
共働き世帯の増加や高齢化が進む中、毎日の食事づくりを負担に感じる家庭は少なくない。一方で、料理の経験やスキルはあっても、子育てや介護と両立できる働き方がなかなか見つからない女性も多い。この両側の課題に向き合い、「料理が好きで得意な人と、ごはんづくりに困っている人をむすぶ」活動を続けているのが、NPO法人KYOTOごはんサポーター(京都市)だ。シングルマザーとして2人の子を育てながら事業を立ち上げた、近藤七恵代表に話を聞いた。
家庭料理の価値を労働として可視化する
——KYOTOごはんサポーターはどのような活動をされているのでしょうか?
料理代行という手段を通じて、家庭料理の価値を社会の中で見直す取り組みをしています。家庭料理はこれまでずっと愛情や責任という言葉で語られ、無償の労働として扱われてきました。それがしっかりした労働として可視化されることはほとんどなかったと思います。でも、共働きや高齢世帯が増えた今、食の担い手への負担は大きくなっています。社会全体が疲弊していると感じていて、その構造を変えたいというのが事業の出発点です。

——この活動を始めたきっかけは何ですか?
2人目の子どもを自宅出産した際、産後の食事を助けてもらった経験が契機になりました。当時、母もすでに他界していて頼れる人がいなかったのですが、助産師さんの紹介で栄養士の資格を持つ方が来てくださって。週に1〜2回、食事を用意してもらえたことで、産後うつにもならず、非常に助かりました。料理だけではなく、家族以外の人と話せる場にもなって、社会とつながれた感覚がとても大きかったんです。
私自身、飲食の仕事に長年携わってきました。「時間の読める仕事をしながら子育てしたい」という思いと、「食の仕事を社会に還元したい」という思いが重なり、2019年に個人事業として料理代行を始めました。コロナ禍でニーズが急増し、月に20〜30件の依頼が来るようになったことでチームの必要性を感じ、2023年3月にNPO法人を設立しました。初めてお伺いしたご家庭で、いつものごはんづくりをしただけで非常に喜ばれた体験が、今も活動の原点になっています。
「作業の提供」ではなく「余白の提供」
——一般的な家事代行・料理代行との違いはどこにあるのですか?
一般的な派遣の料理代行が「料理という作業の提供」だとすれば、私たちが提供しているのは「お客さまの余白」だと考えています。献立を考える時間、買い物の手間、キッチンに立つ負担。それらが消えることで、子どもと向き合う時間や休息する時間が生まれる。料理の先にある価値を届けたいんです。
仕組みの面でも大きく異なります。サポーター(同NPOのメンバー)はそれぞれ個人事業主で、お客さまと直接契約を結びます。働く時間やエリアは彼女たちの自由裁量です。一般的な派遣会社の場合、来るまでお互いを知らない状態がほとんどですが、私たちは事前にコミュニケーションを取って、信頼関係を築いてから伺う形にしています。リピート率が高く、何年も継続してお伺いしているお客さまもいます。もはや「親戚のおばちゃん」みたいな存在になっています。
——サポーターの養成講座はどのような内容ですか?
月2回のペースで半年間、料理代行を個人事業主として行うためのノウハウをお伝えしています。知らないキッチンに立った時のコツから始まり、集客方法、お客さまとのコミュニケーション、メンタルサポートまで幅広くカバーします。「まずはギブの精神で」「人柄をつくろう」というところから始めるのが特徴で、料理スキルよりもコミュニケーション能力を重視しています。講座はオンラインで実施し、認定試験を経てコミュニティに加入してもらいます。定期的な勉強会や体調不良時の助け合いなど、個人事業主でも安心して続けられる体制を整えています。

2023年2月の第0期から現在の第7期まで累計48人が受講し、現在15人が認定サポーターとして活動中です。関西を中心に関東3人、和歌山、岡山、兵庫、滋賀など広域に広がっています。
家庭料理を正当に評価する報酬設計
——サポーターの報酬設計はどのようになっていますか?
時給3000円を目安として設定するよう指導しています。スキルがあっても最低賃金と同程度の報酬では、続けることが難しい。それが、家庭料理が無償に近い労働とみなされてきた構造と地続きになっている要因だと思っています。サポーターは個人事業主として自分でお客さまを見つけ、報酬も自分で設定します。2回目以降はお客さまと直接契約です。子育て中の方や介護を抱えた方でも、自分の都合に合わせて無理なく働き続けられるモデルを目指しています。
——NPO法人という形を選んだのはなぜですか?
利益を最大化するより、ケアを社会全体で担う仕組みを広げたかったからです。株式会社で利益優先になることへの抵抗感もありましたし、寄付を受け入れながら困窮家庭や災害時へのケア、ボランティアの受け入れといった活動も将来的に展開していきたいと考えています。NPOという形がその思いに合っていました。企業や個人を問わず、広く「家庭料理の価値を一緒に再認識してほしい」という趣旨への賛同を募っていく予定です。
「ごはんサポート」を生活インフラに
——今後の展望をお聞かせください。
「料理代行を生活のインフラにする」というのが私の夢です。お医者さんや宅配便と同じように、「ごはんサポーターを呼ぶ」が当たり前の選択肢として社会に組み込まれてほしい。そのためにまず、所属サポーターを増やすことが最優先課題です。
関東にはすでに3人のサポーターがいますし、和歌山では独自チームを立ち上げたいというメンバーも出てきています。3年以内には京都でのこども食堂的な拠点づくりも考えており、10年後には全国でこのモデルが展開できるよう形にしていきたいと思っています。今年50歳になりますが、60歳を迎えるまでに全国規模でこの仕組みを確立するのが目標です。
女性の活躍という切り口で始まった事業ですが、今後は性別を問わず、料理を通じて社会をケアしたい全ての人のための場にしていきたい。「みんなが笑顔でつながる時間」を増やし、一人ひとりが支え合う社会。ご飯が楽になれば、みんなが幸せになれると信じているので。
眞崎 裕史 (まっさき・ひろし)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
地方紙記者として12年間、地域の話題などを取材。フリーランスのライター・編集者を経て、2025年春からサステナブル・ブランド ジャパン編集局に所属。「誰もが生きやすい社会へ」のテーマを胸に、幅広く取材活動を行う。














