
東京都練馬区、新桜台駅。静かな住宅街の一角に、近隣住民がタッパーや空き瓶を手にふらりと立ち寄る場所がある。2021年に開業し、2022年に現在の場所へ移転した「VIOLETTI(ヴィオレッティ)」だ。「ゼロウェイストショップ」と銘打ち、ごみと無駄を出さない買い物を提案しながら、カフェ営業やイベントを通じて地域コミュニティのハブとなっている。
営むのは、オーナーである梶原美樹さんと夫の栄二さん。もともとは会社員だった2人が店を開いた背景には、コロナ禍に抱いた現代社会への違和感があった。「地球と人とモノにやさしく」を合言葉にして、「容器持参が原則」という営業スタイルを貫く中で直面する、売り上げと理念のジレンマ。それでも「地域に愛される店でありたい」と語る等身大の言葉から、ボトムアップで地域に広がるサーキュラーエコノミーの現在地を探る。
ごみと無駄をなくし、循環する拠点へ
――まずは、お店のコンセプトとラインナップについて教えてください。
梶原栄二さん(以下・栄二さん): 「ごみと無駄を減らす」ことをポリシーとしています。パッケージフリーを原則として、お客様には容器を持参していただき、必要なものを必要な分だけ購入する「量り売り」のスタイルでフードロスも減らすことを目指しています。
梶原美樹さん(以下・美樹さん): 商品は、食品が約200種類、雑貨も含めると約300種類ほどあります。食品はバナナチップスやスパイス、みそやお酒、地域の野菜もそろえています。オーガニックのものが中心ですが、それは単に健康のためだけではなく、化学肥料や農薬を使わないことが環境負荷を減らし、地球にも優しいという理由から選んでいます。
栄二さん: 商品を仕入れるときは直談判もしていますね。
美樹さん: 「うちはごみを出さないようにしているから、できるだけ大容量で、ケース単位で仕入れさせてほしい」と交渉したこともありました。

――月に20回ほどイベントを行うなど、販売以外にも積極的に活動されていますね。
栄二さん: イベントはお店の2階のスペースを使って、金継ぎやコンポスト講座、気候変動を考える会、演奏会など、幅広くやっていますね。体験や交流の場でありたいという思いがあるんです。
商品を売りたいんじゃなくて、思いを広めたくてお店をやっているんですよね。特にここ1年は「リペアカフェ」に力を入れています。おもちゃや服など、家で壊れたものを持ち寄って修理する会で、「一緒に修理する」ことで、多世代交流が生まれます。まだまだリペアカフェという言葉自体が浸透していない部分はありますけどね。
美樹さん: ものを修理して長く使うことも、広く「サーキュラーエコノミー」の一部として、続けていきたいと思っています。当初は(お店を)レンタルスペースのように貸してほしいという声もあったのですが、あくまで私たちが伝えたいコンセプトに共感してくれる方と一緒に企画するようにしています。
コロナ禍をきっかけに抱いた疑問

――お二人が店を始めたきっかけを教えてください。
美樹さん: 元々、物を多く持ちたくない、長く大切に使いたいという気持ちはずっとありました。ただ、若い頃はバブル期でもあり、服もたくさん買っていました。違和感は常にあったのですが、行動に移すまでには至っていませんでした。
栄二さん: 転機はコロナ禍でした。当時、二人とも在宅勤務で、買い物は宅配サービスを利用していたのですが、家の中が包装ごみだらけになったんです。プラスチック容器ばかりが届き、「これは本当にリサイクルされるのか」「製造にどれだけエネルギーがかかっているのか」と、家で二人で話し込むようになりました。
――そこで「自分たちで店をやろう」となるところが、すごい行動力です。
美樹さん: 京都に「斗々屋(ととや)」さんという量り売りのパイオニア的なお店があるのですが、そこがコロナ禍にオンラインで開業研修をやっていたんです。「こういうお店が地域にあったらいいのに」と思っていたので、思い切って受講してみました。
栄二さん: 斗々屋さんは「こういう店を各地域に広げたい」という思いが強く、最初は商品を買い取りではなく「委託(売れた分だけ支払う)」という形で卸してくれたんです。その懐の深さに助けられて、在庫リスクを抑えてスタートすることができました。
理念と機会損失のジレンマ

