
image credit: UN Photo/Evan Schneider
2025年9月の国連総会に合わせ、持続可能な開発に向けた国際金融アーキテクチャ改革を議論する隔年サミットが初めて開催された。これは2024年の国連総会で採択された「未来のための協定」で定められたものだ。国際金融における途上国の発言力と、国際機関同士の連携を強化する狙いがある。本記事では、同サミットでの各国、各機関の発言を一部ピックアップして紹介する。
9月24日、国連総会に合わせて開かれた気候サミットは、中国の習近平国家主席がビデオ演説で米国をけん制する一方、米国は欠席し、世界の注目を集めた。だが、同じ日に国連でもう1つのサミットが開かれていたことをご存知だろうか。
「持続可能で、包摂的、レジリエントな世界経済のための隔年サミット(Biennial Summit for a Sustainable, Inclusive and Resilient Global Economy)」は、昨年の国連総会で採択された「未来のための協定」に基づき、今回初めて開催されたものだ。多国間組織や各国の代表が、SDGs達成のための資金確保について進捗を報告し、多国間組織の連携強化を図ることを目的としている。
未来のための協定で定められた56のアクションのうち、同サミットの開催を定めたのは「アクション48」。ここには「私たちは、開発途上国の発言力と代表性を強化するため、国際金融アーキテクチャ改革を加速する」と明記されている。
これを実現するためのステップとして、2025年6月から7月にかけてスペインのセビリアで開発資金国際会議(FfD4)が開催され、成果文書「セビリア・コミットメント」が採択された。持続可能な開発を実現するために不足する資金を確保するため、税、債務、融資、民間投資といった面での道筋を示したものだ。
それに続く今回のサミットには、国際金融を担う約20の国際機関や国際金融機関、あらゆる所得レベルの80カ国を超える国の代表が出席。なお、セビリアでの会議に続き、今回も米国代表の姿は確認できなかった。米国の支援に頼れない今、持続可能な開発のための資金をどのように確保するか、各国、各機関が取り組みの進捗と今後の指針を示した。
サミット開催の背景に、ばく大な資金不足
サミットの冒頭、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、サミット発足の背景として次の3点を挙げた。
- 資金不足と債務危機が拡大していること
- 金融に関する国際的な対話がさまざまな機関に分散していること
- 多国間主義が揺らぎ、開発途上国が、自国の直接的な関心事においてさえ意思決定から疎外される場面が多いこと
グテーレス氏は「開発途上国は、自国に影響を及ぼす決定について、もっと発言権と影響力を持つべきだ」とし、「会議は目的ではなく、行動を求める人々のために成果を上げるための手段だ」と呼びかけた。
続いて発言した国連総会議長のアンナレーナ・ベアボック氏は、次のように指摘した。「SDGsのために必要な資金は、何兆ドルにも上る。そんな資金不足を解消することは不可能だ、と言う人もいるだろう。しかし、昨年だけで2.5兆ドルが防衛費に費やされた。つまり、問題は金額ではなく、優先順位の付け方なのだ」
国際機関から見た国際金融の現状と改革
国際通貨基金(IMF)のクリスタリナ・ゲオルギエバ専務理事は「世界の公的債務が今後10年でGDPの約100%に達すると予想されている」「世界経済の成長率はコロナ前を大きく下回っている」という厳しい現状を示した。しかし、そんな中でも世界経済は驚くほどのレジリエンスを見せているという。その理由として同氏は、各国の政策と、民間セクターの対応力の2点を挙げた。
IMFは低所得国への支援を拡大しており、現在運営している50以上のプログラムのうち、半数以上は低所得国が対象だ。また昨年、取締役会にサブサハラ・アフリカ出身者の議席を設けることで、同地域の発言力を強化したという。
世界貿易機関(WTO)のンゴジ・オコンジョ=イウェアラ事務局長は、米国の関税措置で混乱が起きたとしながらも「世界の物品貿易の72%はWTOの最恵国待遇の条件で行われており、貿易システムは依然として安定している」と前向きなトーンで語った。開発資金を調達するためには貿易が重要であると強調した上で、「貿易システムの根本的な改革が必要だ」と語り、今こそ特定の国に依存しない貿易関係を築くよう呼びかけた。
そのためのステップとして、同氏は、すでに世界の物品貿易の約4分の1を占め、なお増加傾向にある「南・南貿易(途上国間の貿易)」の推進を挙げた。またWTOは、違法な漁業に充てられていた補助金をカットするなど、補助金の再分配も進めているという。
世界銀行のアクセル・ヴァン・トロッツェンバーグ上級専務理事は「最近、債務問題が複雑化している」と指摘した。対外債務だけが問題なのではなく、国内の公的債務も大きな割合を占めているという。世界銀行は債務の持続可能性分析を進めているが、情報を開示していない国が多いとし、債務の透明性向上を呼びかけた。

