
サステナビリティをけん引する世界のリーダーたちは、いま何を考え、未来をどう見ているのか。2025年10月に米国で開催された「サステナブル・ブランド国際会議 2025(SB’25) サンディエゴ」には、世界中からサステナビリティ分野の第一線で活躍する人々が集った。本記事では、イベントに登壇・参加した12人のリーダーや実践者に、サステナブル・ブランド ジャパンが独自に実施したインタビューの模様をお届けする。その言葉から、サステナビリティの現在地と未来へのヒントを探る。
KoAnn Skrzyniarz(コーアン・スカジニア)氏(SB創設者, Sustainable Brands Worldwide)

Q:あなたの名前と所属を教えてください。
KoAnn:SB創設者のKoAnn Skrzyniarz(コーアン・スカジニア)です。
Q:SB’25 サンディエゴで特に印象に残ったセッションはありますか?
KoAnn:P&GのVirginie Helias氏が共有してくれた、サステナビリティの仕事においていかにバランスを保つかというメッセージが心に残りました。熱意が強すぎても、逆に慎重になりすぎてもいけない。良いバランスが、マーケットプレイスとして持続可能であるために必要だという話でした。
Q:いま特に注目しているサステナビリティのトピックは何ですか?
KoAnn:リジェネラティブ農業(再生型農業)が世界でどのように出現し、拡大しているかに興奮しています。また、レジリエンスとアダプテーション(適応)に関する対話や、未来のサステナビリティリーダーに必要とされるスキルや能力についても関心があります。
Q:5年先を見据えたとき、最も大きな変化やチャンスはどこにあると思いますか?
KoAnn:私たちが今経験しているこの時期は、これまでうまくやってきたことと、改善が必要なことを見直す機会だと思います。これまでの学びを全て糧にして、未来に向けて加速することができるでしょう。
Q:日本のコミュニティへメッセージをお願いします。
KoAnn:日本では、日本が世界のリーダーとなる未来に向けてさまざまな動きが起きています。だから、どうか進み続けて、私たちに道を示し続けてください。
Simon Mainwaring氏 (Founder & CEO, We First Inc.)

Q:あなたの名前と所属を教えてください。
Simon:私はSimon Mainwaringです。持続可能性の戦略とストーリーテリングを専門とするブランドコンサルティング会社、WeFirstのCEO兼創設者です。
Q:SBの価値について教えてください。
Simon:毎年SBに来るのは、このコミュニティが家族だからです。私たちは互いに学び、刺激し合うために集まります。SBの最大の価値は、コミュニティという社会的なつながりの力、仕事と互いを深く思いやる実践者の家族の絆の力を示してくれることです。
Q:いま特に注目しているサステナビリティのトピックは何ですか?
Simon:最も情熱を注いでいるのは、ストーリーテリングの側面です。ビジネスの成長を促進しながら、人々が私たちのインパクトのパートナーになってくれるように、どのようにインスピレーションを与えるか、という点に関心があります。
Q:5年先を見据えたとき、最も大きな変化やチャンスはどこにあると思いますか?
Simon:今後5年間で最大のチャンスは、サステナビリティを優先事項と考える若い世代が、あらゆるタイプの企業でリーダーシップや管理職に就くことです。
Q:日本のコミュニティへメッセージをお願いします。
Simon:(日本でのサステナブル・ブランド国際会議の)10周年は非常に意義深い節目で、日本とそれ以外の地域でサステナビビリティのより大きな未来の基盤を築いてきたことを示しています。私たちは、それを世界の他の地域におけるインスピレーションとして見ています。そのコミットメントに感謝します。
Virginie Helias氏 (Chief Sustainability Officer, P&G=Procter & Gamble)

Q:あなたの名前と所属を教えてください。
Virginie:私の名前はVirginie Helias、P&Gの最高サステナビリティ責任者です。
Q:SBの価値について教えてください。
Virginie:SBは、現状を変え、競合他社を含むあらゆる境界を越えて協力し合おうとする、同じ志を持つ人々の素晴らしいコミュニティです。インスピレーション、新しいアイデア、そして行動を促すためのコミュニティです。
Q:いま特に注目しているサステナビリティのトピックは何ですか?
Virginie:サステナビリティをビジネスに組み込むことで価値を創造できることを示し続けるために、サステナビリティのビジネスケースを強化することが求められています。消費者、顧客、株主、そして社会全体を喜ばせるための適切なバランスを見つけることが極めて重要です。
Q:日本のコミュニティへメッセージをお願いします。
Virginie:日本の皆さんはイノベーションの最前線にいます。私たちが直面している課題には、破壊的なイノベーションが必要です。パフォーマンス、サステナビリティ、価値創造という3つの要素を同時に達成する新しいアイデアや製品ソリューションを皆さんが生み出してくれることを期待しています。
Roxanne Clement氏 (Global Dairy Category Sustainability Director, Danone)

