
ソニーグループは2025年8月、2026~2030年度の中期環境目標「Green Management 2030(GM2030)」を発表した。2050年までの長期ビジョン「Road to Zero」に向けて5年ごとに更新しているマイルストーンの最新5カ年計画であり、自社の事業活動にとどまらず、サプライチェーン全体での環境負荷削減を明確に打ち出した点が特徴だ。環境配慮がグローバルな経営アジェンダとなる中、エレクトロニクス業界のリーディングカンパニーであるソニーの新たな方針は、業界全体の動向を占う上でも注目される。
加速する業界の環境目標設定
近年、エレクトロニクス業界における環境目標の設定は高度化している。かつては自社の工場やオフィスでの排出量削減(Scope1、2)が中心だったが、その焦点は原材料調達から製品の使用・廃棄に至るまでのバリューチェーン全体(Scope3)へと移行している。
この潮流をけん引してきたのがアップルだ。同社は2030年までにサプライチェーンと製品ライフサイクル全体でのカーボンニュートラル達成を宣言。すでに再生可能エネルギーの導入をサプライヤーに働きかけるなど、具体的なアクションを進めている。また、エレクトロニクス事業も展開するマイクロソフトは2030年までに「カーボンネガティブ(排出量が除去量を下回る状態)」の達成を掲げ、さらに2050年までには創業以来の累積排出量を全て除去するとの目標を掲げている。
国内勢も例外ではない。パナソニックホールディングスは、長期環境ビジョン「Panasonic GREEN IMPACT」を掲げ、2050年に向けて、自社のバリューチェーンでの排出量削減だけでなく、既存事業を通じた排出量削減貢献、新規技術開発による排出量削減貢献においても、それぞれ1億トン以上のCO2削減を表明している。
GM2030を支える独自技術
ソニーのGM2030もこうした文脈の中に位置付けられる。GM2030の柱の一つは、2025年度比で25%削減を目指すScope3の削減目標だ。具体的には、主要なサプライヤーに対し、同社製品製造時の使用電力を100%再エネとするよう求めるほか、テレビ「ブラビア」における高効率なバックライト制御技術のように製品の省エネ化も鍵となる。
一方で、自社排出量となるScope1とScope2については25年度比で60%削減を目指し、自社オペレーションで使用する電力も2030年までに100%再エネ由来とすることを明言した。
資源循環も重要テーマとして掲げられる。ソニーは前中期目標(GM2025)で示した「小型製品のプラ包装全廃」などを着実に進めてきた。その推進力となったのが、再生プラスチック「SORPLAS」をはじめとする新素材の独自開発だ。高い再生材比率とバージンプラに劣らない性能を両立させ、イヤホン、スマートフォン、テレビなど幅広く採用した。
GM2030ではさらに目標を引き上げ、「製品重量5kg以下の製品のプラ包装全廃」や「製品重量あたりの非循環プラスチック利用率を30%以下」といった、より踏み込んだ目標を掲げている。
技術と連携で目標達成を
ソニーのGM2030をはじめとするエレクトロニクス業界の環境配慮目標は、範囲・指標の広さと野心性でユーザーからの注目を集めるが、実効性を伴わなければ単なる目標表明で終わってしまうリスクは常にある。
まず、サプライチェーン全体に再エネ化を働きかけるという方針は、特に中小サプライヤーにとっては、設備更新や電源調達の制約がボトルネックになりうる。またScope3 の削減目標は「製品使用時の消費電力低減」「材料のリサイクル性向上」など多様な要因に左右され、顧客行動や素材市場動向など外部要因によって達成困難性が上がる。さらに、プラスチック包装の削減や循環率向上は回収インフラやリサイクル技術、コスト負担分担を巡る制度設計とステークホルダー協働なしには進まない。
ソニーの現場担当者らはGM2030の特設サイトで思いを語っている。ある包装設計の担当者は、「紙素材は発泡スチロールに比べると形状を保つ力が弱く、湿気の影響で劣化する場合もある。しかし強度だけを優先すると包装の量が増え、製品輸送時の環境負荷も高くなる。環境負荷低減だけではなく、品質維持とコストの抑制、その全てを満たして初めて、最適な設計と呼べる」と現状を分析。
また、テレビ開発担当者は「今は大きな画面できれいな映像や音を楽しめる時代。そこに省エネが加われば、環境負荷削減も叶(かな)えながら、心からテレビを楽しむことができる。純粋にコンテンツに没頭できるよう、今後もテレビの品質向上と環境配慮の両立を目指す」と決意を語っている。
各社が今後問われるのは計画立案力だけではなく、「巻き込み力」「実行力」「透明性のある情報開示力」と言える。掲げた目標をどれだけ実装させられるか、各社の挑戦は続く。
【参照サイト】 ソニー「Green Management 2030」 https://www.sony.com/ja/SonyInfo/csr/eco/ourvision/GM2030/ |
横田 伸治(よこた・しんじ)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
東京都練馬区出身。毎日新聞社記者、認定NPO法人カタリバ職員を経て、現職。 関心領域は子どもの権利、若者の居場所づくり・社会参画、まちづくりなど。