• 公開日:2025.12.16
カーボンニュートラルから適応へ ブルーボトルコーヒーが進める再生型農業と品種開発
  • 環境ライター・箕輪 弥生

気候変動により、今後数十年でコーヒー豆の品種が大きく変わる可能性がある(写真提供:ブルーボトルコーヒージャパン、以下同)

ブルーボトルコーヒー(本社・米国カリフォルニア州)は2024年、サプライチェーン全体を含めてカーボンニュートラルを達成した。現在はその基盤を踏まえ、CO2吸収の拡大や気候変動に強い農業の実現に向けて、再生型農業(リジェネラティブ農業)への取り組みを強化し、気候変動に適応した新たなコーヒー品種の開発を進めている。背景には気候変動がコーヒー生産に深刻な影響を及ぼしている現状がある。栽培に適した土地の多くが、2050年までに失われる可能性があると予測されているからだ。こうした課題に対して同社が次にどのような一歩を踏み出すのか、サステナビリティマネージャーのオードリー・ウォルドロップ氏に話を聞いた。(環境ライター 箕輪弥生)

2024年、カーボンニュートラルを達成

カフェでは、植物性ミルクを追加料金なしで導入している

ブルーボトルコーヒーは、2024年1月から12月までの1年間において、原料調達から店舗利用、包装、廃棄までの温室効果ガス排出を対象としたカーボンニュートラルを達成したと10月に発表した。

同社は、温室効果ガスの排出を2018年比で18.4%削減し、残りの排出量を、認証されたリジェネラティブ農業由来のカーボンクレジットの購入や、タンザニアで進行中の地域主導の森林再生プロジェクトの支援などによりオフセットした。

カーボンクレジットについては、米国のインディゴ・アグ社と提携し、土壌炭素クレジットを複数年にわたって購入する契約を結んだ。これにより、米国でのカーボンファーミング(炭素貯留農業)を長期的に支援する体制を整えた。

マネージャーのウォルドロップ氏は、「このアプローチは、自社が掲げる再生型農業の推進という目標と完全に一致している」と説明する。

サステナビリティマネージャーのオードリー・ウォルドロップ氏

排出削減の取り組みでは、店舗で使用する電力を、非化石証書を通じて再生可能エネルギー由来へと切り替え、電力消費に伴う排出量の74%削減を実現した。

ブルーボトルコーヒーは現在、5カ国で140店舗以上を展開しているが、同氏によれば「非化石証書を活用した再エネへの転換を最初に実施したのは日本であり、その影響で米国、中国本土など全拠点で同様の取り組みを導入することになった」という。

このほか、カフェではオーツミルクなど植物性ミルクを追加料金なしで導入し、乳製品由来の排出量を16%削減した。さらに生豆(グリーンコーヒー)の調達の改善により20%の削減を達成した。生豆の調達は同社の総排出量の約3分の1を占める、最大の排出要因だ。その主因は土地利用変化(LUC:Land Use Change)と農園での生産活動だが、最も排出量が多かったエチオピアでのLUCの改善が成果につながった。

リジェネラティブ農業への移行で気候変動リスクに対応

カーボンニュートラルを達成した同社が、次の重点領域として取り組むのが、リジェネラティブ農業である。

これには、アグロフォレストリー(森林農法)の導入、被覆作物の栽培、不耕起農法、堆肥化など多様な手法が含まれる。

アグロフォレストリーは、樹木を植え、森林を管理しつつ、その間の土地で農作物の栽培を行う手法だが、コーヒー栽培との相性が良い。樹木とともにコーヒー樹を植えることで木陰が生まれ、土壌水分の保持、土壌温度の上昇抑制、生物多様性の向上につながる。また、落葉が有機物として土壌に還元され、土壌の健全性が高まり、干ばつや強降雨といった気候変動リスクへの耐性向上にも寄与する。

同社は、リジェネラティブ農業に関してサステナビリティのコンサルタントおよび主要サプライヤー4社と協働して実行計画を作成した。

ウォルドロップ氏は「この4社はブルーボトルコーヒーの調達量の3分の1以上を占め、生豆調達に伴う排出量の半分以上を生み出す地域を含んでいる」と説明する。これは、同社が提供するコーヒーの3分の1以上をリジェネラティブ農業に移行するという大きな方針転換と言える。

具体的には、各生産地のニーズやポテンシャルに応じて移行プログラムを策定し、2026年にペルー南部で初のパイロットプログラムを開始する計画である。

ウォルドロップ氏は、「リジェネラティブ農業の成果が表れるまでには5〜7年程度かかる。取り組みを広げるためにも、他のコーヒーバイヤーやNGO、政府との連携を強めたい」と語る。

気候変動に適応するコーヒー品種の開発

干ばつや暑さなどの厳しい条件下でも生育でき、次世代のコーヒーとして期待されるエクセルサ種

同社にとってもう一つの重要な挑戦が、気候変動にも適応するコーヒー品種の開発だ。ブラジルで開催されたCOP30でも、「適応(Adaptation)」が重要議題となっており、コーヒーに関しても適応策は喫緊の課題である。

現在、アラビカ種は世界のコーヒー生産の過半数を占めるが、同社はアラビカ種の中で気候耐性を持つ品種開発の支援を進めるとともに、アラビカ種以外の品種の開発や商業化にも注力している。

「Blue Bottle Studio」を監修した創業者、ジェームス・フリーマンCEO(写真 Yusuke Oishi)

2022年には、生産性が高く、気候変動に強いコーヒー品種の開発を目的としたプログラムへの支援などを行った。また、2025年には京都の伝統的な京町屋を再生したカフェで、アラビカ種を一切使用せず、リベリカ種、エクセルサ種、ロブスタ種のみで構成した特別メニューを提供する「Blue Bottle Studio」を展開した。

ブルーボトルコーヒー創業者でCEOのジェームス・フリーマン氏が全体のディレクションを手掛け、グローバルコーヒーエクスペリエンス シニアディレクターのベンジャミン・ブリュワー氏と共にコーヒーコースの開発を進めた体験プログラムである。

Blue Bottle Studioでは、「Future of Coffee」をテーマにした6種類のコーヒーを使用したコースを提供した

ブルーボトルコーヒーの進めるリジェネラティブ農業と気候変動に適応するコーヒー種の開発支援は、単なるカーボン削減にとどまらず、調達リスクの低減、生産者の収入安定、コーヒー生産の将来を見据えたレジリエンス強化につながる取り組みである。気候変動が進む中で、同社が示す戦略は、サプライチェーン全体の持続可能性を高める長期的視点を明確に示している。

written by

箕輪 弥生 (みのわ・やよい)

環境ライター・ジャーナリスト、NPO法人「そらべあ基金」理事。

東京の下町生まれ、立教大学卒。広告代理店を経てマーケティングプランナーとして独立。その後、持続可能なビジネスや社会の仕組み、生態系への関心がつのり環境分野へシフト。自然エネルギーや循環型ライフスタイルなどを中心に、幅広く環境関連の記事や書籍の執筆、編集を行う。 著書に「地球のために今日から始めるエコシフト15」(文化出版局)「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」「環境生活のススメ」(飛鳥新社)「LOHASで行こう!」(ソニーマガジンズ)ほか。自身も雨水や太陽熱、自然素材を使ったエコハウスに住む。JFEJ(日本環境ジャーナリストの会)会員。 http://gogreen.hippy.jp/

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