Q:あなたの名前と所属を教えてください。
Roxanne:はい、私の名前はRoxanne Clementです。ダノンのグローバル・サステナビリティ・ディレクターを務めています。
Q:SBの価値について教えてください。
Roxanne:私の仕事は、サステナビリティ戦略を定義することと、その活動の価値を消費者に伝え、彼らの心に響く言葉で語ることの両方に関わっています。ここは、そのための知見を得られる場所です。
Q:いま特に注目しているサステナビリティのトピックは何ですか?
Roxanne:私たちの事業は食品なので、農業分野で最も大きな影響が出ます。そのため、リジェネラティブ農業(再生型農業)が大きなテーマです。それに加えて、炭素排出量の削減やパッケージングも重要です。
Q:5年先を見据えたとき、最も大きな変化やチャンスはどこにあると思いますか?
Roxanne:サステナブルに生産された食品が、いかにあなたの健康にとってより良いものか、あるいはより品質が高いものであるかという具体的なつながりを確立することです。それができれば、人々はその理由で製品を購入するようになるでしょう。
Q:日本のコミュニティへメッセージをお願いします。
Roxanne:今行われている素晴らしい仕事を継続し、加速させてください。そして、協力し合っていくことが重要だと思います。
James Reeves氏(Director, Sustainability Strategy, American Honda Motor Company)

Q:あなたの名前と所属を教えてください。
James:私の名前はJames Reevesです。北米におけるホンダのサステナビリティ戦略を主導しています。
Q:SBの価値について教えてください。
James:最大の価値は、他社の同業者と会い、彼らがどのような課題に直面し、それをどう乗り越え、どんな成功を収めたかを知ることです。特に今は、サステナビリティの推進派でも反対派でもない「中間層」にいる人々にアプローチするための新しい方法を学ぶことが重要だと考えています。
Q:いま特に注目しているサステナビリティのトピックは何ですか?
James:資源のサーキュラリティ(循環性)は、ホンダにとって非常に重要です。炭素排出量ももちろん重要ですが、私たちは特に資源の循環に注力しており、北米で多くの開発を進めています。
Q:5年先を見据えたとき、最も大きな変化やチャンスはどこにあると思いますか?
James:今後5年で、いくつかの変化が見られるでしょう。一つは、米国の一部の州でサステナビリティに関する新しい法律が制定されており、そうした規制の変更にどう対応していくかという点です。
Q:日本のコミュニティへメッセージをお願いします。
James:ホンダで働き、日本の文化について学ぶことを本当に楽しんでいます。私たちがどれだけ多くの共通点を持っているかに、大きな喜びを感じています。皆さんと共に、これらの絆を深めていけることを楽しみにしています。
Thomas Overthun氏 (Executive Design Director, IDEO)& Vivian Barad氏 (Partner and Executive Director, IDEO)

