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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

「おうちコーヒー」で毎日30分、人とつながる時間を 世界一のバリスタが主催するクラウドカフェ

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QAHWA

一杯のコーヒーと誰かの話す声に心がほっとする――。新型コロナウイルス感染症の拡大により、未来への不安や孤独、疲れを感じるという声も増えてきている。そうした心をコーヒーで癒そうと、日本人初のワールド・バリスタチャンピオン、井崎英典氏がオンライン会議システムZoom(ズーム)を使い、誰でも無料で参加できるクラウドカフェ「#BrewHome」を立ち上げた。毎日午後の30分間、コーヒーを片手に乾杯し、井崎氏がファシリテーターとしてコーヒーにまつわる話を気ままにしながら、参加者はチャットでコメントや質問を投げる。世界的な危機の中で、つながりを醸成し、コーヒーの新たな可能性を生み出そうと挑戦する井崎氏に話を聞いた。

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午後1時半、「BrewHome!」と乾杯の声から始まる30分間は、私たちの日常から消えてしまったひと時だ。まるでカフェで他の客と店主が交わす話を聞いているような、はたまたラジオを聞いているかのような、そんな時間が流れる。Zoomで接続しているとはいえ、顔は出さなくてもいい。仕事やほかのことをしながら聞くだけでもかまわない。家族や友人、同僚といった限られた人としか顔を合わさない時間が続く中、偶然居合わせた誰かと「コーヒーを飲みながら読みたい本」や「おすすめのコーヒーカップ」について話したり、ゲストスピーカーとして登場する有名なバリスタの話を聞いたりすることができる。これまでにないコーヒーの楽しみ方だ。

「本当は、4月15日に約1年間温めてきた新規事業を立ち上げる予定でした」。2014年、24歳で世界1位のバリスタとなった井崎氏はコーヒー・コンサルタントとして世界的に活躍する。昨年、自らの会社QAHWA(カフア:東京・世田谷)を立ち上げた。売上高の60%を海外事業が占めており、「新型コロナウイルスのダメージは大きい」と話す。3月末に予定していた新規事業の延期を決め、当初は先行きの見えない不安で落ち込んだという。そんな時、友人のクリエイティブ・ディレクター川嵜鋼平氏から「こんな時だからこそ、ピンチをチャンスに考え、コーヒーで世界平和を実現するアクションを起こしてはどうか」と声を掛けられた。

「世界平和」という言葉は、QAHWAの「コーヒーの力で、平和な世界を、叶えよう」という意味が込められたビジョン「Brew Peace」から来ている。井崎氏は「今こそ、自社の利益を追求するより、コーヒーを通して孤独感や不安を感じている人に、心がほっとする温かみのある空間を創ろう。人とコーヒーの素敵な出合いをプロデュースするという使命を果たそうと考えました」と語る。

そこから、川嵜氏のディレクションの下、不安や孤独を感じている人たちの支えとなり、みんなで一つのテーブルを囲むようにコーヒーを共に飲み、幸せな時間を過ごす「ソーシャル・プロジェクト」が始動。日ごろから共に仕事をするデザイン会社などの協力を得て、10日後の4月9日、クラウドカフェ「#BrewHome」を立ち上げた。Zoomのバーチャル背景に使える15パターンのオリジナル画像も無料で提供している。

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立ち上げから約20日間が経ち、井崎氏は手応えについてこう話す。

「予想以上に多くの方々の心の拠り所になっているようです。『同じ時間に顔を合わせて、同じ瞬間を共有しながらコーヒーを飲む。それだけで心がほっとする』という言葉をいただいています。新規の参加者も温かく迎えられて、まるで擬似家族のような雰囲気。ラジオを聞く感覚で参加していただいたり、参加者同士がチャットでコミュニケーションをとったりと使い方もさまざまになってきました」

4月14日から賛同企業も集めており、ONIBUS COFFEEやHARIOなどコーヒーショップやコーヒー関係の企業のほかサラヤなど26社が名を連ねる。Zoomもこの活動に協力するという。

井崎氏はこれまでに30カ国以上で仕事をし、年間200日以上は海外で仕事をする生活をしてきた。世界中の人が飲むコーヒーの持つ可能性についてこう話す。

「コーヒーは世界で2番目に貿易額の多い商品であり、世界中の人がホッとする感情を共有できるものです。政治的に対立している国に行くこともありますが、コーヒーを囲めば、肌の色も政治も文化も言葉さえも乗り越えて、素晴らしい友情を平等に築くことができます。コーヒーには争いのもとになる『違い』を乗り越え、人をつなげる強い力があります。コーヒーから生まれる、何気ない幸せの連鎖を世界中で育むことができれば、世界から争いはなくなり、世界平和がきっと達成できると思っています」

最後に、「おうちコーヒーで、世界平和を。」というコピーについて触れ、「『おうちコーヒー』と『世界平和』という大きなギャップを感じる言葉を併記したメッセージは、社会の変化がある今だからこそあらゆる人に伝わると思います」と語った。

「人間はテクノロジーの進化によって再発見され、その再発見された人間によって新たな社会ができあがっていく」と言われる。今回の取り組みが、コーヒーの楽しみ方の新たな局面を開いていくかもしれない。

■世界一美味しいコーヒーの淹れ方 〜ワールド・バリスタ・チャンピオン井崎英典が教える6つのポイント〜

小松 遥香 (Haruka Komatsu)

アメリカ、スペインで紛争解決・開発学を学ぶ。一般企業で働いた後、出版社に入社。2016年から「持続可能性とビジネス」をテーマに取材するなか、自らも実践しようと、2018年7月から1年間、出身地・高知の食材をつかった週末食堂「こうち食堂 日日是好日」を東京・西日暮里で開く。前Sustainable Brands Japan 編集局デスク。