
宮城県気仙沼市に拠点を置くスタートアップ、amu(アム)。2023年5月の設立以来、廃棄漁網を回収・再資源化し、高品質なリサイクル素材「amuca(アムカ)」へ生まれ変わらせる事業を展開している。「いらないものはない世界をつくる。」というビジョンを掲げる同社は、単なるリサイクルにとどまらない、独自の価値創造に挑戦。素材の機能や環境への配慮を当たり前の前提とした上で、その背景にある漁師の生きざまや地域の文化といった「ストーリー」を最大の付加価値とする「マテリアル3.0」を提示する。
経済合理性が壁となり、これまで見過ごされてきた廃漁具という「厄介者」を、いかにして「誇れる資源」へと転換させているのか。1997年生まれ、Z世代の加藤広大・代表取締役CEOに、事業の原動力や今後の展望などを聞いた。
漁師の「生きざま」に魅せられた原体験
――まずは気仙沼に拠点を置き、起業された背景から教えてください。加藤さんはもともと神奈川県のご出身ですよね。
加藤広大・代表取締役CEO(以下、加藤):はい、出身は神奈川県の小田原市です。大学1年生の時にボランティアとして気仙沼を訪れたのが最初のきっかけでした。当時は震災から4年が経過していましたが、町のために自ら事業を起こし、移住してきた先輩たちの背中を見て、学生ながら「自分もいつかこの町で事業をやりたい」という思いを抱くようになったんです。
その後、一度東京で就職しましたが、どうしても気仙沼で挑戦したいという思いが消えず、地域おこし協力隊として再びこの町に戻りました。3年間の任期中に「気仙沼でしかできないこと」「グローバルで挑戦できること」という2つの軸で事業を模索し、たどり着いたのが漁網のリサイクルでした。

――なぜ漁網だったのでしょうか。数ある地域課題の中で、そこに可能性を感じた理由は?
加藤:漁師さんたちと酒をくみ交わし、対話を重ねる中で、彼らがどれほど漁業に命を懸けているか、そして気仙沼という町がいかに漁業を大切にしているかを肌で感じました。しかし、そんな彼らが使った網が、役目を終えると単に燃やして埋められるだけの産業廃棄物になる。それはあまりにも「もったいない」と感じたんです。
ただのプラスチックごみとしてではなく、世界を股にかけてマグロを追い、20人の男たちが鉄の箱(船)の中で命懸けで働いてきた証としてのロマンを素材に宿せば、新しい価値が生まれるはずだ。そう確信しました。
廃棄者を「資源のサプライヤー」に変える仕組み
――事業を立ち上げる際、地元の漁師さんや組合からはどのような反応がありましたか。
加藤:非常にポジティブでしたね。特に気仙沼の遠洋マグロ船の組合トップが、「協力しない理由がない」と背中を押してくれたのが大きかったです。
僕たちの特徴の一つは、漁網をタダで回収するのではなく、資源として買い取ることです。これまで処分費用を払っていた漁師さんが、僕たちに網を渡すことで資源のサプライヤーへと変わる。これにより、漁師さんの意識も「ごみ」から「価値あるもの」へとひっくり返りました。

――法的な規制や回収のハードルをどうクリアされたのでしょうか。
加藤:産業廃棄物として扱うと県外への運搬などに制約がありますが、僕たちは古物商の免許を取得し、金銭で取引することで資源(古物)として流通させています。これにより、広域でのスムーズな回収が可能になりました。
現在は気仙沼だけでなく、北海道から沖縄まで全国12の漁港にネットワークを広げています。さらに今後、7地域が加わる予定です。1回の機械投入に10トン単位の量が必要なため、各地域の漁港から少しずつでも集めてくるんです。
「amuca」が目指す「マテリアル3.0」
――独自素材「amuca」について教えてください。リサイクルのプロセスや品質にはどのような特徴がありますか。
加藤:ナイロン6製の漁網については、UBE(旧・宇部興産)などのパートナー企業と連携し、化学的に分解して原料に戻すケミカルリサイクルを採用しています。これにより、バージン材と同等の純度と品質を持つ高品質なナイロンへと再生されます。また、ケミカルリサイクルに適さない素材(PE、PPなど)もマテリアルリサイクルによってペレット化し、メガネやタイル、什器(じゅうき)など、用途に合わせた多様なプロダクトへと転換させています。

――「マテリアル3.0」という言葉も、御社独自の定義で使われていますね。
加藤:バージン素材の時代を1.0、環境に良いことを目的としたサステナ的な時代を2.0とするなら、僕たちが目指すマテリアル3.0は、環境配慮は当たり前の前提とした上で、消費者が直感的に「イケてる、かっこいい、かわいい」と感じる感情価値を最優先するステージです。
プロダクトを手にした時、「何これ、かっこいい!」という驚きが最初にあり、後からタグに付いたQRコードなどを通じて「実は気仙沼の漁網でできていて、こんなストーリーがあるんだ」と知ってもらう。素材はあくまで、地域の文化や漁師の魂といった情報を届けるための「メディア」だと考えています。
「いらないものはない世界」をグローバルへ
――ゴールドウインやURBAN RESEARCH(アーバンリサーチ)といった大手ブランドとの協業も進んでいます。彼らはamuのどのような点に価値を感じているのでしょうか。
加藤:大企業にとっても、単なる環境配慮だけでは消費者に響かないという課題感があります。僕たちは糸という大源流の素材を持ちながら、地域のコネクションやストーリーを編集して届ける広告代理店のような動き方もできる。例えば、その企業の創業の地の海から漁具を回収し、製品としてラインナップに加えるといった、ルーツに根差した文脈作りから伴走できる点に面白みを感じていただいています。

――最後に、今後のビジョンと海外展開についてお聞かせください。
加藤: 5年、10年先を見据えると、漁網に限らず「あらゆるいらないものをなくす」プラットフォームになりたいと考えています。北陸の繊維くずや青森のホタテの貝殻など、特定の領域に命を燃やせる「変なやつ(起業家)」が現れた時、僕たちが培ったリサイクル技術や販売チャネル、資金調達のノウハウといったアセットをオープンに共有し、彼らを全力で応援できる「amuホールディングス」のような存在でありたいですね。
また、海洋プラスチック問題は世界共通の課題です。すでに東南アジアやバングラデシュなどでパートナー連携や調査を進めています。海は一つでつながっています。国籍に関係なく、海と共に生きる人々の営みをamucaという素材を通じてつなぎ合わせ、世界中から「いらないもの」をなくしていきたい。気仙沼から、その価値証明を加速させていきます。









