
再生可能エネルギーの世界的な業界団体連合であるグローバル・リニューアブルズ・アライアンス(GRA)は3月12日、中東情勢の悪化によるエネルギー価格高騰を受けて声明を発表した。再エネへの移行を緊急で加速するよう各国政府に求め、優先的に実行すべき5つのアクションを提示したものだ。
GRAは声明の中で、再エネの需要を明確に示すことが投資の促進につながると指摘する。電力利用者である企業も、再エネ調達の意向を示すことで、再エネへの移行を後押しできる。声明の内容は政策立案者向けで、やや専門的な部分もあるが、企業活動の基盤である安定したエネルギー供給について考える材料にもなるだろう。
GRAとは
GRAは、6つの国際的な再エネ業界団体が集まり、2022年の国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)で設立された。以来、再エネへの移行を推進するため、共同で政策提言などを発信している。
| GRAメンバー ・Global Wind Energy Council(GWEC):風力 ・Global Solar Council(GSC):太陽光 ・Green Hydrogen Organisation(GH2):グリーン水素 ・Long Duration Energy Storage Council(LDES Council):長期エネルギー貯蔵システム ・International Hydropower Association(IHA):水力 ・International Geothermal Association(IGA):地熱 |
今回の声明は、中東情勢の緊迫化に伴うエネルギー危機によって、化石燃料に依存したエネルギーシステムのぜい弱性が改めて露呈したと指摘する。その上で、各国政府に対し、今回のエネルギー価格高騰を転換点と捉え、再エネへの移行を早急に進めるよう強く求めている。
優先すべき5つのアクション
1970年代のオイルショック、ロシアのウクライナ侵攻に伴うガス供給ショックなど、化石燃料に依存していることによるエネルギー危機は繰り返されてきた。GRAは今回の声明で、エネルギー危機をこれ以上繰り返さないために各国政府が優先的に取り組むべき5つのアクションを提示した。
1. 緊急承認の迅速化
再エネや短期・長期のエネルギー貯蔵に関するプロジェクトの承認手続きを早急に合理化する。これにより、規制当局による承認を加速し、今後3年間で設備容量を大幅に増やす。
2. 送電網と電力貯蔵のボトルネック解消
送電網と電力貯蔵のシステムを拡大し、最新化・最適化する。これにより、増加する再エネの発電容量に対応し、供給を確実にし、利用者が再エネを低コストで最大限活用できるようにする。さらに、再エネの優先給電を保証することで、送電網に接続するための順番待ち期間を大幅に短縮し、速やかな接続を可能にする。
3. 早急な資金動員
再エネ、エネルギー貯蔵のプロジェクトや関連するインフラへの投資リスクを減らし、官民の投資を促す。具体的には、優遇金利や優先的融資を導入する、金融機関の融資制限を緩和する、再エネ向けの融資枠を設ける、炭素排出量の多い産業から資金を振り向ける、といった方法がある。
4. 電化の促進
運輸、熱利用、産業分野などにおけるエネルギー消費を、化石燃料から電力に移行し、一貫したエネルギーシステムを構築するための国家戦略を策定・実行する。それを支えるのが、フレキシビリティ市場(電力の需給を調整する力を売買する市場)やデマンドレスポンス(電力の需給を調整するために利用者が使用量を制御する仕組み)、短期・長期の蓄電だ。なお、再エネによる直接の電化が難しい業界については、グリーン水素を活用するのが有効。
5. サプライチェーンの拡大
明確なマイルストーンを伴う強固な産業戦略を策定し、再エネ・送電・蓄電関連設備を製造するサプライチェーンを強化する。さらに、明確な需要シグナル(需要があることを示す合図)やオフテイク(長期購入)の枠組みを整備し、プロジェクトの見通しを立てやすくし、長期的な収益を確実にする。これにより、製造能力や労働力への投資を促す。
業界団体トップ、強い言葉で移行求める
声明の発表にあたり、GRAメンバーである各業界団体のトップが下記のようにコメントを寄せている。