Q:あなたの名前と所属を教えてください。
Thomas(写真左):サンフランシスコのIDEOで工業デザイナーをしています。より良いものを世界にもたらしたいと考えています。
Vivian(写真右):私は工業デザイン、イノベーション、新製品、ブランド、サービス、体験の分野で働いています。
Q:SBの価値について教えてください。
Thomas:ここは非常に協力的で、誰もが他者を引き上げようと努力しています。逆風が吹いている今、これは驚くほど重要なことです。
Vivian:私にとって最大の価値は、ここにいる人々のインスピレーションと情熱です。彼らは世界をより良い場所にしようと懸命に努力しており、その姿に希望をもらえます。
Q:いま特に注目しているサステナビリティのトピックは何ですか?
Thomas:私はクライアントと一緒に仕事をして、彼らの将来について考えることに多くの時間を費やしています。それ自体が私にとって持続可能性に関して最も興味深いことです。つまり、持続可能性は解決策の一部なのです。
Vivian:私が主催したトークセッションでも触れましたが、特に耐久材に関して取り組んでいます。IDEOで自分が担当しているこの分野について、技術を学び、新しい考え方のインスピレーションを得たいと考えています。
Q:5年先を見据えたとき、最も大きな変化やチャンスはどこにあると思いますか?
Thomas:5年後には、今の若い世代が投票権を持ち、彼らの声がもっと反映されるようになります。彼らの世代には、サステナビリティやサーキュラーの考え方が既に組み込まれています。
Vivian:消費者が変化を後押しするでしょう。人々はより健康的な生活を望んでおり、企業に対して懐疑的です。消費者が変化の原動力となることで、5年後には大きな変化が起こると思います。
Q:日本のコミュニティへメッセージをお願いします。
Thomas:日本の文化には、皆で協力して良い生活を送ろうという感覚が強く根付いていると感じます。これは他の文化が学べる、非常に重要な点です。
Vivian:日本文化における自然の重要性を、サステナビリティの取り組みに生かすポテンシャルに期待しています。
Vincent Avanzi氏 (Chief Poetic Officer)

Q:あなたの名前と所属を教えてください。
Vincent:Vincent Avanziです。パリを拠点に、ビジネスと「詩」を結び付けながら、リーダーシップ、エンゲージメント、ストーリーテリング、サステナビリティなどのテーマで講演やコンサルティングをしています。
Q:SBの価値について教えてください。
Vincent:SBの最大の価値は、コミュニティ。そして未来の新しいトレンドを発明するための先駆的な原動力となる革新的なコンテンツです。
Q:いま特に注目しているサステナビリティのトピックは何ですか?
Vincent:「詩的なリーダーシップ」に関心があります。私たちが持続可能な世界へ向かうためには、より影響力があり、バランスの取れたリーダーシップによって、自分たちの信念や情熱を貫き通す力が必要です。
Q:日本のコミュニティへメッセージをお願いします。
Vincent:日本は俳句を生んだ、とても美しい詩の国です。自然の詩、生命の詩、世界の美しさに畏敬の念を抱くことは、愛と同じように、行動するための原動力となります。世界の美しさに感動することが、いかに行動につながるかを理解することは、本当に素晴らしいことです。
Aisha Byrd氏 (CEO & Founder, R&B Dog Bakery)

Q:あなたの名前と所属を教えてください。
Aisha: Aisha Byrdです。犬用の自然食品を専門に扱うR&B Dog Bakeryの創始者で、CEOをしています。
Q:SBの価値について教えてください。
Aisha:サステナビリティへの取り組みを持つ素晴らしいブランドとネットワークを築き、その知識を学ぶために来ました。私たちは、パッケージングや製品を通じてサステナビリティへの取り組みを伝えていきたいと考えています。
Q:いま特に注目しているサステナビリティのトピックは何ですか?
Aisha:パッケージングに関するレジリエンスとサステナビリティのトピックに非常に関心があります。私たちの商品が小売店の棚に並ぶとき、そのことを顧客に明確に伝えられるようにするためです。
Q:5年先を見据えたとき、最も大きな変化やチャンスはどこにあると思いますか?
Aisha:5年後の課題は、私たちが現在直面している気候変動の課題だと思います。私たちのドッグベーカリーでは地元の農家を多く利用していますが、農作物を維持し、製品を生産するための良質な原料を確保することが難しくなるかもしれません。
Q:日本のコミュニティへメッセージをお願いします。
Aisha:このサステナビリティのモデルを継続し、コミュニティとして、全ての製品やサービスにおいてサステナビリティの取り組みを続けるために、どのように協力できるかを考えていきましょう。
Luis Patterson氏 (Country Director of Sustainable Brands New Zealand)