――実際に始めてみて、日本の消費者になじみの薄い「容器持参」のスタイルには苦労もありそうです。
栄二さん: 正直に言えば、量り売りは儲かりません。手間もかかるし、今でも経営的には苦しい部分はあります。一番の悩みは、「理念」と「機会損失」のジレンマです。例えば、アイスクリームやコーヒーの販売。私たちは使い捨ての容器やスプーンを出したくないので、「容器を持参するか、店内で食べていってください」とお願いしています。
美樹さん: でも、お客さまは「駅まで歩きながら食べたい」「時間がない」とおっしゃる。「紙袋ください」と言われてお断りすることもしばしばです。「厳しいお店ね」と苦笑いされることもありますよ。
栄二さん: 経営を考えれば、紙コップを用意して売った方がいいんです。機会損失だという指摘ももっともです。もちろん、お客さまに私たちの理念を押し付けたくもない。でも、そこで「紙ならいいか」と妥協してごみを出してしまったら、私たちが「ゼロウェイスト」を掲げる意味がなくなってしまう。
――そこは譲れない一線ですね。
美樹さん: そうですね。単に物が売れればいいわけではなく、「ごみを出さない体験」をしてもらう場所ですから。 でも最近は、近所の方が私たちの話を聞いて、一度家に帰って容器を持ってきてくださることも増えました。不便さを乗り越えて、私たちの思いを理解してくれる方が少しずつ増えている実感はあります。

商店街の原体験を今につなげる
――今の場所(新桜台駅前)に移転する前は、隣の江古田駅の近くで営業されていたそうですね。そもそもなぜこのエリアを選ばれたのですか?
美樹さん: 私たちはもともと福岡県で防音関係の会社員をしていましたが、10年ほど前に家族で東京に来ました。最初は上野周辺に住んでいたのですが、都会すぎてどこで買い物を楽しめばいいのかわからなくて。その後、娘の大学の関係で江古田に引っ越してきたんです。
栄二さん: 江古田に来てみたら、チェーン店が少なくて個人の商店が多い。それがすごく肌に合ったんです。実は僕は5歳くらいの時に母を亡くしていて、商店街のおばちゃんたちに育てられたような経験があったので、とても懐かしい雰囲気でした。
――商店街が生活の支えだったんですね。
栄二さん: そうなんです。学校帰りに「おやつ食べていきな」って声をかけてもらったり。大人になってから、自分もそういう温かい場所を作りたいという気持ちがずっとありました。
ただ、以前の江古田の店舗は手狭で、量り売りしかできなかったので、もっと地域の方との交流を生むために、今の場所へ移転リニューアルしたという経緯があります。その時に会社を辞めて、お店に専念することにしました。

――4年間、お店を続けていてよかったと感じる瞬間はありますか?
栄二さん: 地域の方とのつながりは本当に宝物です。ある時、常連だった小学2年生の男の子がお父さんの転勤でロンドンに行くことになったんです。出発の前日に店に来てくれて、「僕が帰ってくるまでの2年間、絶対にお店潰れないでね」って言ってくれたんです。
美樹さん: あれは効きましたね(笑)。「続けなきゃ」と強く思いました。 手応えで言うと、お客さまの行動変容です。最初は何も知らずに来た方が、だんだんビール瓶をデポジットで返却してくれるようになったり、洋服の選び方が変わったり。生活全体がサステナブルにシフトしていく様子を目の当たりにしています。
練馬をサーキュラーエコノミーの先進地域へ
――大企業のSDGs施策のようなトップダウンではなく、地域からのボトムアップの取り組みに、意義を感じますか?
栄二さん: 強く感じます。いくら企業が「これがSDGsです」「今はこれが当たり前です」と提示しても、生活者が「面倒くさい」と感じれば広がりません。「自分一人でやっても変わらない」と言う人もいますが、僕は「私がやらないと変わらない」と思っています。一人の人間が100歩進むよりも、100人が一歩ずつ進む方が、社会を変える力は大きいんです。
美樹さん: 社会が変わるのは、私たちの身近な暮らしからです。スーパーでプラスチック入りの野菜を買うのが当たり前だった人が、ここで裸の野菜を新聞紙や容器に入れて持ち帰る。「意外とこれでいいんだ」「ごみが出なくて気持ちいい」という体験が、チャットグループでの情報交換に発展したりして、確実に地域の意識が変わってきています。

――最後に、今後の展望や野望を教えてください。
栄二さん: 実は、一般社団法人を立ち上げる準備をしています。「ゼロウェイスト・サーキュラーエコノミー・コミュニティ」として、この場所を拠点に、より実践的な活動を広げていきたいんです。
学校での出前授業や、企業とも連携して普及活動を行いたいです。ゆくゆくは、この練馬区をサーキュラーエコノミーの先進地域にしたいという野望があります。地域のリサイクルセンターとも連携しながら、行政任せではない、市民発の拠点として強化していきたいですね。
美樹さん: 私は、地域の方と一緒にお店を作っていきたいし、もっともっと地域に愛されるお店になりたいです。VIOLETTIに来れば、何か良いことがある、素敵な出会いがある。そんな温かい循環が生まれる場所を、これからも地域の方と一緒に育てていきたいと思います。
横田 伸治(よこた・しんじ)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
東京都練馬区出身。毎日新聞社記者、認定NPO法人カタリバ職員を経て、現職。 関心領域は子どもの権利、若者の居場所づくり・社会参画、まちづくりなど。









