傍若無人という表現がこれほど当てはまる例が近年あったであろうか。
世界最大のパワーを有する権力者の引き起こすリスクが世界を揺るがしている。ベネズエラ「攻撃」にとどまらず、新年早々、国連を含む66の国際組織からのアメリカの事実上の脱退が宣言された。
気候変動対策では、国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)と気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が含まれ、遅れがちな地球温暖化防止の先行きに大きな影を落とす。年明け最初の寄稿では、世界を覆うトランプリスクの脱炭素への影響とその対応策について提言する。
誇らしげに『脱退』を載せるホワイトハウスのWEBサイト
下が、まさに脱退や離脱を示したWebページである。翻訳すると、「米国の利益に反する国際機関、条約、及び協定からの離脱」となる。

総じて、世界の貧困や教育、平和、環境問題などグローバルな課題に対応する組織が多い。国連では、すでに撤退を決めていた世界保健機関(WHO)や国連教育科学文化機関(ユネスコ)に、今回、国連人口基金や国連大学など31の機関が追加された。課題解決の組織をアメリカの利益に反すると認定する離脱行為は当然ながら、世界の課題解決を妨害する効果さえもたらす可能性がある。
実は、アメリカ主導で作られたものも多く、大統領本人は全く気にしないだろうが、自国の過去の否定にもつながっている。
年初の大量脱退は衝撃的であり、世界の各マスコミなどが一斉に報じることとなった。これに先立ったベネズエラへの攻撃と現職大統領の拉致という驚くべき行動と合わさり、2026年の幕開けを恐怖さえ呼び起こす暗いものとして印象付けた。
離脱によって、地球的な危機である温暖化対策も同様に、危機にさらされることとなった。1年前、大統領就任と同時に、気候変動対策の枠組みとなるパリ協定から再脱退していたが、今回はその基礎となる、国連気候変動枠組み条約と気候変動に関する政府間パネルからも離れた。報道されたように、世界の198カ国・地域が批准した枠組み条約からの脱退は世界初で、パリ協定への復帰のハードルは格段に高くなる。世界第2のCO2排出大国が公然と対策に反し、科学的な取り組みからも抜けるマイナスは大きい。
当たって欲しくなかった、米調査機関の「予測的中」
年明け恒例のニュースの一つ、「世界の10大リスク」(米調査会社ユーラシア・グループ)の2026年版が5日に発表されたが、その1つが「トランプ革命」であった。

報告の前書きでは、2026年は転換の年としたうえで、「米国は、自らが作り上げた国際秩序を解体しつつある」と続ける。第二次世界大戦後最多のおよそ60の紛争が世界で進行中と書き、「これら全ては、驚異的な技術革命のただ中で起きている」と付け加え、「なんという時代にわれわれは生きていることか。そして、何という時期に2026年の『世界10大リスク』を発表することになったものか」と締めくくっている。
発表は、時間的にもベネズエラ攻撃を受けた後であるが、大量離脱はその後であり、ランキングはそれをも当ててしまった。ちなみに、トランプ関連は直接的なものだけで、「ドンロー主義(トランプ版モンロー主義)」、「米国式国家資本主義」、「USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)のゾンビ化」と10種のうちの半分近くに及ぶ。調査機関が嘆息するのもよくわかる。
アメリカは世界の警察をやめたというが当然である。同じ者が、強盗と警察を兼ねることはできない。
トランプショックに特効薬なし、でも…
では、このリスクに日本はどう対応すべきであろうか。
残念ながら、どの論評を読んでも腑(ふ)に落ちる答えに出会うことはない。それは、結論から言えば、トランプ、だからである。世界を荒らす関税攻撃で中国とは妥協しつつあるように見えるが、それは、自らが損をすると気付いたからである。
一方、地球温暖化のように、他国やその市民が被害を受けることは全く気にならない。また、山火事や災害、農業への打撃など自国、自国民の被害についても、温暖化対策を「世界史上で最大の詐欺」と決めつけるだけで意に介さない。
7日に行われたニューヨークタイムズの単独インタビューの中で大統領は、「私を止めることができるのは、私自身の道徳。私自身の心(My own morality. My own mind. It’s the only thing that can stop me)」と語った。また、「私に国際法は必要ない(I don’t need international law.)」とまで言い放つ。まともとは言えない道徳を持つ人間の「妄言」としか言いようがないが、世界の最高権力者の言葉である。それでも対応して、言うべきことを言え、つまり諫言(かんげん)せよとの意見も聞かれるが、効果はないに違いない。
結論は、諫言よりも、日本は自らがやるべきことをやるに尽きる。もちろん、リトルトランプになることでもない。特に温暖化防止のように、それぞれの国なりの実施可能な脱炭素施策は実行する価値がある。諫言を逆手に取られてトランプ側に組み込まれるのは最悪である。
また、気候変動枠組み条約には、アメリカが一人抜けても残り197の圧倒的な数の国と地域が残る。熱心さや思惑に差はあるが、欧州の積極姿勢は崩れず、中国は各種の取り組みで世界をリードする。何より、アメリカ国内でも多くの企業が脱炭素の旗を降ろしていない。グローバルなビジネスの趨勢(すうせい)から取り残されるのを恐れているからでもある。世界のネットゼロの方向は不変で、今回のアメリカの行動は自滅への道であるとの意見も強い。つまり、ある意味で味方が大勢いることを忘れず、国際協力の道を選ぶべきである。
ただし、日本が脱炭素をどう実行していくのか、ベースとして憂慮すべきポイントが残っている。現状では、まだまだ日本の本気度が見えないのである。旧一電を筆頭とする発電事業者の化石燃料への執着、多くが実現性と事業性を疑う原子力発電への未練、ポピュリズムに堕ちたガソリンなどの支援が残り、地域共生を求める再生エネの開発は正しいが代わりとなる現実的なプランが欠如する。日本の政治にはやるべきことはたくさんある。
空母の上で踊っていても、党利党略にしか見えない選挙を行っても、2026年に降りかかる巨大なリスクに耐えることはできない。
北村 和也(きたむら・かずや)
日本再生可能エネルギー総合研究所代表、日本再生エネリンク代表取締役、埼玉大学社会変革研究センター・脱炭素推進部門 客員教授
民放テレビ局で報道取材、環境関連番組などを制作した後、1998年にドイツに留学。帰国後、バイオマス関係のベンチャービジネスなどに携わる。2011年に日本再生可能エネルギー総合研究所、2013年に日本再生エネリンクを設立。2019年、地域活性エネルギーリンク協議会の代表理事に就任。エネルギージャーナリストとして講演や執筆、エネルギー関係のテレビ番組の構成、制作を手がけ、再生エネ普及のための情報収集と発信を行う。また再生エネや脱炭素化に関する民間企業へのコンサルティングや自治体のアドバイザーとなるほか、地域や自治体新電力の設立や事業支援など地域活性化のサポートを行う。









