
サステナブル・ブランド国際会議の学生招待プログラム「第6回 SB Student Ambassador ブロック大会」のフィナーレを飾る東日本大会と西日本大会が10月26日と11月16日にそれぞれ開催された。テーマは、2大会共通で「価値観や産業構造が変化する今、世の中の当たり前を覆すイノベーションを考えよう」。東京で開催された東日本大会には、33校から184人が、西日本大会には39校から210人が参加し、企業による講演やワークショップを通じて、サステナビリティに関するアイデアを活発に交わした。
横浜市の脱炭素 公民連携に高校生も学び発表ーー東日本大会

東日本大会は法政大学市ヶ谷キャンパス(東京都千代田区)で開催された。会場を提供した同大学からは、代表業務執行理事・副学長の小秋本段氏が登壇。「持続可能な社会を作るには、異なる意見を調整する文系的な力と、それを乗り越える新たな技術を生み出す理系的な力、その両方が必要になる」と、文理融合の視点の重要性を説いた。
続いて、横浜市の脱炭素・GREEN×EXPO推進局 循環型社会推進課 担当係長の村尾雄太氏が、市の脱炭素化に向けた広域連携の取り組みを紹介。横浜市内で必要な再生可能エネルギーの9割を市外から調達する必要があるため、東北地方などの17自治体と連携協定を締結していると説明。連携先の地域活性化にも貢献する電力融通の仕組み「e.CYCLE」や、再エネ施設を観光・探究資源と捉えたツアー「GREEN JOURNEY」といった公民連携の具体例を示した。
また横浜市の取り組みを受け、特別プログラムとして関東学院高等学校の生徒が「GREEN JOURNEY for SCHOOL」での学びを発表した。生徒たちは、横浜市の再エネ連携自治体である福島県いわき市を訪れ、木質ペレットを利用するバイオマス発電所や、農業の6次産業化を実践する「ワンダーファーム」を見学。この体験を踏まえ、横浜市の「ゼロカーボン横浜」達成と連携自治体の活性化を目指す「エコ旅サブスク」という新たなサービスを提案した。
関西万博のレガシーを引き継いでいくためにーー西日本大会

西日本大会は関西大学千里山キャンパス(大阪府吹田市)で開催された。大阪府政策企画部次長の阪本哲也氏は、10月に閉幕した大阪関西万博の一番の成果を「人と人とのつながりだ」と強調。高校生に向けて、「今後は将来を担う世代の価値観や意見がますます重要になる。これまでの常識にとらわれず、強い探究心を持って未来の姿を考え、SDGsの実現に向けた具体的なアクションを、関西から日本、そして世界へと発信してほしい」と激励した。
また特別プログラムでは、万博を契機に、そのレガシーを引き継いでいくために、関西の高校生と企業が未来社会の実験場として社会課題解決にチャレンジする、「イノベーションハブ共創プロジェクト〜高校生と考える“いのち輝く”まち〜」に参画している高校生たちが登壇。地域の伝統産業の後継者を増やし、未来へつなげていくための取り組みや、船による水上交通を発展させることで、水の都とも言われる大阪をもっと快適な都市にしていく、といったアイデアの実現を目指して議論を深め、アクションを始めていることが紹介された。
「AI」と「可視化」で良い取り組みを見分ける

基調講演には、aiESGの関大吉CEOが登壇。「本当に良い取り組みをしている企業をどう見分ける?」と題し、AIを活用したESG評価について語った。関氏はまず、サステナビリティを考える上で不可欠な概念として「サプライチェーン」と「ライフサイクル」を解説。Tシャツ1枚を生産するために浴槽約11杯分の水が使われ、ペットボトル約255本分のCO2が排出されるといった具体例を挙げ、製品の背景にある環境・社会負荷を可視化した。
さらに、企業のサステナビリティ報告における「グリーンウォッシング」の問題を指摘。「『自然と共生する』といったあいまいな表現ではなく、『CO2排出量を前年比で12%削減(第三者認証済み)』などのように、定量的で客観的なデータで示すことが重要だ」と述べた。そこで、同社が開発したAIは、企業のサプライチェーン全体における環境・社会・ガバナンスのリスクを網羅的に分析・評価し、企業の「良い取り組み」を科学的に「見える化」するサービスだと紹介した。関氏は自身の経歴を振り返り、「目の前のことを夢中でやり続ければ、本当にやりたいことが見つかる」と高校生にエールを送った。
アップサイクルで新たな価値を オンワードコーポレートデザイン

