
Image credit: Neutrogena
ニュートロジーナやニベアといった世界的な化粧品ブランドが、欧州向けの自社ウェブサイトなどで、商品の環境負荷を評価する「エコビューティスコア」の表示を始めた。今後スコアを開示するブランドは増えていく見込みで、欧州以外の地域や、現在は対象外となっている製品カテゴリーにも拡大していく。第三者機関による評価を簡潔に表示することで、消費者が持続可能な製品を選びやすくなり、メーカー側も改善行動を取りやすくなることが期待される。(翻訳・編集=茂木澄花)
ライフサイクルにおける環境負荷を明確に開示
エコビューティスコアとは、科学的根拠に基づいて化粧品およびスキンケア・ヘアケア・衛生用品(以下「パーソナルケア製品」)の環境負荷を評価する国際的な枠組みだ。
この評価の仕組みは、非営利団体であるエコビューティスコア協会が、化粧品やパーソナルケア製品を扱う70を超える企業や業界団体と協働し、約3年かけて開発したものだ(編集部補足:日本からも花王と資生堂が参画している)。美容製品の環境負荷を測定・開示するための、明確で透明性と一貫性のある手段をブランドや小売店にもたらす。評価手法はEUの製品環境フットプリント(PEF)の手法を基にしており、製品ライフサイクル全体で土地、水、空気に与える影響の程度に応じて、製品ごとにAからEの5段階で評価する(Aが最も評価が高い)。
2025年、欧州における美容・パーソナルケア製品の消費額は1500億ドルを超えると予想されている。持続可能性の高い選択肢を求める声は高まっているが、欧州に住む消費者の約半数は、持続可能性についてブランドが発信する内容にいまだ懐疑的だ。実際に製品が環境に与えている負荷を正確に伝えていないのではないかと疑っている。
こうした状況の中でエコビューティスコアは、タイムリーで実用的な解決策だと言える。複雑な問題を、確固たる科学的根拠に基づきながらも利用しやすい評価システムに変換した仕組みだ。そのプロセスは厳密で、ライフサイクル全体で製品が環境に与える影響を評価する。原材料や包装資材の調達から、製品がどのように使われて廃棄されるのかに至るまで、全てを分析するのだ。現在、消費者がエコビューティスコアを閲覧できるのは各ブランドのウェブサイトやSNSのみだが、2025年中には欧州で製品パッケージでの表示も始まる予定だ。
消費者がスコアを理解し、購入時に考慮する
エコビューティスコアの評価手法とプラットフォームは、外部の専門家による検討・検証を経ている。また、ブランドがこの評価システムを利用する場合、定期的に監査を受け、独立した第三者機関の認証を受けることになる。こうした透明性のある評価を求める消費者の声はすでに高まっている。世界的なマーケティングリサーチ会社イプソスが、ブラジル、中国、フランス、米国で9000人を超える消費者に対して実施した調査*では、3分の2を超える回答者がエコビューティスコアのラベルは信頼できると答えた。また、購入時に同スコアを考慮に入れる意思がある人は過半数に上った。
*Assessing Consumer Interest Best Design And Narrative EcoBeautyScore(2023年3月)
「エコビューティスコアは、化粧品業界に長らく欠けていた、透明性を高める手段となります」。エコビューティスコア協会のマネージングディレクターを務めるジョン゠バティスト・マシニョン氏はこう話す。「今回初めて、科学に基づき一貫性を持って、消費者が理解しやすい形でブランドが環境に与える影響を伝えることができるようになりました。企業は、シンプルで使いやすいプラットフォームを通じて、どこで自社製品による環境負荷が発生しているのか、情報を豊富に得ることができます。あらゆる規模のブランドが、持続可能性に関する専門知識の有無にかかわらず利用できるようになっているのです」
「先駆けとなる企業がスコアの開示を始めたことは、心強いことです。業界全体として率直に説明責任を果たすための重要な一歩です」とマシニョン氏は続ける。「一朝一夕で成し遂げられないことは分かっていますが、共通の枠組み、正直なデータ、地球にとってより良い選択のための情報を提供する取り組みは、進歩の第一歩です」
何年間にもわたる開発と検証を経て、エコビューティスコアの仕組みは現在、4つの製品カテゴリー(シャンプー、コンディショナー、ボディソープ、フェイスケア製品)に適用されている。化粧品・パーソナルケア製品を扱う全てのメーカーが利用可能で、早期に導入したブランドはすでにスコアを公開している。今後数カ月で導入企業は増える見込みだ。導入のトライアルは無料で利用でき、どんな規模のブランドであっても導入のサポートを受けられる。まず欧州で開始した後、徐々に世界中に拡大し、ゆくゆくは美容関連製品全般に対応する予定だ。
先進企業のノウハウも活用
現時点でスコアを公開しているのは、4社6ブランド。独バイヤスドルフ社のユーセリンとニベアQ10、仏ロレアル社のガルニエとロレアルパリ、米ケンビュー社のニュートロジーナ、独ヘンケル社のシャウマだ。

(各ブランドのウェブサイトで2025年8月8日に閲覧、編集部作成)
「何年間にもわたる努力が、このような具体的で独自性のあるツールとして実を結んだことに、感動しています」。こう話すのは、バイヤスドルフの最高研究開発責任者ギッタ・ノイファン博士だ。「この共同の取り組みは大きな前進であり、70を超える業界のパートナーと協力できることをうれしく思います。この取り組みは継続的な影響と前向きな変化をもたらすでしょう」
エコビューティスコアは、創設メンバー企業であるロレアル独自の「プロダクト・インパクト・ラベリング」という仕組みから得た学びも参考にして設計されている。プロダクト・インパクト・ラベリングは、2020年にフランスで、2022年に米国で展開されたもので、各製品がロレアルの同じカテゴリー内の他製品と比べて、相対的にどれだけの環境負荷があるのかを消費者に伝えるものだった。2023年後半にエコビューティスコアが利用可能になると、ロレアルも自社のラベリングの仕組みからエコビューティスコアに移行した。
「美容製品の環境負荷を計算することは、本来複雑なプロセスであり、従来は専門家の分析が必要でした」とエコビューティスコアの科学ディレクター、ローレント・ギルバート氏は言う。「エコビューティスコアで私たちがやったことは、この複雑なプロセスを、確固たる科学的根拠に基づきながらも利用しやすい評価システムに凝縮するということです」
「エコビューティスコアでは、環境負荷を計測するのに最も効果的だと欧州委員会から認められた方法論を基に、製品の環境負荷を16の観点から評価します。炭素排出、水使用、資源の減耗などです。これだけ詳細に評価することで、ブランドや小売店は改善すべき分野を明確に把握することができます。また、簡潔で透明性の高いスコアを提供することで、消費者を持続可能性の高い選択に導きます。技術的な厳密さと分かりやすさを両立したことで、化粧品業界の進歩を促す強力なツールになっているのです」
透明性向上の取り組みに関心のある化粧品・パーソナルケア製品メーカーは、エコビューティスコア協会のウェブサイトから無料トライアルに申し込める。