• 公開日:2025.08.22
広告業界で化石燃料関連企業との取引を避ける動き 新レポートが撤退の指針示す
  • Sustainable Brands Staff
Image: Lukáš Kadava

広告業界で、化石燃料を扱う企業との取引から撤退する動きが広がっている。国際的なキャンペーン団体クリーン・クリエイティブズはこのほど、そうした企業の経営判断の根拠となるデータを提供するレポートを発表した。リスクの高い化石燃料関連企業との関係を段階的に絶ち、再生可能エネルギーやヘルスケアなど、今後成長が見込まれる業界の需要を取り込むことを推奨する。同団体に賛同する代理店はすでに1400社、個人は2300人に上る。(翻訳・編集=茂木澄花) 

 

広告・PR業界で反化石燃料キャンペーンを展開する団体クリーン・クリエイティブズはこのほど、前例のないレポートを発表した。世界全体で石油・ガス大手が支払っているマーケティング費用を推計し、マーケティング業界にどれだけの影響を与えているのか分析したものだ。化石燃料を扱うクライアントとの取引から、業界が迅速に無理なく撤退するための財務的な道筋を示した。 

同レポートのタイトルは「化石燃料を排した収益性の高い成長:化石燃料のない未来に向けたマーケティング業界の戦略的機会(Profitable Growth Without Fossil Fuels: Strategic Opportunities for a Fossil Fuel Free Future for the Marketing Industry)」。広告・クリエイティブ・PR業界は化石燃料を扱うクライアントとの取引から離れ、より将来性のある仕事を得るべきだということを、初めて数字の裏付けとともに示した。 

化石燃料広告からの撤退はビジネス上も妥当 

同レポートの分析から垣間見えるのは、化石燃料業界が広告・クリエイティブ業界に与える影響が縮小しつつあるということだ。また、地球温暖化が農業、観光業、保険業などの業界に、広範囲にわたって悪影響を及ぼしている現状についても記載されている。さらに、ヘルスケア、再生可能エネルギー、循環経済といった高成長の業界に期待できるビジネスチャンスについても指摘する。これらの内容は、化石燃料を扱うクライアントとの取引から撤退することがビジネス上妥当であることの根拠になる。 

「マーケティング業界は何年もの間、化石燃料関連企業との契約から脱するために必要な、具体的な手順について議論することを避けてきました」。クリーン・クリエイティブズの事務局長を務めるダンカン・マイゼル氏はこう話す。「収益に関する議論は敬遠されがちです。だからこそ、石油・ガス関連企業との関係にとらわれている企業に対し、そこから脱するのに必要なツールを授けたいのです」 

「現実として、化石燃料は成長産業ではありません。世界の新エネルギー開発の大半を占めているのはクリーンエネルギーです。今こそ、化石燃料が減少するにつれて成長するであろう産業を取り込む準備を進めることが重要です」 

さらに同レポートは、化石燃料関連企業との取引から脱却する戦略を初期に打ち出すことで、持ち株会社も収益と信用獲得の面で先行者優位を得られると強調している。 

主な分析結果

【化石燃料関連企業のマーケティング費用について】
・化石燃料大手の上位29社による、メディア、広告、PRへの推計年間支出額は70億ドルだったが、これは世界のマーケティング支出額の0.7%に満たない。 

【化石燃料関連企業との取引に代わる機会について】
・気候危機によって2050年までに生じるヘルスケア費用は1兆1000億ドルと予測される。 
・2024年に世界全体でクリーンエネルギーに投資された額は2兆ドルを超えており、化石燃料への投資額の2倍以上だった。 
・中古品、レンタル、修理品の市場機会は2026年に7120億ドルになり、循環経済への移行に伴う市場機会は、2030年までに全世界で4兆5000億ドルに達すると予想される。 

また同レポートは広告代理店などに対し、化石燃料関連企業との取引から段階的に撤退し、2030年までに移行を完了することを推奨している。 

化石関連企業との取引から脱却する移行計画の例

段階1:基盤整備と静かな移行(2025~2026年) 
化石燃料関連企業との取引による収益への依存度を下げ、社内やステークホルダーの体制を整える。 

段階2:戦略的移行と試験的撤退(2026~2027年) 
高リスク顧客との取引を段階的に終了し、社外に対しても試験的にサステナビリティに関するリーダーシップを示す。 

段階3:ポートフォリオの転換(2027~2028年) 
対外的に計画を公表し、積極的に顧客の入れ替えを行う。 

段階4:脱化石燃料の対外的な発表、ブランドの再構築(2028~2029年) 
気候変動におけるリーダーシップを確立し、クライアントと社内人材の価値観を一致させる。 

段階5:化石燃料関連取引ゼロ、その先へ(2030年) 
脱化石燃料企業として社会的に認知され、人材や投資の確保につなげる。

クリーン・クリエイティブズ宣言 

クリーン・クリエイティブズは、広告・PR業界全体に化石燃料関連企業との仕事を拒否する運動を呼びかけるキャンペーン団体で、ソーシャルメディアに関する賞を受賞した実績も持つ。現在までに、世界で1400社の代理店と2300人の個人が「クリーン・クリエイティブズ宣言」に署名している。これは、今後、化石燃料業界との契約を拒否し、化石燃料業界のクライアントを維持している代理店との仕事を断るという宣言だ。最近署名した企業に、アドエイジ誌の「年間最優秀国際代理店」に2020年と2022年に選出されたマザー・ニューヨーク、キャンペーン誌の「年間最優秀代理店」の最終候補に5年連続で残っているラッキー・ジェネラルズ、50カ国以上で1000人を超える従業員を抱えるアリソンなどがある。

アリソンのヴァイスプレジデントであるジェイミー・ケンドリケン氏とマーク・アレグリニ氏は記事の中でこう説明している。「化石燃料とのつながりについてクライアントに問われることが増えている。それはなぜか。化石燃料業界の成長を支援している代理店と仕事をしていれば、クリーンな企業としての約束を果たすことはできず、ステークホルダーに対して真の意味での進歩を見せることができないからだ。マーケティングに関わる人たちは、世間の期待に応え、変化を促す取り組みを進める必要がある。そのことが、年を追うごとに明白になっている」 

クリーン・クリエイティブズは、各種サステナビリティ認証の認証基準が化石燃料業界を排除する仕組みになっていることを確認する役割も担っている。例えば、フランスに本社を置くハヴァスグループに属する複数の代理店が石油大手のシェルと契約を締結した際、それらのBコープ認証を取り消すよう、Bラボに圧力をかけることに成功した。 

国連のアントニオ・グテーレス事務総長が昨年、化石燃料の広告を世界的に禁止することを求め、化石燃料など炭素排出量の多い製品の広告を禁止する措置が世界各地で増えている。こうした中、クリーン・クリエイティブズの活動も勢いを増し続けている。 

レポートの全文はクリーン・クリエイティブズのウェブサイトから閲覧できる。 

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