• 公開日:2025.12.04
「最も権威ある環境賞」アースショット賞2025受賞5団体をチェック
  • 茂木 澄花
image credit: earthshotprize.org

アースショット賞の2025年授賞式がブラジル・リオデジャネイロで開かれ、5つの部門で各1団体が表彰された。自然保護部門では、AIなどの技術を生かして森林再生活動に取り組むブラジルのスタートアップ企業が受賞。大気浄化部門には、コロンビアの首都ボゴタ市が選ばれた。海洋保全部門では、2026年1月に発効を控えた国連の公海条約が受賞した。廃棄物削減部門には、持続可能なファッションを推進するナイジェリアのファッションイベントが選出。気候変動対策部門には、バングラデシュで気候変動に対してぜい弱な地域を支援するNGOが選ばれた。

2020年に英国のウィリアム王子と王立財団が創設したアースショット賞。2021年から毎年、将来性のある気候・環境課題対策に取り組む企業や団体を表彰している。

5回目となる今年は、72カ国、約2500のノミネート団体から、例年と同じく5つの部門でそれぞれ1団体が選ばれた。11月5日に授賞式が開かれ、受賞団体には取り組みの拡大に充てることができる賞金100万ポンド(2億円超)が授与された。以下では、今年の受賞団体を紹介する。

「自然を保護し回復する」部門(Protect and Restore Nature)

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森林を守っても「もうからない」現状

現在、世界に残る熱帯雨林の6割近くを有するブラジル。アマゾンだけでなく大西洋岸森林(アトランティックフォレスト)も、生物多様性の宝庫として名高い。かつてはブラジル国内に130万平方キロ以上広がっていた大西洋岸森林だが、現存する面積はかつての12%にも満たない。

森林の減少によって脅かされるのは、生物多様性だけではない。森林は、気候変動による影響を食い止める防壁であり、CO2貯蔵庫でもある。森林が破壊されるにつれ、地域の気象は急激に変化し、蓄えられる炭素の量も減っている。

森林はこれだけ重要なのにもかかわらず、保全したり再生したりするより、破壊した方が経済的な利益を得られてしまう、というのが現状だ。この状況を変えようとしているのが、ブラジルのスタートアップ企業リ・グリーンである。

採算の取れる森林再生をテクノロジーで実現

リ・グリーンは、AI、衛星画像、ドローン技術、環境・財務データを組み合わせて、再生できる可能性が高い土地を特定し、効率的に森林を再生する。カーボンクレジットや環境に配慮した木材を販売することで、採算性を確保しながら森林を再生している。

リ・グリーンの設立は2021年だが、その活動範囲はすでに大西洋岸森林とアマゾンの3万ヘクタールにまで広がっている。同社は22の苗木栽培業者と提携し、現在までに600万本以上を植樹した。そのうち440万本は2024年の1年間で植えたという。さらに、2032年までに6500万本を植樹することを目指している。

同社は、土地を購入し、継続的に管理するという手法を取る。長期的に関わることで、地域住民と密に連携し、森林を守りながら生計を立てることを支援する。これまでに230以上の雇用を創出し、300人近くに研修を実施したという。

リ・グリーンの長期的な目標は、100万ヘクタールの森林を再生し、年間1500万トンのCO2を吸収することだ。すでに、ネスレ、マイクロソフト、ブラジル国立経済社会開発銀行(BNDES)といった大口投資家が関心を示している。

「大切な大気を浄化する」部門(Clean Our Air)

コロンビア・ボゴタ市

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社会的弱者を苦しめる世界共通の課題

ボゴタ市は、自動車の排ガスや、舗装されていない道路からの粉じんによる大気汚染に悩まされてきた。特に1998年から2005年の期間には、粒子状物質(PM)の濃度が、世界保健機関(WHO)が定める基準値の7倍を超えていた。市民の健康に与える影響は深刻で、特に子どもやお年寄り、低所得層への影響が大きかった。

都市の大気汚染は、世界共通の課題だ。汚染の程度が安全圏を大幅に超えている都市は、世界の都市の40%を超える。

大規模投資で都市を健康に

状況を改善するため、ボゴタ市は、199億ドル規模の投資に踏み切った。歩行者用道路の幅を広げ、歩行者と自転車が通行しやすいようにした。2万本の植樹や屋上緑化などによって緑を増やし、大型貨物車両を制限。初めて地下鉄を開通するなど、公共交通機関も充実させた。特に汚染がひどく、低所得層が多く住む地域では、重点的に大気の質を改善するための特区も設置した。

これらの政策により、ボゴタ市は今や持続可能な都市のモデル事例と言えるまでになった。中南米最長の自転車専用道路や、1400台を超える電気自動車の公共バス網を誇る。ケーブルカーも新たに3路線開通した(さらに2路線が現在建設中)。総距離100キロを超える低排出バス専用車線もある。

こうした取り組みの結果、2018年以降、人口は増えているにもかかわらず、大気汚染の指標は24%近く改善した。渋滞が緩和され、通勤時間も短くなり、人々の運動量も増えた。

ボゴタ市は、2028年までに、年間30万トンのCO2排出削減を見込んでいる。これは、道路上から6万5000台の自動車をなくすことに相当する削減量だ。

「海をよみがえらせる」部門(Revive Our Oceans)

