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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

パナソニック、持続可能なシーフードの授賞でチャンピオンに

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水産業に関わる国内外のさまざまなプレイヤーが集う「東京サステナブル・シーフード・シンポジウム2019」が7-8日に開かれ、今年新設された「第1回ジャパン・サステナブルシーフード・アワード」の表彰式が行われた。単独プレイヤーを表彰するイニシアチブ部門でチャンピオンに輝いたのは、一見水産業とは関わりが少ないパナソニック。実は他社に先駆けて社員食堂に認証取得シーフードを継続導入しているだけでなく、同社同様に漁業とは関係がないほかの企業の社員食堂へ持続可能なシーフード導入のノウハウを伝授するなど、活動の広がりが評価された。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局=沖本啓一)

シーフードレガシー(東京・中央)の花岡和佳男代表はアワードの設立趣旨を「日本でサステナブルシーフードの新しい取り組みがどんどん始まっている。それらの取り組みを一層強化、活性化すること」と説明した。環境課題の先進企業パタゴニアをアワード・パートナーとし、水産業に関わる一線の専門家8人が審査員を務める。アワードは単独の個人や組織を表彰する「イニシアチブ部門」と、複数の個人や組織の協働を表彰する「コラボレーション部門」の2部門からなる。

社食を活用した課題の発信、高く評価

パナソニックの喜納厚介氏

イニシアチブ部門のチャンピオンに選ばれたのはパナソニックだ。その取り組みは「社員食堂へのサステナブルシーフードの継続導入拡大推進プロジェクト」。同社は2018年3月から、社員食堂にMSC・ASC認証取得の水産物を導入している。

社員食堂に認証取得水産物を導入する取り組みの先駆けとなり、給食サービス業界にCoC認証取得の流れをつくったという。大企業が抱える従業員というバイイングパワーをうまく活用し、さまざまな企業にそのノウハウを伝授、また一般向けに雑誌広告でサステナブルシーフードを啓発、発信するなど、活動の広がりが高く評価された。

現在、同社の25拠点の社食で認証取得水産物を導入している。来年度中に全社員食堂、約100拠点にサステナブルシーフードを導入することを目指す。同社ブランドコミュニケーション本部CSR社会文化部の喜納厚介氏は「受賞理由は今後の展開への期待だと受け取っている。2020年のオリンピック、25年の万博をアクセルとして活動が盛り上がり、30年のSDGs達成目標年には社員食堂はもちろん、一般でもサステナブルシーフードが当然になっていれば」と今後の啓発活動に意欲を見せた。

「食のサプライチェーン構築のお手本」

プレゼンターの生田與克氏(左)と日本生協連の松本哲氏

コラボレーション部門は同率で2つのプロジェクトがチャンピオンに選出された。「インドネシア・スラウェシ島 エビ養殖業改善プロジェクト(AIP)」は日本生活協同組合連合会(日本生協連)、WWFジャパン、PT.Bogatama Marinusa(BOMAR、インドネシア・サラタン)、WWFインドネシアの4組織からなるプロジェクトだ。

日本生協連はASCの基準に基づいて持続可能なブラックタイガーの養殖業を目指す取り組みの支援を、18年7月に始めた。課題を特定し、19年8月までに、ASCの基準で必要な養殖池のマングローブ28ヘクタールのうち約40%の12ヘクタール、4万本以上の再生を行った。さらに対象商品1点に対し3円がプロジェクト資金として寄付される「ブラックタイガー養殖改善協力金」を設置。将来的にはほかの養殖池へのASC認証取得拡大も目指す。

地域の環境と経済的なサステナビリティだけでなく、日本の消費者への啓発と寄付金を通じた巻き込み、サプライチェーンの最上流から消費者までをつなげた「サステナビリティに配慮した食のサプライチェーン構築のお手本」だと主催者コメントが発表された。

志ある漁業者と先端ITのコラボレーション

ライトハウスの新藤克貴氏(中)と海光物産の大野和彦氏(右)

もうひとつのコラボレーション部門チャンピオンは「日本初の次世代トレーサビリティーシステム構築プロジェクト」。海光物産(千葉・船橋)、大傳丸(同)、中仙丸(同)という船橋の「江戸前漁船」とITスタートアップ起業、ライトハウス(同)の協働だ。

資源の評価や管理に必要な「いつ」「どこで」「誰が」「何を」「どうやって」獲ったのかという漁獲データを漁業者が簡単に記録分析できるツールをライトハウスが開発。海光物産が実際に現場で利用しながら改良を重ねた。データとその魚を獲る理由をストーリーにして、漁業の持続可能性や安心安全を消費者に伝えられるだけでなく、漁獲情報を明らかにすることで違法・無報告・無規制(IUU)漁業の撲滅にもつなげた。

「技術的にも資金的にも確立の難しいトレーサビリティを、志ある漁業者と先端ITのコラボレーションで解決を目指している点、導入社が増え、インパクトが増加しつつある点で今後の広がりにも期待がもてる」と授賞理由が明かされた。

今回のアワードで高く評価された「業界を超えた課題の認識拡大」「確固とした持続可能なサプライチェーンの構築」そして「テクノロジー」と「未来への志」。国内の水産業にいま求められているものが的確に表れ、その求めに応える取り組みが現れている。

沖本 啓一(おきもと・けいいち)

フリーランス記者。2017年頃から持続可能性をテーマに各所で執筆。好きな食べ物は鯖の味噌煮。