
最近、メディアで「電気大国」という言葉を見るようになってきた。多くの電力を発電し使うだけでなく、再生可能エネルギー(再生エネ)電源の利用で脱炭素に結び付けていることがポイントである。圧倒的に他国を抑え、この“大国の称号”をわが物とするのが中国である。
今回は、世界一の電気大国、中国の抜きん出た実力を考えてみる。
世界の電力需要のおよそ3分の1が中国
電気大国の定義としてまず思いつくのは、電気使用量の大きさである。下の図は、イギリスの著名なエネルギー関連のシンクタンク、Emberによるもので、電力需要の大きい国々の世界でのシェアを表している。

長方形全体が世界の電力需要で、左側の紺色部分が需要の多い国や地域、右の薄い青が残りの国となっている。
最も巨大な電力需要国は中国で、32.6%と実に全体の3分の1近くを占める。5年前には28%だったので、毎年1ポイントずつシェアを伸ばしている計算になる。2位以下は、米国でも14.3%と中国の半分以下、EU8.8%、インド6.7%と続く。ちなみに日本は6番目で3.3%である。上位の8つの国と地域だけで世界の4分の3の電力を使っていることも分かる。
しかし実は、現代の電気大国を決める条件は、単なる発電や需要の量だけではない。もう一つ「電化」の要素が欠かせない。
急激に電化を進める中国と再生エネ電源の新規導入
電化とは、英語でelectrificationである。
ここではもちろん、電気が通っていない所に電線が引かれるということではない。先進国を中心に、化石燃料を使う機械や設備などを、電気で動かすものに替えることを意味する。背後にあるのは、化石燃料からの脱却、つまり脱炭素化だ。分かりやすい例で言えば、交通部門でガソリン車をBEV(バッテリー式電動自動車)にしたり、家庭や産業用などの熱源をヒートポンプに置き換えたりすることである。

上のグラフは同じEmberのもので、欧州(紺色)、米国(水色)、中国(赤)の電化率の推移を示している。この3つは、いずれもこのところ再生エネの導入が進んでいるが、電化率では大きな違いがあることが分かる。
欧州と米国が20%前半でほぼ固定しているのに対し、中国は2000年の10%強から30%直前まで急激に伸ばしている。欧州と米国は現状の電力を再生エネに替えてきてはいるが、交通や熱分野での電化が進んでいない一方、中国はBEVの導入で抜きん出ているように、電化そのものに手が入っているのである。
さらに、中国は再生エネ電源の拡大でも世界一を続けている。2025年には、世界の太陽光と風力発電を合わせた新規導入容量が過去最高の814GWを記録した。中国はこのうち半分以上を占めており、比較する国のないトップである。
電化関連の技術でも圧倒する中国
電気を再生エネで作り、それを利用する。そして、電気を使う設備や施設への転換を加速化するところまで、中国は国の政策として推進し続けている。
中国のすごいところは、そこでの技術や生産手段、製品全体を自国でカバーし、他国を制するシェアをすでに獲得しているところである。例えば、太陽光発電での中国製のパネルやパワコン、風力発電のナセル、水素製造に欠かせない水の電気分解設備、BEVの製造など、世界シェアの半数超えは当たり前で、8割から9割のシェアも珍しくない。
中でも再生エネ電源の導入拡大の切り札といわれる、長時間エネルギー貯蔵システムではほぼ独占状態にある。長時間エネルギー貯蔵とは、通常4時間分以下の電力しか蓄えられない従来のリチウムイオン電池とは違い、数時間から数日にわたって電力を蓄え、放出することができる技術のこと。最終的な脱炭素化のカギを握るとされている。

上のグラフは、2025年までの導入実績と2028年までの予測を示している。2025年は世界で過去最高の9.6GWhを記録し、そのプロジェクトのほぼすべてが中国であった。もちろん導入されている技術の多くも中国のものである。グラフは世界での導入を表すためのものであるが、ほぼ中国を示すオレンジ色で埋め尽くされている。
技術開発、生産、導入、利用まで、全てを網羅した中国の“電気大国ぶり”は、いまや追随困難なレベルにまで達している。近い将来、最終エネルギーの過半数を電力で賄う初めての国になると見られている。
日本でも、中国製のパネルが美しい国土を汚すなどと、再生エネの導入へのハードルばかり考えるのではなく、最終的な脱炭素に向けての前向きな施策に注力すべきである。今や世界一を達成した他国に短期間で追いつくことは不可能になったが、かの国の戦略に素直に学ぶ気持ちは捨ててはならないと考える。
北村 和也(きたむら・かずや)
日本再生可能エネルギー総合研究所代表、日本再生エネリンク代表取締役、埼玉大学社会変革研究センター・脱炭素推進部門 客員教授
民放テレビ局で報道取材、環境関連番組などを制作した後、1998年にドイツに留学。帰国後、バイオマス関係のベンチャービジネスなどに携わる。2011年に日本再生可能エネルギー総合研究所、2013年に日本再生エネリンクを設立。2019年、地域活性エネルギーリンク協議会の代表理事に就任。エネルギージャーナリストとして講演や執筆、エネルギー関係のテレビ番組の構成、制作を手がけ、再生エネ普及のための情報収集と発信を行う。また再生エネや脱炭素化に関する民間企業へのコンサルティングや自治体のアドバイザーとなるほか、地域や自治体新電力の設立や事業支援など地域活性化のサポートを行う。













