
産官学民のリーダーが一堂に会し、社会課題解決と地域創生の最前線を議論する「第8回未来まちづくりフォーラム」が、2026年3月に東京・渋谷のSHIDAXカルチャーホールで開催された。同フォーラム実行委員会が主催、SDGs研究所が運営し、内閣府をはじめ9つの関係府省のほか、全国知事会などが後援、サステナブル・ブランド ジャパンが特別協力した。
今年のテーマは「ビヨンドSDGsとウェルビーイング ― 次世代の日本モデルを描く」。国連において2030年以降の「ビヨンドSDGs」の枠組み検討が本格化する中、持続可能性に加えてウェルビーイング、そして地域の「稼ぐ力」をいかに両立させるかが問われている。こうした現状を踏まえ、熱気に包まれた第1部プレナリー・セッションの模様を中心に、具体的な協創事例が共有された本フォーラムのレポートをお届けする。
地方創生と「社会OS」のアップデート

開会の挨拶に登壇したSDGs研究所コミッショナーの志太勤一・シダックス代表取締役会長兼社長は、約30年前に掲げた「社会課題解決型企業」という自社理念に触れ、「30年前は『そんな甘いことを言っても経営は成り立たない』と批判されたが、信念を変えずに言い続けてきた。理念は現実を変える力を持つということだ」と語り、持続的成長の仕組みづくりを宿命とする企業の力が地域課題解決に不可欠だと呼びかけた。
続いて、内閣官房 地域未来戦略本部事務局 内閣審議官の岸田里佳子氏が登壇し、戦略産業クラスターや地場産業支援など、政府の最新の地域未来戦略を解説。また長野県知事の阿部守一氏はビデオ登壇し、都道府県初となった気候非常事態宣言などの先進的な取り組みを紹介。「今必要なのは、個別政策の改良ではなく、明確な国家ビジョンのもとで社会の基本設計そのものを更新すること、いわば社会のOSをアップデートすることです」と力説し、抜本的な制度改革を提言した。
岡山県真庭市長の太田昇氏は、中山間地域の挑戦として「東京にないもの、真庭にあるものを最大限生かしていく」と宣言し、「真庭ライフスタイル」の実践例を報告した。木材の使い切りによるバイオマス発電や、生ごみ・し尿を液肥化する一石三鳥の取り組みを紹介しつつ、地方分散と地域住民の主体的な活動の重要性を熱く語った。
元東京大学総長で三菱総合研究所理事長の小宮山宏氏は、「日本は資源のない国だからというのは古い話。再生可能エネルギーと都市鉱山、バイオマスで日本は十分自給可能だ」と断言し、資源自給・生涯成長・住民出資による「プラチナ社会」のビジョンを示した。
未来まちづくりフォーラム実行委員長の笹谷秀光氏は、「SDGsは規定演技だが、ビヨンドSDGsは自由演技」と表現。「サステナビリティは整理しないと動かない」と指摘し、ESG項目とマテリアリティ、SDGsをひも付けて社内浸透を図る実践的フレームワークを紹介した。
価値創造ストーリーには泥臭い共感が必要

第1部後半のパネルディスカッションでは、「ビヨンドSDGsとウェルビーイング:未来を動かす人・地域・企業の役割」をテーマに白熱した議論が交わされた。
日本経済団体連合会常務理事の長谷川知子氏は、「未財務(非財務)が将来の財務価値につながる『価値創造ストーリー』を、日本発で皆さんと一緒に作っていきたい」と強調。KDDI地域共創室室長の齋藤匠氏は、豊岡市での「コウノトリ育む農法」を支えるスマート農業の事例を挙げ、収量減少という課題をイオン水散布で克服したプロセスを紹介。「企業理念やフィロソフィーの浸透が、結果としてウェルビーイングを意識した行動を生むのではないか」と語った。
電源開発 技術開発部 茅ヶ崎研究所特任研究員の鳥羽瀬孝臣氏は、専門家と市民が本音で語り合う「チガエコトーク」を紹介し、「形だけのSDGsやグリーンウォッシュを極力排除したい。『本気のSDGs』として、”think globally, act locally”が重要だ」と説いた。サステナビリティコンサルティングを担うkarna代表取締役の森本美紀子氏は、「短期的な利益確保とサステナビリティを統合させるには、攻めのガバナンスと、人を中心としたウェルビーイング経営が鍵になる。異なる立場の人々が対話することで自由度が高まる」と語った。
ハフポスト日本版編集長の泉谷由梨子氏はメディアの視点から現代の課題に言及。「AIがそれらしいストーリーを簡単に出してくる時代だからこそ、きれいに整った表側だけでなく、どんな涙を流したのか、どんな苦労があったのかというリアルな部分を見せてほしい。そこにしか共感の価値はない」と発言し、人間味のある泥臭いストーリー発信の重要性を訴えかけた。
理念を事業へと昇華させる
午後からは、理念を具体的な事業へと落とし込むための「ビジネスインパクト・セッション」(第2部)と、「スペシャル・セッション」(第3部)が展開された。具体的な協業事例が次々と示され、会場は実践に向けた熱気に包まれた。
第2部では5つの個別テーマでセッションが進行。例えば「暮らしの変革と衛生・防災」では、一般社団法人エシカル協会の末吉里花氏と日本製紙クレシアの高津尚子氏が登壇し、日常の消費行動から防災までを見据えた企業の責任について議論。さらに、TERRAの東光弘氏らによる「グリーントランスフォーメーションと農が拓く新たな利益構造」、亀井工業ホールディングスの岩瀬望美氏やフクシンの福﨑二郎氏、JANPIAの山中資久氏らが登壇した「協創による地域ブランドと地域経済循環」など、地域課題と社会課題を掛け合わせつつ経済成長を狙うビジネスモデルが多数提示された。
また宮城県名取市での交通ネットワークの再構築事例や、岩手県釜石市での地域と企業による共創事例も披露され、各自治体・企業の担当者同士がリアルな軌跡を振り返った。
第3部のスペシャル・セッションでは、東京都渋谷区長の長谷部健氏が登壇し、多様性を力に変える自治体経営のノウハウを披露。京都先端科学大学教授の名和高司氏は「協創が生み出すシン日本型イノベーション」について講演を行った。
続くパネルディスカッションでは、内閣府 地方創生推進事務局 参事官の宇田川徹氏やオウルズコンサルティンググループ執行役員の大久保明日奈氏、THE NIKKEI MAGAZINE 編集長の松本和佳氏、荏原製作所 DE&I推進部長の入江哲子氏らも加わり、産官学民連携によるシン日本型経営とウェルビーイングの実現に向けて議論が深められた。

「SDGsは規定演技、Beyond SDGsは自由演技」。この言葉が象徴するように、2030年以降の未来を見据え、日本各地で自らの強みを生かした「自由演技」がすでに始まっている。本フォーラムも、ビヨンドSDGsとウェルビーイングの実現に向け、企業、自治体、市民がどのようにつながり、泥臭くもリアルな「価値創造ストーリー」を紡いでいくのかが問われる場となった。
横田 伸治(よこた・しんじ)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
東京都練馬区出身。毎日新聞社記者、認定NPO法人カタリバ職員を経て、現職。 関心領域は子どもの権利、若者の居場所づくり・社会参画、まちづくりなど。













