• 公開日:2026.04.08
「食べるお皿」で隠れ食品ロスに挑む 学生起業家・吉野真由の思い
  • 横田 伸治

日本の食料自給率は低迷する一方で、大量の食品ロスが発生している。この大きな矛盾に中学生の頃から向き合い続け、学生向け社会起業家育成プログラム「ゼロイチ」(経済産業省主催・ボーダレス・ジャパン運営)のファイナルピッチ2026で最優秀賞を受賞したのが、北海道大学文学部で学ぶ吉野真由さんだ。

生産現場から出る「隠れ食品ロス」を活用した食べられるお皿「オカラダサラダ」の開発と、未利用食材のマッチングプラットフォームの構想。エシカルな消費を「おいしさ」で広げようとする吉野さんに、事業の裏側と今後のビジョンを聞いた。

interviewee
吉野 真由

北海道大学 文学部 人文科学科

中学3年次から食品ロスの削減をライフワークと決め、大学では環境社会心理学を専攻。
文学部生でありながら、道内の食料生産地を40カ所以上巡り、食品ロスの実態を研究。
環境問題・社会問題への「我慢」「義務」といった固定観念を壊し、「新しい」「美味しい」といったポジティブな側面から、間口を広げる仕掛け作りを考える。

コロナとダイエットから食を考えた

——本日はよろしくお願いします。まずは簡単な自己紹介と、現在の活動の概要を教えてください。

北海道大学で、環境問題と行動変容について、環境社会心理学の視点から研究しています。授業でアプローチを学びつつ、自分でも北海道の事業者を回って現場の声を聴いています。活動としては、未利用の野菜や脱脂粉乳、おからを使った「オカラダサラダ」という食べるお皿を開発しています。

捨てられてしまうはずの食材でお皿を作り、捨てられてしまうはずの容器の代わりにお皿ごと食べてもらおうというプロジェクトです。

食べるお皿「オカラダサラダ」

——「食べるお皿」はとてもユニークなアプローチですね。そもそも、食品ロス解決を志したのはなぜでしょうか。

横浜に住んでいた中学時代、「ダイヤモンドプリンセス号」が来航して、目の前でコロナ禍に直面したんです。もちろん、中学の卒業式も、その後の高校の授業もなくなってしまいました。スーパーでは品切れが続出し、自炊のための買い物に行っても食べ物が手に入らない状況を目の当たりにしました。そこで初めて、日本の食料自給率の低さや、物流が止まった時の二次被害の大きさに恐怖を覚えました。

——当たり前だった食のインフラが崩れる怖さを、身をもって実感されたのですね。

はい。また、私自身は過度なダイエットで健康を崩していた時期があり、「食べる」こと、「食べられない」ことへの関心が高かったということもあります。捨てられるくらい食べ物があるこの国で、食べたくても食べられない人のために、自分にできることはないかと考えたんです。もともと曽祖父が漁師だったり、祖父母が家庭菜園をやっていたりと食に触れる機会が多かったことも影響していると思います。

——高校時代はどのように行動を起こしていったのでしょうか。

パタゴニアが開催している気候変動に関するオンラインワークショップ「クライメート・アクティビズム・スクール」に参加したことが大きいですね。そこで「まず仲間を増やすこと」の重要性を学び、同級生を誘ってサークルを立ち上げ、フードドライブなどを実施しました。ただ、コロナで思うように活動できなかったし、周囲からは「意識高い系」と一線を引かれてやや孤独を感じることもありました。

——その悔しさもあって、食料の一大生産地である北海道へ進学されたのですね。

そうです。また、なぜ「人は食品を残してだめにしてしまうのか」、「分かっていても行動が変わらないのか」という疑問があったので、それを探求できる環境社会心理学の研究室がある北海道大学に行きたいという思いもありました。

美しい小麦畑の裏で傷付く生産者を見て

——大学入学後、現在の活動にたどり着くまでの経緯を教えてください。

2023年4月に入学してすぐ、学生の自主的なプロジェクト活動を支援する学生団体と出会いました。5月には自分でチームを作り、先輩の紹介でとにかく道内の生産者を回り始めました。40カ所くらい回ったのですが、現場ではやはり未利用の食材が多く、「本当は捨てたくない、食べてほしいんだ」という切実な声を聴きました。

——現場に行ったからこそ見えてきたものは多そうです。

特に、関東圏で見てきた小規模農業とは違う規模感に驚きましたね。帯広の小麦農家ではIoT機器を駆使した「アグリテック」を間近で見たり、シカ猟師さんの車に乗せてもらってシカをさばいたり、漁師さんと漁網を直して一緒に船に乗ったりと、一次産業のリアルに触れることができました。

