
札幌市中心部から車で約40分。北海道当別町の丘陵地に広がる「スウェーデンヒルズ」は、北欧の街並みを彷彿(ほうふつ)とさせる住宅地だ。落ち着いたベニガラ色(赤褐色)や黄色の外壁を持つ住宅が立ち並び、電柱のない美しい景観が保たれている。しかし、単なる異国情緒溢れる住宅地ではない。ここは、日本に「サステナビリティ」という言葉が浸透するはるか前から、「世代を超えて住み継ぐ」という持続可能な社会の在り方を問いかけ、実践してきた場所である。
開発・販売を手掛ける住宅メーカーのスウェーデンハウスは、輸入住宅のパイオニアとして知られる。小雪が舞う2025年11月に現地を訪問し、同社営業推進部スウェーデンヒルズ管理センター長の本田剛朗氏にインタビュー。同社が掲げる「100年住宅」の哲学と、環境、そしてコミュニティの未来に向けた新たな挑戦を聞いた。
北欧の住宅思想に感銘を受ける
スウェーデンヒルズの歴史は、1970年代にさかのぼる。同社の創業者らが北欧を視察した際、堅牢で断熱性能に優れたスウェーデン住宅に出会い、その思想に感銘を受けたことがきっかけだった。
「当時の日本の住宅寿命は30年から40年程度。一方、スウェーデンには『100年住宅』という考え方が根付いており、親から子へ、子から孫へと家を受け継ぐ文化がありました」。本田氏はそう振り返る。
この思想を日本に持ち込むべく、当別町で開発が始まったのがスウェーデンヒルズだ。1984年、スウェーデンから大工を招き、部材を輸入して実験棟を建設。これに合わせて分譲が始まった。全体の敷地面積は約300ヘクタールで、住宅地とゴルフ場が半々。周囲には白樺やカエデが自生し、季節ごとに彩りを変える。
住宅地は3つの地区に分かれており、現在、合わせて約520世帯が入居している。住民の多くは移住者で、北海道外からの定住やリタイア後の生活の場としても選ばれているという。住宅地内には「一般財団法人スウェーデン交流センター」が設けられ、語学講座や文化イベントを開催するなど、住民が集う場としても機能している。
約80年の森の恵みを、次の100年へつなぐ
同社の住宅の大きな特徴である「木製サッシ3層ガラス窓」や分厚い断熱材が実現する高気密・高断熱性能は、寒冷な北欧の気候に耐えるスペックであるだけに、北海道の厳しい冬にこそ真価を発揮する。それと同時に、建物を長く維持し、エネルギーロスを抑えるための選択でもある。

こうした性能を支え、「100年住宅」を実現する上で欠かせないのが、主要構造部に使用される木材だ。スウェーデン中央部のダーラナ地方には、現地工場「トーモクヒュース」があり、主要構造材を現地から調達。その工場では、生産過程で発生した端材などを活用したバイオマスエネルギーや水力・風力といった再生可能エネルギーを使って操業しているという。
調達サイクルも特徴的だ。スウェーデンでは1903年に森林保護法が制定されており、「若い木は切らない」という徹底した管理が行われている。本田氏は「木がおおよそ80年育って成木になるまで待ち、伐採後はまた植林して次の約80年を育てる。この厳格なサイクルで守られた木材を使用しています」と説明する。
木材は、成長過程で大気中のCO2を吸収し、炭素として固定する。その木を燃やさずに住宅建材として長く使い続けることは、都市に炭素を貯蔵することと同義だ。約80年かけて育った木を、さらに100年住み継ぐ家として活用する――。これも、資源の浪費を防ぐ、サステナブルな取り組みの一つだろう。
次世代ZEHへの挑戦と「業界を先導する」気概
環境負荷低減への取り組みは、木材の利用にとどまらない。本田氏が新たな挑戦として挙げたのが、「フィルム型太陽電池」の導入だ。「現在、企業と共同開発を進めており、長崎の展示場で実証実験を行っています。軽量なシート状のため、建物への負荷が少なく、デザインや屋根の形状に合わせた設置が可能になります」と本田氏。

来年以降の実用化を目指すこの技術は、ZEH(ゼッチ:net Zero Energy House)の普及を加速させる鍵となる可能性がある。実現すれば、住宅業界では初めてになるという。
本田氏は力を込める。「40年ほど前にスウェーデンから高性能住宅を持ち込んだ私たちだからこそ、環境性能においても、他のハウスメーカーに先駆けて業界を先導していかなければならないという思いがあります」。省エネ性能の向上や再エネ導入は、いまや社会的な要請でもある。「先駆者」としての自負が、同社の技術開発を加速させている。
人生の最期まで寄り添えるまちづくり
スウェーデンヒルズの開発から約40年。まちは成熟の時を迎えている。当初は「別荘」としての利用が多かったが、現在では約7割が定住者となり、コロナ禍以降はリモートワークを前提とした現役世代の移住も増えた。
まちの管理運営は、住民で組織する「町内会」によって行われている。その町内会も中心となって、夏至祭やルシア祭といったスウェーデンの伝統行事を開催。当別町とも連携し、毎年多くの来場者があるという。

一方で、初期からの住民の高齢化も進んでいる。「この環境が好きで、ずっと住み続けたいと願うオーナーさまは多い。しかし、北海道の厳しい冬の管理や健康面での不安から、泣く泣く離れる方もいます」と本田氏は課題を口にする。
そこでスウェーデンハウスが目指すのは、「家を売って終わり」ではない、人生の最期まで寄り添えるまちづくりだ。「医療施設の誘致など、最終的には『看取り』までできるようなシステムを作りたい。『ゆりかごから墓場まで』ではないですが、住み慣れたこの場所で安心して暮らし続けられる環境を整えることが、次のステップだと考えています」(本田氏)
すでに不動産部門による住み替え支援や、管理センターによるきめ細かな住宅メンテナンスなど、ハード(建物)の維持だけでなく、ソフト(暮らし)の維持に向けたサービスも拡充している。
約80年のサイクルで育った木で家を建て、100年にわたって住み継ぐ。そして、その家が集まる「まち」もまた、住民のライフステージの変化に合わせて形を変え、持続可能なシステムを模索し続ける。スウェーデンハウスが当別町で実践しているのは、単なる高性能住宅の提供ではない。それは、自然との共生と、人間の幸福な暮らしを両立させるための、壮大な社会実験とも言えるだろう。
眞崎 裕史 (まっさき・ひろし)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
地方紙記者として12年間、地域の話題などを取材。フリーランスのライター・編集者を経て、2025年春からサステナブル・ブランド ジャパン編集局に所属。「誰もが生きやすい社会へ」のテーマを胸に、幅広く取材活動を行う。














