン・エルキントン氏は、大学院大学至善館(東京・中央区)が主催した氏の新たな著書『グリーンスワン』に関する講演で、今後はこれだけでは不十分として、資本主義のシステムを再生・修復型(リジェネレーション)に変えていく必要があることを示した。「グリーンスワン」は、4月に氏が出版した著書に表された考え方で、これまでの古い秩序から持続可能な未来に向けて飛躍的に変化するための道筋であり、講演ではそこに到達するための重要なキーワードや、コロナ危機で明らかになったトレンドについても語った。(環境ライター箕輪弥生)

「グリーンスワン」を見つけるための3つのキーワードとは

20冊目の書籍『グリーンスワン–再生型資本主義の到来』

企業を財務面からだけでなく、環境、社会、経済的の3つの側面から評価する「トリプルボトムライン」(TBL)は、今から24年前にジョン・エルキントン氏が提唱した考え方で、これまで多くの企業が活用し、サステナビリティレポートに関する世界共通のガイドラインとしても使われてきた。

しかし、エルキントン氏は2018年6月のハーバード・ビジネス・レビュー誌面で、「今やTBLを考え直す時だ」としてトリプルボトムラインのリコール(撤回)を発表した。その理由のひとつとして、多くの企業がこれをやれば大丈夫、安心だという会計システム的な使い方が広まっているからだと説明した。

今までの古い秩序が崩壊しつつある大きな変革が必要とされている今、トリプルボトムラインに替わる新たな経済秩序を提唱する必要性が生まれた。4月に氏が出版した書籍『Green Swans-the coming boom in regenerative capitalism』(グリーンスワン–再生型資本主義の到来)ではそれを「グリーンスワン」という表現で表している。

エルキントン氏はそれまで認識されながらも表面化されなかったことが突然大きな問題として立ちふさがり、極めて大きな影響を与えることを表現した『ブラック・スワン 不確実性とリスクの本質』(ナシーム・ニコラス・タレブ、2007年)に対して、世界が向かいたい方に急激に動く変化を「グリーンスワン」と表現する。

たとえば2008年のリーマンショック、2016年6月の英国EU離脱、最近では米国の黒人男性の拘束死事件に端を発した抗議運動など、これまでくすぶっていたが表面化しなかったことが突如大きな問題として大きな影響を与えることは「ブラックスワン」の例としてあげられる。

これに対して「グリーンスワン」は、太陽光モジュールがここ10年で驚異的にコストダウンしたことや、シェアエコノミーや自動運転、電気自動車の普及などにより運輸や交通の収益は7割近く減るだろうといったような予測が例としてあげられ、少し前までは大げさな予想だとされたことがある点を超えると急激に現実化するなど、変化が大きく良い方向に向かう例があげられる。

後者の例では、運輸関連の収益がそれだけの割合で減るとしたら、エネルギー、輸送に関する産業などに非常に大きな打撃となり、ビジネスの根本的な変革が必要になる。このような大きな変革の時に必要される重要なキーワードとして氏は「責任」「レジリエンス」「リジェネレーション」を挙げた。

「責任」については、企業が透明性をもって説明責任をもつことは現在と同様今後も必要となる。また、2015年に発表されたSDGsは段階的な変化を起こすための目標、そして私たちに課された責任としてとらえられている。

「レジリエンス」(強靭性)は企業のトップや投資家、政治家などが盛んに使い始めた言葉のひとつだ。エルキントン氏は気候変動などで自然災害も多発している現在、企業、市民、サプライチェーンがどうレジリエンスを高めバランスをとるかが非常に重要だと説く。

「リジェネレーション」は気候変動やプラスチックの問題など多くの課題に対して修復・再生型の仕組みで対応しようとする考え方で、土壌や森林の回復といった環境面だけでなく、社会、経済も含めた3つの側面での「リジェネレーション」を考えるべきだとエルキントン氏は唱える。EUが昨年、グリーンニューディール政策として約120兆円を投資したこともその一端になるかもしれないと付け加えた。

変革を起こすための10年にグリーンスワンの種を探そう

いみじくもコロナ危機により今の資本主義が抱える問題が明らかになった。エルキントン氏はこれを「まるで地球がレントゲン写真を撮ったかのように」と表現する。氏があげたコロナ禍により加速すると予測したトレンドは次の4つだ。

1) グローバリゼーションの再考 
サプライチェーンに関しても地元に戻す企業が増えるのではないかと推測する。
2) デジタル化
ZOOMの会議が飛躍的に伸びたように、さまざまな場面でのデジタル化が一層進む。
3) サーベイランス
行政だけでなく企業による監視社会が拡大する。
4) ポピュリズムの広がり
極端な政策を主張するポピュリズム(大衆迎合主義)がデジタルテクノロジーを使ってさらに広がるのではと予測。

エルキントン氏はこれからの10―15年は、危険で変革的な年になると予測する。私たちは不確実性と混乱を受け入れなければならないようだ。しかし、新たな経済の仕組みが生まれる時は、古いパラダイムでは全く考えられなかったものが必然的な動きとなる。グリーンスワンはまさにそういう動きだと言う。

そのため、今はまだ「みにくいアヒルの子」であっても将来グリーンスワンに化ける可能性のあるシーズを探すことが重要だとして、エルキントン氏自身、同イベントを主催した大学院大学至善館や同校 CSIセンター長であり、同講演の進行役を務めたピーター・D・ピーダーセン氏らと共に新たなビジネスモデルを研究する「Green Swan Observatory」を立ち上げる予定だ。

今年70歳になるエルキントン氏は、英ロンドンにある持続可能なイノベーションを提案するシンクタンクVolans社をはじめ4つの企業を経営し、世界の70以上の組織の顧問を務め、20冊の書籍を出すなど極めて豊富な経験をもち、今もサステナビリティの最前線に立つ。「企業責任と持続可能な資本主義の世界的権威」と呼ばれ、サステナビリティをけん引してきた識者だが、「仕事人生は始まったばかりのようだ」と話し、講演では新たな時代の変革へ改めて意欲を表した。

箕輪 弥生 (みのわ・やよい)

環境ライター・ジャーナリスト、NPO法人「そらべあ基金」理事。
東京の下町生まれ、立教大学卒。広告代理店を経てマーケティングプランナーとして独立。その後、持続可能なビジネスや社会の仕組み、生態系への関心がつのり環境分野へシフト。自然エネルギーや循環型ライフスタイルなどを中心に、幅広く環境関連の記事や書籍の執筆、編集を行う。著書に「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」「環境生活のススメ」(飛鳥新社)「LOHASで行こう!」(ソニーマガジンズ)ほか。自身も雨水や太陽熱、自然素材を使ったエコハウスに住む。

http://gogreen.hippy.jp/