午後からは、5つのテーマに分かれてワークショップが実施された。各テーマで協賛企業が自社の取り組みを紹介し、高校生はそのインプットを基にディスカッションと発表を行った。
オンワードコーポレートデザインの中島哲氏と大沢こころ氏は、ファッション業界が抱える「大量廃棄」の課題を提示。年間47万トン、1日あたり大型トラック120台分の衣類が廃棄されている現状を共有し、その解決策として「アップサイクル」の可能性を説いた。廃棄繊維から建材を創る「NUNOUS」、旧制服をスリッパに再生する地域連携プロジェクト、海洋漂着ペットボトルを洋服に変える「アップドリフト」など、単なるリサイクルにとどまらず「新たな価値」を創造する事例を紹介した。
ディスカッションテーマは「『ごみ』と『宝物』の境界線はどこ?高校生が考える、身近な廃棄物のクリエイティブ活用法」とされ、高校生からは、学校祭で大量に発生する木材や布の端材を、校内に設置するベンチやアート作品にアップサイクルするアイデアや、着なくなったジャージを回収して体育館の防音材に再生する案などが挙がった。
より多くの人がSAFに親しむために カンタス航空

カンタス航空 日本地区営業本部の上村祐美子氏は、航空業界が環境に与える影響と、2050年までのCO2排出実質ゼロを目指す「NET ZERO」への挑戦を説明した。その鍵となるのが、CO2排出量を最大80%削減できる「SAF(持続可能な航空燃料)」であり、2030年までに使用燃料の10%をSAFに切り替える目標を掲げていることを紹介。また、先住民文化への敬意を示す「Spirit of Australia」という企業理念や、多様性を尊重する取り組みについても語られた。
高校生たちは「生活者がSAFの重要性を理解し、サステナブルなフライトに参加したくなる体験アイデアを考えよう」というテーマに向けて議論。SAFの仕組みを学べるゲームを開発し、空港の待ち時間に遊んでもらうことで認知度を高める、といったアイデアが披露されていた。
防災・減災に向けて地域でできること 損害保険ジャパン

損害保険ジャパン航空宇宙旅行産業部の吉武新吾氏は、企業の原点である「江戸の火消し」に触れ、社会課題解決がDNAであることを強調。激甚化・頻発化する自然災害に対し、保険会社として何ができるかを問いかけた。同社が展開する防災教育プログラム「防災ジャパンダプロジェクト」や、災害に備えた対話づくりのための「逃げ地図」づくり、生態系を活用した防災・減災(Eco-DRR)など、事故や災害を未然に防ぐ「未然防止」の取り組みを多角的に紹介した。
高校生に与えられたディスカッションテーマは「事故や災害に強い地域づくりに向けて取り組めることを考えよう!」。避難所でのプライバシー確保のため、段ボールや布で簡単に組み立てられる個室ブースを設けるアイデアや、高齢者や子ども、ペット連れなど、多様な避難者のニーズに応じた専用エリアを設ける「ゾーニング避難」の提案などが出された。
貨物列車から物流のサステナビリティを考える JR貨物

日本貨物鉄道(JR貨物)経営企画部の荒川真也氏は、トラック65台分の荷物を1人で運べる効率性や、CO2排出量がトラックの約11分の1という環境優位性を持つ貨物鉄道の役割を解説。しかし、国内輸送におけるシェアは5%に過ぎないという課題を共有した。2024年問題によるドライバー不足を背景に、鉄道へのモーダルシフトの重要性が高まっていることも指摘された。
高校生は「環境に優しい貨物列車をより使ってもらうための取り組みを考えよう!」というテーマに向けて議論を重ね、旅客列車が運行しない深夜の時間帯に、地方の旅客線路を貨物列車が走行することで、これまで鉄道網が届かなかった地域へも輸送を拡大するアイデアなどが発表された。
窓から家庭のサステナビリティを考える YKK AP