そして、一面がきらきらと金色に輝く美しい畑を見たからこそ、それが未利用のままロスになることに生産者さんが傷付いていること、そしてどこでどうロスが生まれているかが見えないことが大きな問題だと感じました。

ソーシャルビジネスのジレンマを仲間と乗り越える

——そこから「オカラダサラダ」の開発にどうつながったのでしょうか。

1年生の冬に出会った酪農家さんから「脱脂粉乳が余っていて困っているから新しい活用の仕方を考えてほしい」と相談されたことがきっかけになりました。もともと料理が好きだったことと、他の生産者さんからも「うちの野菜を使ってほしい」などと言われていたので、おからと脱脂粉乳、規格外野菜を使ってお皿をつくろうというアイデアが1年生の3月頃にまとまりました。

——開発で苦労したことはありますか?

最初はおからと脱脂粉乳だけで作ろうとしましたが、味が淡白すぎたため、規格外野菜を入れることにしました。あとは、お皿が分厚すぎて、お皿だけでおなかいっぱいになってしまうなどの苦労もありましたが(笑)、まずはできることからものを作ろうと、試行錯誤を重ねてきました。

——実際に使用した例はすでにあるのでしょうか。

札幌で開催される各種イベントで、プラスチック皿など使い捨て容器のごみが多いことに気付いたのをきっかけに、2024年の「NoMaps」の一部エリアでお皿を初めて提供しました。その後も2025年の「Hokkaido Innovation Week」や企業の忘年会などのケータリングで容器として使っていただき、これまでに約300食分を提供しています。

——社会起業家向けのプログラム「ゼロイチ」に参加した経緯と、印象的な経験について教えてください。

これまで他の起業プログラムにも参加しましたが、(ピッチコンテストなどでは)どうしてもソーシャルビジネスより、経済合理性を得やすいディープテック系の方が評価されやすいんです。オカラダサラダのビジネスモデルには改善の余地があると思っていましたが、その組み立て方が自分だけでは分からず悩んでいたところ、社会課題に特化した「ゼロイチ」をSNSで知って、参加することにしました。

一番の収穫は、高校時代には得られなかった、同じ熱量を持つ仲間との出会いですね。忙しくて後回しにしがちなことも、仲間から刺激をもらいながら進めることができました。最優秀賞を受賞したことで、「自分がやらなきゃ」と責任感を再確認した思いです。今後の事業化に向けた覚悟が、改めて決まったなと感じています。

誰もが「勝手に」社会貢献できる仕組みを

——未利用食材のマッチングプラットフォームも開発中ですね。

はい。現在公開されている食品ロスの統計は、出荷以降に廃棄されたものだけが対象。生産者さんの段階でロスになっているものは(数字上)隠れてしまっていて、それが約200万トンくらいあるのではないかと言われています。活用できる食材があっても、外から実態が分からない状態なので、農家などの生産者さんに、何がどう廃棄になるかを登録してもらう仕組みを作ります。いつ・どこで・何が・なぜ・どれくらいロスになっているかを、ビッグデータとして持っておくことで、最適な活用方法とのマッチングが可能になると考えています。

——そうした活動を通して、消費者の行動をどう変えていきたいと考えていますか。

「未利用食材をそのまま売れたらいい」と考えたこともあるのですが、値崩れが起きる懸念があるし、加工しても価格が上がってしまって(消費者に)選ばれないことがあることを現場で学びました。だからこそ、未利用食材を直接届けるのではなく、お皿にすることで、環境問題に関心がない人に手に取ってもらい、「勝手に」社会問題に貢献してほしい。そして、少しでも食品ロスに関心を持つ人が増えたら。

食べるお皿は行動変容のためのアプローチであり、つながりづくりのきっかけでもあります。

——最後に、今後目指す未来像と社会へのメッセージをお願いします。

「食べられない」人を減らすことが目標です。そのために、今まで廃棄されていた食品を、足りないところへの備蓄に回せる社会をつくりたいと思っています。具体的には、プラットフォームで集まった情報を生かし、未利用食材で非常食や保存食を作り、被災地などに届けられる状態を目指します。

活動の軸は、社会課題に関心のない人にまで届くものを作ること。これは私の力だけでは解決できないので、同じ志を持っている人や、すでに取り組みをしている方々とどんどんつながっていきたいです。

「オカラダサラダ」インスタグラム
http://instagram.com/okaradasarada
written by

横田 伸治(よこた・しんじ)

サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者

東京都練馬区出身。毎日新聞社記者、認定NPO法人カタリバ職員を経て、現職。 関心領域は子どもの権利、若者の居場所づくり・社会参画、まちづくりなど。

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