| 「中東で今再び起こっている軍事衝突は、人命に甚大な影響を及ぼすとともに、エネルギー価格の急騰を引き起こしている。消費者は物価高騰にさらされ、世界経済の先行きは極めて不確実になっている」 「欧州やアジアが不安定な化石燃料輸入に依存していることが、いかに無防備か、改めて露呈している。ここから言えることは明確だ。政策立案者は、他国に妨害されたり、人質のように使われたりする恐れのある化石燃料への依存度を減らす動きを加速しなければならない。そして、エネルギーシステムを、風力などクリーンで効率的な国産の再エネに移行しなければならない」 「不安定な化石燃料市場への依存は、エネルギー安全保障を妨げる大きな要因だ。各国はこの状況の解消に注力する必要がある。この課題は、ロシアのウクライナ侵攻ですでに課されていたものだ。いったい何度の警告が必要なのだろう」 GWEC(風力)CEO ベン・バックウェル氏 |
| 「エネルギーシステムの混乱は現実的な問題を突きつける一方、各国政府が国民の安全、レジリエンス、自立性を高める解決策に一層力を入れるチャンスでもある。 数カ月以内に変化をもたらし、今後何年にもわたって成果を生み出すことのできる、明確かつ即効性のある対策は存在する。外国産のエネルギーをいくら貯蔵したとしても、エネルギー安全保障は実現しない。 各国は、国内でエネルギー生産の拡大を始める必要がある。太陽光発電も、中東での戦争によって世界のエネルギーシステムに開いた穴を埋められる、迅速でコストが安く、拡大可能な解決策の一つだ」 GSC(太陽光)CEO ソニア・ダンロップ氏 |
| 「ホルムズ海峡に首根っこを押さえられていない世界経済を想像してみてほしい。 水力発電は、複雑な国際サプライチェーンに依存しない。水と高さがあれば、それがエネルギーになり得る。風力と太陽光を活用しているのであれば、水力はその安定性とレジリエンスを支える基盤となる。 さらに、揚水発電を使えばそうした電力を無駄なく活用できる。再エネ移行の一環として水力発電の導入を加速することは、単なるエネルギー戦略にとどまらない。リスクの低減、物価の引き下げ、経済の安定、長期的な国家安全保障にもつながるのだ」 IHA(水力)CEO エディ・リッチ氏 |
| 「今回のエネルギー危機は、現在のエネルギーシステムが、変動する世界の燃料市場の影響をいかに受けやすいかを改めて浮き彫りにしている。 エネルギーシステムを時代に合わせて変えることが急務であるのは明らかだ。各国は、必ずエネルギー戦略に長期エネルギー貯蔵システムを組み込むべきだ。 そうすれば、国産の再エネを何時間も、何日も、何週間も、それ以上でも貯めておける。レジリエンスを高め、価格変動の対策をし、輸入化石燃料への依存度を減らせるのだ」 LDES Council(長期エネルギー貯蔵システム)CEO ジュリア・サウダー氏 |
| 「中東での紛争とホルムズ海峡の混乱によって、現在の肥料生産がいかに化石燃料の価格変動や供給不安の影響を受けやすいかが、改めて浮き彫りになった。 これは、世界の食糧安全保障に直接影響する問題だ。 グリーン水素やグリーンアンモニアは、国産の再エネ、あるいは幅広い貿易相手国から調達するエネルギーを利用して作られる。そのため、化石燃料の輸入や不安定なサプライチェーンへの依存を減らすための現実的な道筋となり得る。 とはいえ、大規模にこの移行を実現するには、明確な需要シグナルと確かな政策が必要だ。 次のエネルギー危機が起こる前に投資を最大化し、生産を拡大するため、各国政府は早急に政策の枠組みと需要のメカニズムを整えなければならない。 化石燃料由来の肥料を少しずつでもグリーンアンモニアに置き換えれば、紛争や物流の要所、気候変動に左右されない食料システムに一歩ずつ近づける」 GH2(グリーン水素)CEO ジョー・ウィリアムズ氏 |
| 「再エネは単なる脱炭素に向けた手段ではなく、エネルギー安全保障の基盤だ。風力、太陽光、地熱などの活用を加速すれば、各国政府は化石燃料によるエネルギー危機の繰り返しを断ち切り、強じんな経済を築くことができる」 IGA(地熱)CEO マリット・ブロマー氏 |
化石燃料に頼らないエネルギーシステムの構築は、国家安全保障の課題でもあると、GRAは強く警鐘を鳴らす。
今回の中東情勢悪化をきっかけに、再エネへの移行が世界的に加速するか。各国政府には迅速な行動が求められている。
声明の全文はこちらから
GRA launches Renewables Action Plan to break the energy crises cycle
茂木 澄花 (もぎ・すみか)
フリーランス翻訳者(英⇔日)、ライター。 ビジネスとサステナビリティ分野が専門で、ビジネス文書やウェブ記事、出版物などの翻訳やその周辺業務を手掛ける。












