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新型コロナ対策サイトで注目 元ヤフー社長・宮坂学副知事が描く「スマート東京」戦略とは

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東京都が今月3日にオープンソースで制作・公開した新型コロナウイルス感染症対策サイトが注目を集めている。元ヤフー社長の宮坂学副知事が率いて、全国自治体と地域課題の解決に取り組む一般社団法人コード・フォー・ジャパン(東京・文京)が制作したサイトだ。すでに全国のさまざまな自治体が活用し、最新動向を伝えることに役立っている。東京都は2020年度を「スマート東京元年」と位置づけているが、宮坂副知事は「東京都のデジタル化は世界的に遅れている。がむしゃらに取り組まなければならない」と語り、都庁でもICT人材の採用を進めるなど新たな具体策を強力に実施していく考えだ。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局=小松遥香)

東京都の現在地

東京都は昨年末、「『未来の東京』戦略ビジョン」を発表した。東京および日本が直面している4つの課題「気候変動」「人口減少と労働力」「グローバル競争」「テクノロジー(第4次産業革命)」を解決し、都のミッションである「都民のQuality of Life(生活の質)の向上」を実現することを目指す。そのために2040年代までに「セーフシティ」「ダイバーシティ」「スマートシティ」を実現していく。このカギとなるのが、デジタル技術の力で課題を解決し、都民サービスや地域の魅力を向上させる「デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進」だ。

これを担う宮坂副知事は2月7日のスマート東京実施戦略の記者発表で「デジタルの力を使って、都民に十分なサービスを届けられているかと考えるとまだまだ心もとない。データの収集においても、一部とれているものもあるが縦割りで独立したかたちだ。IoTデバイスによって都市がまるごとネットワークにつながるスマートシティへと東京都も生まれ変わりたい。『スマート東京』の実現によって、都民のQOL、ウェルビーイングを向上させたい」と語った。

「スマート東京実施戦略」資料

デジタルトランスフォーメーション推進のために掲げる3つの柱は「『電波の道』で、いつでも、誰でも、どこでも、なんでも、何があっても『つながる東京』」「公共施設や都民サービスのデジタルシフト(街のDX)」「都庁のデジタルシフト(都庁のDX)」だ。

5GやWi-Fi環境の整備を行い、台風や災害の際や大勢の人が集まる場所でもインターネットにつながる環境を実現する。スマートフォンの基地局数を大幅に増やす計画で、都が保有する土地を積極的に開放していくという。そして、来年に延期となった東京オリンピック・パラリンピックでも、海外からの来訪者が大会会場だけでなく移動中もインターネットをスムーズに利用できるようにする計画だ。

街のDXについては、教育や医療、産業、交通などにデジタルテクノロジーを活用した最先端技術を取り入れることで行政サービスのレベルを上げていく。世界的に自然災害が深刻化する中、東日本を昨年襲った台風19号の水害を受けて、水防災情報の発信を強化し、防災分野でのドローンの利活用を推進するという。教育現場でも「学び方改革」「教え方改革」「働き方改革」に着手し、都立学校におけるWi-Fi環境の整備や先端技術の活用を進めていく。

「若い人たちに最高のインターネット環境、最高のデジタル機器を届けてあげたい。若い人がデジタルテクノロジーについて丸腰で社会に出ることがないように、必要なスキルや技術を高校生の間に身に付けられるようにしたい」

都庁の抜本的なデジタル変革に着手し、イノベーション創出へ

スマート東京実施戦略の記者発表で、何より宮坂副知事が力を込めて語ったのが都庁のDX推進だ。「東京都の働く環境は国際競争をしている他の世界都市と比べ勝っている、と自信を持って言えない。われわれ自身の働き方をデジタルネイティブに変えていく。まずは働く道具を最先端に変えていきたい」と話した。

都庁内のネットワークを強化し、ウェブ会議やスマートフォンの使用など民間企業が当たり前に行っていることを可能にする。広報活動でも、都民の約80%が使用するLINEを活用するなどして新たな取り組みを行う。実際、今月27日にはLINEを使った相談・情報提供サービス「東京都 新型コロナ対策パーソナルサポート」を開始している。

宮坂副知事はこうして都庁をデジタルガバメントへと変革することで、CS(都民の満足)とES(職員の働きがい)の相乗的な向上を図り、都民の幸せを実現したいと考える。民間との連携の必要性も訴えた。

「これからは新しい挑戦をする民間企業やスタートアップ、社会起業家などと積極的にオープンに話し合い、計画を立てて実行していく。そして単に戦略を実行するだけでなく、PDCAを回し、アジャイル型で、デザイン思考を持って取り組み、オープンイノベーションも進めていきたい。仕事の仕方が大きく変わるので、2020年度はそれに慣れていく元年にもしたい」

この実現に欠かせないのがICT人材の確保だ。現在、東京都のICT部門の職員は全体の0.3%だが、ニューヨーク市やロサンゼルス市は1.2%、パリ市は1.0%、シンガポールは7.0%いるという。宮坂副知事は「人材採用が一番大事だ。世界に追いつき追い越すために体制を強化する」と強調し、ICT専門職員の新卒採用を行うほか、自ら積極的に採用セミナーに参加すると語った。

最初にスマートシティ化を進める地域は、都庁のある西新宿と東京都立大学のある南大沢。デジタルサイネージとWi-Fiが組み合わさったスマートポールの設置や、西新宿にスタートアップが集まる新たな拠点を設け、行政の職員とスタートアップの社員、社会起業家が日常的にコミュニケーションできるような場所をつくることを構想する。

抜本的な改革を伴うスマート東京の実現のために、昨年度に約19億円だった予算を2020年度は8倍以上の約158億円まで引き上げた。宮坂副知事は「イノベーション創出のための予算投入。一部の部署だけが先行して取り組むのではなく全庁的なムーブメントを醸成していきたい」と話し、2020年度以降も持続的に取り組むために将来の財政需要に備えて500億円規模の基金を設置する方針だ。

まずは一部の地域から始める「スマート東京」だが、将来的には東京全域で実装化し、最終的に全国の都市へと展開していく。宮坂副知事は「世界最大の都市であり、日本の首都として、全国の自治体のお手本にならないといけない。デジタルの力で各地域の活性化と課題解決を行い、全国の共存共栄と日本の持続的成長を実現したい」と先を見据える。

小松 遥香 (Haruka Komatsu)

アメリカ、スペインで紛争解決・開発学を学ぶ。一般企業で働いた後、出版社に入社。2016年から「持続可能性とビジネス」をテーマに取材するなか、自らも実践しようと、2018年7月から1年間、出身地・高知の食材をつかった週末食堂「こうち食堂 日日是好日」を東京・西日暮里で開く。前Sustainable Brands Japan 編集局デスク。