途上国が抱える資金調達の課題と対策
アフリカ連合のマハムッド・アリ・ユスフ委員長は「国際金融アーキテクチャ改革はもはや任意ではなく、緊急の課題である」と述べた。同氏は、アフリカの債務が増加していること、資本コストが高いこと、不正な資金移動により年間880億ドルが流出していることを指摘。依存の連鎖を断ち切るため、下記の対策を提示した。
- アフリカの機関と資本市場の強化
- アフリカ信用格付機関の設立
- 国際的な租税協調にアフリカの視点を組み込むこと
- 債務に対する持続可能な解決策の確保
後発開発途上国(LDC)の代表として発言したバングラデシュのムハマド・ユヌス主席顧問は、発言の冒頭、「私の関心は若い世代にある。バングラデシュでは、若者が立ち上がり、腐敗や不正に抗議するため、命を懸けて声を上げている」と、自らの言葉で力強く語った。
また「4兆ドルを超えるSDGsの資金不足により、最も深刻な影響を受けているのは最貧困層だ」とし、LDCへの支援を約束したドーハ行動計画を実行に移すよう求めた。「約束と成果のギャップは、統計だけに現れるのではなく、命が失われ、人間の潜在能力が失われることにつながる。国際社会は約束に見合った行動を取るべきだ」と対策の緊急性を強調した。
小島嶼開発途上国(SIDS)を代表して発言したのは、パラオ共和国のウィップス大統領だ。「私たちは、自ら生み出したわけではない債務や外的な衝撃の影響を過剰に受け、自ら作ったわけではないルールによって縛られている」と語り、国際金融の不平等を指摘した。また、開発の状況を判断するには、所得だけでなく、その国のさまざまな面でのぜい弱性を考慮に入れる必要があるとし、「多次元ぜい弱性指数」の重要性を強調した。この指数は、昨年5月に開催されたSIDS国際会議で、国際金融機関の政策や実務に組み込むよう提言されたものだ。
「SIDSの意見やニーズは、世界的な金融の基準を満たしていても、軽視されがちだ。多くの国が、コンプライアンス規制によるブラックリスト入りのリスクを抱え、銀行は撤退している。一方的な経済措置によって貿易や投資が制限され、SIDSが克服しようとしているぜい弱性がさらに深まっている」。ウィップス大統領はこう危機感を示し、小規模でぜい弱な国が国際的な意思決定の場で発言力を持てるような改革を求めた。
特定の国に頼らない新たな国際金融の仕組みを
サミットの最後に、国連経済社会理事会(ECOSOC)のロク・バハドゥール・タパ議長は「私たちは今日、SDGs達成に必要なばく大な資金の不足、債務負荷の増大、貿易摩擦の悪化、援助の縮小といった課題の大きさに直面した。しかし同時に、行動する決意も確認した」と述べた。決意の内容としては下記を挙げた。
- セビリア・コミットメントを実行すること
- 持続可能な開発に向けた投資を大規模に動員すること
- 債務危機に正面から取り組むこと
- 公正な未来のために国際金融アーキテクチャを改革すること
また、サミット全体を通じて、「多国間主義」と「連帯」というキーワードも多く聞かれた。SDGsの進捗や開発資金の現状については、悲観的な見方もある。しかし、途上国を巻き込んだ議論は着実に進んでおり、今の状況は、特定の国に頼らない仕組みを作る機会だという捉え方もできる。その機会をものにできるかどうかは、国際的な連携にかかっている。
| 【参考URL】 First Biennial Summit for a Sustainable, Inclusive, and Resilient Global Economy: Implementing commitments on financing development https://unfoundation.org/event/first-biennial-summit-for-a-sustainable-inclusive-and-resilient-global-economy-implementing-commitments-on-financing-development UNGA hosts first ever development finance summit to boost SDGs https://news.un.org/en/story/2025/09/1165944 The Sevilla Commitment https://news.un.org/en/story/2025/07/1165276 国連の小島嶼開発途上国(SIDS)国際会議 https://www.unic.or.jp/news_press/info/50367 |
茂木 澄花 (もぎ・すみか)
フリーランス翻訳者(英⇔日)、ライター。 ビジネスとサステナビリティ分野が専門で、ビジネス文書やウェブ記事、出版物などの翻訳やその周辺業務を手掛ける。