Q:あなたの名前と所属を教えてください。
Luis: SBニュージーランドのカントリーディレクター、 Luis Pattersonです。
Q:SBの価値について教えてください。
Luis:私がSB’25 サンディエゴに来た理由は2つあります。1つは、ニュージーランドには世界に提供できるものを多く持つ素晴らしい企業がたくさんあるので、そのソリューションやブランドを米国の皆さんに紹介するためです。もう1つは、来年8月にニュージーランドで開催するカンファレンスのヘッドライナースピーカーを探すためです。
Q:いま特に注目しているサステナビリティのトピックは何ですか?
Luis:非線形のビジネスモデルです。例えば、成長の選択肢を検討するような、従来とは異なるビジネスモデルが議題の一部になる必要があるでしょう。
Q:5年先を見据えたとき、最も大きな変化やチャンスはどこにあると思いますか?
Luis:最大の機会はコラボレーションです。長年にわたり技術的な解決策について多くの議論がなされてきましたが、今後変化を加速させるのは、組織やセクターを超えたコラボレーションでしょう。
Q:日本のコミュニティへメッセージをお願いします。
Luis:どの国も孤立しているわけではなく、サプライチェーンはグローバルです。ですから、日本にいる皆さん、世界とつながり、世界中のさまざまな支部にあるSBに参加してください。
Ruby Benoit氏(CEO and founder, AI Lift Marketing)

Q:あなたの名前と所属を教えてください。
Ruby:私の名前はRuby Benoit、AI Lift MarketingのCEO兼創設者です。私たちは基本的に、見過ごされがちなリード(見込み客)をペイイング・カスタマー(お金を使ってくれる顧客)に変える事業を行っています。
Q:SBの価値について教えてください。
Ruby:実は今年が初めての参加なんです。ですから、最大の価値は「学び」、そして皆さんのような新しい人々に出会い、関係性を築くことだと思います。一緒に仕事ができるパートナーを見つけ、うまくいけば新しいビジネスを生み出すために来ました。
Q:いま特に注目しているサステナビリティのトピックは何ですか?
Ruby:私が最も多く参加しているトラックは「サステナビリティを売る」というものです。私自身マーケティングに携わっているので、さまざまなトレンドやリサーチ、インサイトについてもっと学びたいと思っています。
Q:サステナビリティにおいて、最も大きな変化やチャンスはどこにあると思いますか?
Ruby:今後最も重要なことは、より多くの人々がサステナビリティに取り組み、そして彼らが実際に「本物で誠実である」ことです。これは私が最初のセッションで学んだことです。これ以上グリーンウォッシングがなくなり、企業が本物になり、サステナビリティを推進していくこと、そしてAIを使ってそのように自らをプロモートしていくことだと思います。
Q:日本のコミュニティへメッセージをお願いします。
Ruby:ビジネスに関しては、自分が誰で、自分の価値観が何であるかを知ることが非常に重要です。これは私がマーケティングに携わっているからこそ感じることです。そして、あなたのクライアントが誰で、彼らのペインポイント(悩み)が何であるかを知ること。なぜあなたが彼らのペインポイントの解決策となるのか、そして、あなたがどのようにサステナビリティを自らの行動に取り入れ、真のインパクトを生み出せるかを考えることが大切です。
Andrew Winston氏(Writer, Speaker, Consultant on corporate strategy)

Q:あなたの名前と所属を教えてください。
Andrew:Andrew Winstonです。持続可能なビジネス戦略に関して、米ハーバード・ビジネス・レビュー誌や米MITスローン・マネジメント・レビュー誌などに記事を多数執筆しています。
Q:SBの価値について教えてください。
Andrew:コミュニティ。私は、このコミュニティが勇気を持ち、サステナビリティのために戦うという非常に困難なことを行うよう奨励するために来ました。
Q:いま特に注目しているサステナビリティのトピックは何ですか?
Andrew:米国におけるESGへの反発と、企業がそれに対してどのように対応しているかという点に注目しています。多くの企業が、顧客や従業員の多様性といった課題に向き合う中で、静かになってしまっている現状があります。
Q:5年先を見据えたとき、最も大きな変化やチャンスはどこにあると思いますか?
Andrew:もし米国で何かがすぐに変わらなければ、5年後には米国は大きく遅れをとるでしょう。行動の中心はヨーロッパ、そしておそらくアジアになると思います。また、今は攻撃にさらされていますが、サステナビリティは企業により深く根付いていくでしょう。グリーンハッシング(環境への取り組みを意図的に公表しないこと)が収まることも期待しています。
Q:日本のコミュニティへメッセージをお願いします。
Andrew:10周年おめでとうございます。素晴らしいことです。米国の状況に気を取られず、日本のビジネス環境と文化にとって最も理にかなった方法で前進し続けてください。
横田 伸治(よこた・しんじ)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
東京都練馬区出身。毎日新聞社記者、認定NPO法人カタリバ職員を経て、現職。 関心領域は子どもの権利、若者の居場所づくり・社会参画、まちづくりなど。









