米国で使用制限された農薬が日本で解禁に
セイヨウミツバチ
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国連が設置した科学者組織「IPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム)」の報告書によると、ハチなどの生物がもたらす経済的利益は、世界全体で最大年5770億ドル(約64兆円)に上るとしている。農林水産省は12月25日、ネオニコチノイド系農薬の一種である殺虫剤スルホキサフロルを農薬として新規登録した。同剤は、ミツバチへの毒性が強いことから、米国では厳しく使用制限され、フランスでも一時禁止とする予備判決が下されている。これを受け、国際環境NGOグリーンピース・ジャパン(東京・新宿)は声明を発表し、厳しく批判している。(オルタナ編集部=吉田広子)
20年ほど前から、世界各地でミツバチが大量死する蜂群崩壊症候群(CCD)という現象が起きている。15カ国53人の科学者からなる「浸透性農薬タスクフォース」(TFSP)は2014年、ネオニコ系農薬をはじめとした浸透性農薬がミツバチ減少の要因であると結論付けた。ネオニコ系農薬は「神経毒性」「浸透性」「残留性」の特徴を持つ。農作物の受粉を助けるミツバチの大量死は、食糧問題にもつながる。
国連が設置した科学者組織「IPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム)」の報告書によると、ハチなどの生物がもたらす経済的利益は、世界全体で最大年5770億ドル(約64兆円)に上るとしている。
世界各国で規制が進む
欧州委員会は2013年から、ネオニコ系農薬3種(クロチアニジン、イミダクロプリド、チアメトキサム)の使用の暫定禁止措置を継続している。2018年春をメドにネオニコ系農薬3種は全面使用禁止(温室を除く)になる予定だ。
今回日本で農薬に登録されたスルホキサフロルは、ネオニコ系農薬と同様の浸透性農薬でありながら、物質の構造から別系統に分類するという見方がある。2018年9月からすべてのネオニコ系農薬が全面禁止されるフランスでも、スルホキサフロルは承認を受けていた。だが、環境NGOが行政訴訟を起こし、2017年11月に一時禁止とする予備判決が下された。
米国では一時禁止されていたものの、2016年10月に使用条件を厳しくしたうえで再登録された。特にミツバチへの影響が懸念されるかんきつ類やウリ科野菜(キュウリなど)への使用は禁止され、リンゴやナス科野菜(トマトなど)の開花期の使用を禁止されている。
日本でスルホキサフロルが使用される作物は、キャベツ、だいこん、きゅうり、トマト、ミニトマト、レタス、かんきつ、なし、りんご、稲である。米国のように開花期の使用制限は設けられていない。
日本でスルホキサフロルの登録申請を行ったのは、ダウ・アグロサイエンス日本(東京・品川)、日産化学工業(東京・千代田)、北興化学工業(東京・中央)の3社だ。
パブリックコメントに多くの反対意見
これまでスルホキサフロルの残留基準値に関するパブリックコメントは2回実施され、第1回は537件、第2回は386件の意見が寄せられた。その多くが反対意見で、第2回のうち賛成意見は16件にとどまった。
グリーンピース・ジャパン「食と農業担当」の関根彩子氏は、「私たち消費者や養蜂家、科学者を含む市民は、1000件以上のパブリックコメントや約8000筆の署名を通し、厚労省に対して危険な農薬はいらないことを何度も訴えてきた。今回の決定は、その市民の度重なる声や科学的意見を無視するもので、容認しがたい結果である」と批判する。
関根氏は「スルホキサフロルは、ミツバチに毒性が強いことから米国でも使用が制限されている農薬であり、発達段階にある子どもにも悪影響を及ぼす可能性がある。厚労省は、無視できないリスクがあるにも関わらず広範囲にわたる残留基準を決め、また、農林水産省は、ミツバチへの毒性に関する情報を充分開示しないまま登録を決めている。政府は市民への説明責任、そして、健康や環境を守る責任を果たしていない。政府は、危険な農薬の使用拡大をやめ、生態系の力を生かす農業を支援するべき」と訴えている。