YKK APサステナビリティ推進部部長の三浦俊介氏は、ここまで行われてきた各ブロック大会と同様に、「窓」の断熱性能の重要性を力説。日本の住宅の多くで採用されているアルミサッシは、樹脂サッシに比べ熱を通しやすく、エネルギー効率が低いと指摘し、高断熱な窓は省エネだけでなく、熱中症やヒートショックといった健康リスクの低減にもつながると訴えた。
高校生は「これからの家づくりがどうなっていけば環境を守ることができるのか」についてアイデアを出し合った。窓そのものを交換するのは高価で難しく、家庭でも手軽に断熱性能を向上できるよう、遮光・断熱効果の高いカーテンの導入を促す補助金制度や、不要になったカーテンを回収し、新たな製品にアップサイクルする循環システムの構築などが提案された。
代表チームが個性豊かにアイデア披露

東日本・西日本大会それぞれ、各テーマ別ワークショップで選ばれた代表5チームが、メイン会場で再びプレゼンテーションを行った。
テーマ①「ファッション×アップサイクル」では、使い捨てカイロと廃棄される制服を組み合わせ、岡山の伝統産業であるデニムにアップサイクルするアイデアが披露された。オンワードコーポレートデザインの中島氏は「アイデア自体が面白く、欲しいと思う人が出てきそうだ」と評価した。
テーマ②「カーボンニュートラルの実現」では、SAFやオーストラリアの文化をフライト中に体験できる「サフツアー」が提案された。カンタス航空の上村氏は「われわれが考えてもいなかった『サフマーク』を独自にデザインしてくれた。旅行全体が循環するアイデアが素晴らしい」とコメントした。
テーマ③「災害に強い地域づくり」では、日本に旅行に来る外国人の地震対策について、漫画やアニメを通じて地震の基礎知識や逃げ方などを発信し、トラックの中で揺れを体験する「地震体験ツアー」に参加してもらうといったアイデアが発表された。損害保険ジャパンの吉武氏は「航空会社や旅行会社を巻き込んで、災害のイメージをポジティブに伝える発想が面白い」とコメントした。
テーマ④「社会インフラとしての物流」では、サブスク型による貨物輸送のプランを提案。企業がこれを利用することで、繁忙期でも確実に荷物を届けることができ、物流を止めない仕組みにつながるというものだ。JR貨物の荒川氏は「環境に良いというだけでは顧客に選ばれるのは難しい。ポイントやマイルでなく、サブスクという新しい視点を提案してくれたのが良かった」と評価した。
テーマ⑤「住まいと環境」では、樹脂製のトリプル窓の高い断熱性能を身をもって感じ、忘れないようにしてもらうため、高校や大学の体育館や校庭で、窓を割り、ストレスを発散するイベントを行うという型破りな方法が登場。YKK APの三浦氏は、「樹脂窓の効果を強力なインパクトで知ってもらうという問題意識を持ってくれたことを評価した。できれば窓を壊さない方法で、窓の大切さを広めてほしい。窓にかかわらず、いろんな社会課題にチャレンジし続けて」と笑顔でアドバイスした。

西日本大会では最後に、メンターを代表して、nestブランドディレクターの村瀬悠氏が、「歌ったり、壊したり、ユニークな発表をありがとう。どのチームも、協賛企業からインプットする姿勢が素晴らしく、前提条件を上手く捉えていたと思う」と総括。その上で、「一つの社会課題でも誰の視点で見るかによって、捉え方は大きく変わる。今後はもっと人にフォーカスすれば、よりブラッシュアップしたアイデアが生まれる。今日の体験をSAの全国大会や今後の探究学習に生かして」と高校生の背中を押した。
2025年も全国9都市でのブロック大会を終えたSA大会。参加した高校生のうち、動画選考会を経て決まった代表校は、2026年2月開催の「サステナブル・ブランド国際会議2026東京・丸の内」内で行われる全国大会に出場する。


横田 伸治(よこた・しんじ)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
東京都練馬区出身。毎日新聞社記者、認定NPO法人カタリバ職員を経て、現職。 関心領域は子どもの権利、若者の居場所づくり・社会参画、まちづくりなど。














