
企業のサステナブル戦略を支援し、継続的な議論と実践の場を提供するコミュニティ「SB-Japanフォーラム」。2025年度の第1回フォーラムが7月30日、東京都内で開かれ、約30人が参加した。今回のテーマは「サーキュラーデザイン」で、微生物との共生を軸に事業を展開するスタートアップがゲスト登壇。基調講演やワークショップを通して学びを深め、参加企業同士が「共創」の土台を育んだ。フォーラムでは今年度、初めて「分科会」を立ち上げ、より実践的なアウトプットを目指していく。
今年度の年間テーマは、サステナブル・ブランドのグローバルテーマと歩調を合わせた「Adapt and Accelerate 〜適応と加速、そして共感が導くサステナブルな未来〜」。米国で反DEI(多様性、公平性、包摂性)の動きが強まる中、サステナブルな未来に向けて企業の取り組みを「適応」させ、さらに「加速」させるという強い決意が込められている。
フォーラム冒頭、挨拶に立ったサステナブル・ブランド ジャパン カントリーディレクターの鈴木紳介は「Adapt(適応)を日本の文脈でどう解釈するか。皆さんの意見をいただきながら、来年2月の『サステナブル・ブランド国際会議2026東京・丸の内』に向けて、一緒に作り上げていきたい」と語り、フォーラムを通じた共創を呼びかけた。
「微生物は生物多様性のメインストリーム」

まずは、微生物の研究・解析や空間創造を手掛けるスタートアップ、BIOTA研究開発事業部の古屋瑠菜氏が「人と地球の豊かさを両立するためのサーキュラーデザイン」と題して基調講演した。地球上の生物の炭素質量のうち、97.9%を微生物が占めることから、古屋氏は「微生物は生物多様性のメインストリーム」と表現。微生物が「分解者」として生態系の基盤となり、豊かな都市生態系や土壌生態系を拡張・構築する、と説明した。また「微生物多様性」の向上によって、人間にとっても免疫の成熟や、感染症の抑制などが期待されると指摘した。
BIOTAの事業は「研究開発」「空間創造」「文化醸成」の3つを柱に展開する。空間創造事業では、微生物の発生源である植物や土などに着目。微生物を噴霧して、生活空間の微生物多様性を高めるデバイスも開発中という。環境微生物評価サービスや菌糸を使ったワークショップなど、多岐にわたる事業を紹介した古屋氏。最後に「循環型社会において、分解者である微生物はとても重要なステークホルダーだ」と強調し、「自然資本を消費するばかりではなく、土に返す、多様性を高めるといったデザインが今後必要になってくるのではないか」と訴えた。
微生物との「共生」考える

続くトークセッションには、BIOTAから古屋氏と、代表取締役の伊藤光平氏、SB側からSB国際会議のアカデミックプロデューサー青木茂樹氏、DEIプロデューサーの山岡仁美氏が登壇した。
青木氏が「除菌が常態化した社会で、微生物とどう向き合うべきか」と切り出すと、伊藤氏は「私たちの体は大体40兆個の細胞でできていて、それとほぼ同数の微生物が体内に生息しているとされる。除菌、殺菌でコントロールしているように見えるが、私たちは微生物と切り離されていない」と応じた。さらに青木氏の「コロナ禍の手指の消毒は無駄だったのか」という問いに対し、伊藤氏は「それも必要。ただ根絶しようというのは、思考停止。どう共にあるか、を考えることが重要だ」と共生を提唱した。
古屋氏は「良い菌もいれば、悪い菌もいる。多様性を高めて、悪い菌だけの影響が大きくなることを防ぐアプローチが良いのではないか」と述べ、欧州で進む菌糸素材や空間設計の潮流を紹介。山岡氏が「微生物との共生は、人と組織、社会がウェルビーイングを実現する上でのスタート地点ではないか」と指摘すると、古屋氏も「サーキュラーデザインの一番初めに微生物がある」と応じた。

終盤、SB国際会議のプロデューサー陣に対し、伊藤氏から「サステナビリティがなぜ重要なのか」と根本的な問いが提起される場面もあった。青木氏は「未来世代の権利を私たち今の人間が奪うことはできない」と回答。続いて山岡氏が「全ての命が、その命らしく生きられる」重要性を訴え、「ウェルビーイングの実現がサステナビリティの本質」と述べると、会場の参加者も深く共感した様子だった。
2060年、サーキュラーデザインが当たり前の社会を想定

フォーラムの後半では「2060年、サーキュラーデザインが当たり前の社会で、微生物多様性を高めるビジネスをしている」との想定でワークショップを実施した。参加者は4つのグループに分かれ、「自社の現在の提供価値」や「未来社会での役割」などを議論し、最後には各グループが発表を行った。
発表では、ティッシュペーパーに微生物や植物の種を練り込むことで使用後にそのまま土に返る製品や、地域ごとの「ご当地微生物」を生かした食体験など、ユニークなプロダクトやアイデアが次々と提案された。いずれも、生活者の行動変容を促すサーキュラーデザインの視点が印象的だった。

クロージングでは、サステナブル・ブランド ジャパン総責任者(Sinc 代表取締役社長兼CEO)の田中信康が「このSB-Japanフォーラムは、社会の行動変容を起こしていくような、パワーのあるプラットフォームだと思っている。いろんなプログラムを用意して、参加して良かったと思ってもらえるものにしていく」と決意を語った。

第2回のフォーラムは9月16日、「生物多様性」をテーマに開かれる。この日から、「SSBJ」と「マーケティング」の分科会もスタートする。SB-Japanでは、フォーラムの法人会員を募集している。問い合わせ先は以下の通り。
SB-Japanフォーラム事務局(株式会社Sinc) E-mail: forum@sustainablebrands.jp |
眞崎 裕史 (まっさき・ひろし)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
地方紙記者として12年間、地域の話題などを取材。フリーランスのライター・編集者を経て、2025年春からサステナブル・ブランド ジャパン編集局に所属。「誰もが生きやすい社会へ」のテーマを胸に、幅広く取材活動を行う。