国連 公海条約(The High Seas Treaty)

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誰のものでもない海をどう守るか

世界の海の約3分の2は、どの国の管轄下にもない公海だ。そのほとんどは規制も保護もされていないため、乱獲や過剰な開発を防ぐことができない。

海は地球上のあらゆる命を支えている。多種多様な生き物を育み、人間には食べ物をもたらし、ばく大な量の炭素を吸収・貯蔵している。2022年の昆明・モントリオール生物多様性枠組には、2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として保全するという目標が盛り込まれた。しかし最近まで、公海を効果的に保護するすべはなかった。

国際的合意の裏に地道なアドボカシー活動

70を超える市民社会団体の連合組織である公海同盟(High Seas Alliance)は、2011年の設立以来、公海を守るための活動を続けてきた。政府、先住民族の人々、地域社会、研究者などと連携し、公海に海洋保護区を設置できる国際的な仕組み作りを推進してきたのだ。

長年のアドボカシー活動が実り、5年間にわたる交渉の末、2023年3月に新たな公海条約の内容が合意に至った。この条約は、公海に海洋保護区を設置するための、初となる国際法的な枠組みだ。乱獲を防ぎ、海洋生物を保護し、開発途上国の公平な参加を促進するための対策を示す。

公海同盟の呼びかけに加え、パラオなどの国が先陣を切ったこともあり、2年間で60を超える国が批准するに至った。これにより、公海条約は2026年1月から正式に発効する。現時点で145カ国以上が署名し、EUを含む70カ国以上が批准(条約によって法的に拘束されることに合意)している。

「ゴミの出ない世界を作る」部門(Build a Waste-Free World)

ナイジェリア レイゴス・ファッションウィーク

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ファッション業界の汚名

ファッション業界は、大量生産と大量消費のサイクルに依存している。消費者が購入する衣服は20年前より約60%増えている一方、その衣服を保有する期間は半分になっている。さらに、使用後に再び衣類にリサイクルされるものは1%にも満たない。こうした使い捨て文化が環境に打撃を与え、ファッション業界は「汚染産業」の汚名を背負っている。

そうした中で、レイゴス・ファッションウィークは、ファッションとサステナビリティが両立し得ることを示している。

説明責任を問うことで行動を変える

レイゴス・ファッションウィークは、規模も影響力もアフリカ最大級のファッションイベントだ。2011年にオモヤミ・アケレレ氏によって創設されて以来、アフリカの視点でファッション業界の変革をけん引してきた。素材の循環や、手仕事、地域社会の活性化を中心テーマとすることで、業界最大の課題に立ち向かっている。

同イベントで作品を発表したいデザイナーや企業は、持続可能なモノづくりをしていることを示す必要がある。素材の調達、染色、縫製、輸送など、サプライチェーン全体が倫理的で責任あるものになっているかが審査される。

レイゴス・ファッションウィークの活動は、ファッションショーにとどまらない。発足当初から研修を実施し、地域に根差したサプライチェーンの強化や、伝統的な手仕事の活性化、廃棄物を価値ある素材として使う方法などを伝えている。

アフリカ有数のファッションイベントとして、ブランド各社に説明責任を問い、研修など長期的な変革にも投資することで、業界の慣行に影響を与えてきたのだ。

「気候変動を修復する」部門(Fix Our Climate)

バングラデシュのNGO フレンドシップ

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気候変動が暮らしを破壊している

バングラデシュは、気候変動によって不当に大きな影響を受けている国の一つだ。異常気象で多くの人が亡くなり、移住を余儀なくされている人も多い。生計を立てることや、教育を受けること、未来を見据えることも難しくなっている。

特に厳しい状況にあるのが、沿岸部に住む人たちだ。サイクロンが直撃し、飲用水の塩分濃度が高まり、土壌が浸食される。フレンドシップは、こうしたぜい弱な地域が気候変動に適応するための支援を実施している。

包括的な支援で地域の未来を築く

フレンドシップは、2002年にルナ・カーン氏が創設して以来、バングラデシュ各地で気候変動にぜい弱な地域を支援している。災害への備えだけでなく、健康、教育、生計の手段、公共サービスへのアクセスなど、支援内容は多岐にわたる。

もともとフレンドシップは、ボートで移動する「病院船」として始まった。現在では年間、750万人を超える人たちに医療を届け、830万日分を超える食糧支援を行い、沿岸部の住民8万人以上に安全な飲み水を提供している。

またフレンドシップは、サイクロンの影響から近隣の村を守るため、60キロにわたるマングローブ林の保護にも取り組んでいる。すでにバングラデシュの南海岸にあるマングローブ天然林シュンドルボン近くで、200ヘクタールにわたり65万本を超える木を植え、12万5000人以上の人々の暮らしを守っている。

【参考ウェブサイト】
・アースショット賞
https://earthshotprize.org/

written by

茂木 澄花 (もぎ・すみか)

フリーランス翻訳者(英⇔日)、ライター。 ビジネスとサステナビリティ分野が専門で、ビジネス文書やウェブ記事、出版物などの翻訳やその周辺業務を手掛ける。

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