
環境省によると、日本国内の廃棄物最終処分場の残余年数はあと約25年。一方で、企業は脱炭素や廃棄物削減の目標達成に迫られている。そんな中、環境・社会課題に取り組むベンチャー・Gab(東京都渋谷区)は2025年9月、廃棄物を独自のプロセスで炭化し、人工皮革などの多様な素材へと変換するソリューション「.Garbon(ガーボン)」の始動を発表した。
これまでコストをかけて処分していた廃棄物を高付加価値素材に生まれ変わらせることで、企業の資源循環と事業成長の両立を狙う。トヨタ自動車のカーボンニュートラル推進活動「TOYOTA UPCYCLE」プロジェクトとの実証実験も開始するという。
イノベーションで「廃棄ゼロ社会」の実現を
.Garbonは、これまで再利用が困難だった廃棄物を独自のプロセスで炭化し、人工皮革をはじめとする多様な「選べる素材」へと変換するイノベーションだ。企業から回収したプラスチックや衣服、食料残渣(さ)など、従来は焼却処分されていた有機系廃棄物を炭化し、排出元企業の資源循環ストーリーを伴った資源として生まれ変わらせる。

炭化とは、廃棄物などの有機物を無酸素状態で加熱し、熱分解する処理方法。Gabによると、焼却処理と比べてCO2排出量を約30~50%抑えられる。生成された炭の粉末は黒色顔料としての汎用(はんよう)性に加え、消臭・抗菌・遠赤外線効果などの機能も備えているという。Gab代表取締役CEOの山内萌斗(もえと)氏は、「リサイクル困難な廃棄物の新たな付加価値の付け方として、炭の機能性に着目した」と説明。用途に応じて人工皮革や建材、繊維など幅広い高付加価値素材へと展開可能な点が特徴だ。

メリットは環境配慮だけではない。山内氏は「これまで企業は、廃棄物を処分するためにお金を払ってきた。これからは廃棄物を炭化し、高付加価値素材へと変換して新たな商品を生み出すことで、廃棄コストが売上に変わる可能性がある」と、ビジネスモデルへの期待を語る。
廃棄物問題への新たなアプローチ
環境省の発表によると、日本では毎年約300万トン以上の焼却灰が埋立処分されており、最終処分場の残余年数は約24.8年(2023年度末現在)と試算されている。一方で、年間約4000万トン排出されるごみのうち、リサイクルされているのは約20%にとどまる。
山内氏は「多くの企業から『リサイクルは本当に限界がある』という声を聞いてきた」と実情を語る。多くの企業が2030年~2050年にかけて「廃棄ゼロ」「カーボンニュートラル」の目標を掲げる中、より実効性のある解決策が求められている。
.Garbonは、こうした課題に対する新たな循環手段として、これまでの再生利用技術では再利用困難な廃棄物を資源化するソリューションとなる。
人工皮革をはじめ、多様な素材展開

.Garbonから生み出される循環型新素材の一つが「.Garbon Synthetic Leather(ガーボン・シンセティック・レザー)」だ。実際に触れてみると、本革のような高級感のある見た目と質感でありながら、重量は本革の半分以下と圧倒的に軽い。高い撥水性も備え、手入れがしやすいといった利点もある。
廃棄物由来の炭の粉末を樹脂に配合することで消臭・抗菌などの機能性が向上しており、「リカバリーウェア」として話題となっている遠赤外線効果の実証も予定しているという。レザージャケットやシューズ、バッグ、名刺入れなどのファッションアイテムや、インテリア、内装建材まで、レザーを使用するアイテム全般に幅広く利用可能だ。
その他、回収する廃棄物の種類と、排出元企業の要望に応じて、左官材、中綿、ペレット、顔料・染料、消臭・抗菌剤、壁紙、肥料など、多様な素材を生み出すことができるという。
社会全体を巻き込んだ資源循環へ
プロジェクトのリリースと同時に、トヨタ自動車のカーボンニュートラル推進活動の一つである「TOYOTA UPCYCLE」プロジェクトとの連携も発表された。自動車製造工程で発生する廃棄物や使用済み素材を対象に、資源循環モデルの実証実験を開始するという。
今後、ファッション、建材、日用品など、より幅広い業界からも廃棄物の回収を行う予定。「廃棄物の買い取り・炭化・素材化・再流通」という循環インフラを社会に根付かせ、廃棄ゼロ社会の実現を目指す。
Gabはさらに、循環型社会の実現に取り組む他企業との横断的なパートナーシップも狙う。炭化技術にとどまらず、複数社の廃棄物処理技術を結集し、再資源化しきれていない廃棄物の完全循環サイクルを構築する「ゼロウェイストコンソーシアム」構想も発表しており、社会全体が一丸となった新たな資源循環モデル実現へ挑む構えだ。
横田 伸治(よこた・しんじ)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
東京都練馬区出身。毎日新聞社記者、認定NPO法人カタリバ職員を経て、現職。 関心領域は子どもの権利、若者の居場所づくり・社会参画、まちづくりなど。