• 公開日:2025.07.24
    動き始めた「原発新設」、今、チェックすべき3つのこと
    • 北村 和也
    次世代型の原子炉への建て替えに向け、関西電力が地質調査などを再開することを発表した福井県の美浜原子力発電所 出典:shutterstock

    「関西電力が原発の新設に向けて調査」、そんなニュースが参議院選挙投票日直前にマスコミで報じられ、その後、関西電力が記者会見で認めた。

    エネ基(第7次エネルギー基本計画)やエネルギー白書に記載される“既定路線”とは言え、この段階での動きは急に見える。データセンター激増への対応を繰り返し理由に挙げ、「錦の御旗」とするが、その妥当性や必要性はどこまであるのであろうか。

    今回は、世界の動向も含めた冷静な「目」を提示し、重要なチェックポイントを提起する。

    データセンターへの電力供給は本当に原発が向いているか

    最近、特に原発推進のスタンスを明瞭にする複数の新聞は、世界のデータセンター急増と、原発新設によるその対応について繰り返し報じている。政府や旧一電のトップは「新たな需要に合致する」、「発電の安定した原子力は相性が良い」などと、原発がデータセンター向きだと強調する。一方、ひと昔前まで掲げていた「安い電源」との言及は全くない。原発のコストについては、後ほど説明する。

    そもそも、データセンターなどの需要が本当に爆増するかは議論の余地がある。今回の原発新設を報じた日経新聞の記事(7月20日)に、この10年で半導体工場+データセンターの新設による電力需要が4百数十億kWh“激増”するグラフが示されているが、実際には日本全体の電力需要の数%に当たるに過ぎない。10年間で数%の増加は省エネで解決できると指摘する専門家は少なくない。

    また、『向き、不向き』の前に、決定的な要素がある。間に合うのか、という根源的な課題である。

    今年の「エネルギー白書2025」に、脱炭素電源などの建設リードタイム(完成までにかかる年数)を、IEA(国際エネルギー機関)の報告書「Energy and AI」を基に示したデータがある。

    それによると、・データセンター:1~2年、・太陽光:1~4年、・陸上風力:2~5年、・洋上風力:3~7年、・水力:3~8年、・地熱:3~8年、・原子力:5~15年となっている。しかし、最近は、安全対策などこれまで以上に手間と費用がかかるため、原子力はおよそ20年と見るのが常識であろう。

    つまり、1~2年で完成し、この10年間で激増するというデータセンターへの電力供給を原発で行うのは不可能なのである。重要な点で、データセンターと原発はマッチしないと言ってよい。政府もリードタイムのことは分かっていて、「今から取り組まなければ、間に合わない」との声もあるが、今からでも間に合わないのが実態である。

    AI先進国は追加電力をどうカバーしようとしているのか

    2つ目のチェックポイントは、世界の視点である。

    先に挙げた、IEAの報告書「Energy and AI」からのデータを使う。実は、世界のデータセンターの圧倒的多数は、アメリカと中国に存在する。この2国のデータセンターで世界の必要電力の3分の2以上を使っている。2030年には、さらに8割に達するとされる。

    以下のグラフは、2024年から2030年までの短期と、続く2035年までの中期で見た時、データセンターへの追加電力をどのような電源でカバーするかの予測を示したものである。

    燃料別・地域別のデータセンター電力への供給容量の年間平均増加量(ベースケース) 出典:IEA「Energy and AI」

    それによると、世界で追加される発電容量は、2024年から2035年で合計320GWを超える見込みとなっている。その3分の2は再生可能エネルギーが占める。追加容量には45GWの蓄電池も含まれ、データセンター用電力への対応は、再生エネ(緑枠)+蓄電池(青枠)が基本になると考えられている。

    原発(赤枠)は、建設リードタイムの関係から2030年まではほとんど対応できず、2035年までもそれほど存在感がない。付け加えておくが、2031年~2035年までの原発分は、アメリカと中国での小型モジュール炉(SMR)20GWが想定されている。実際には、SMRは実証段階で建設期間、コスト面両方で苦しんでいる。また、日本が頼りにする次世代型原発の実用化は開発するメーカー自体が2030年代半ばを目指すといい、こちらも間に合わない。

    絶対的に必要な国民への「正しく、正直な」説明

    3つ目のポイントは、原発に関する不明点の開示である。福島の原発事故そのものが国民の不安の根本にあるのは当然として、その後の政府の各種のあいまいな説明は、その不信感を増長させている。例えば、コストである。

    長い間、必ず表記されていた原発の電力価格から、特に説明なしにいつの間にか「安い」が消えた。ところが、一方で、こんなグラフも現れた。

    2040年の試算の結果概要(統合コストの一部を考慮した発電コスト) 出典:経済産業省「発電コスト検証に関するとりまとめ(案)」

    上のグラフは、2024年末、エネ基の素案と一緒に提示された「システム統合の一部を考慮した2040年の電源別コストの試算」である。各棒グラフの横のライン(灰色)が新設発電所での1kWhあたりの発電コスト(LCOE)で、太陽光発電が最も安い8.5円である。しかし、これに他電源や蓄電池で調整するコスト(統合コスト)などを加えると、全く違う答えになるとしている。太陽光は、最も高い36.9円にもなる。一方で、原発は、全ての電源の中で最も安く見える。

    実際には、試算を行った側も認めるように計算の前提が余りにアバウトで、“こんな計算もある”レベルだが、ここで言いたいのは、原発のコスト試算結果にいつも付いている、「~」である。ここでは、LCOEで「12.5円~」、統合コスト込みで、「最低16.4~と最高18.9~」となっている。こんな統計を出している国は私が知る限り日本以外にはない。「以上」としか見えないが、これが無限大ではないというなら根拠を示すべきである。
     
    「安い」が消えた理由、「~」の意味など、あいまいなまま、すでに託送料(送電線の使用料)や長期電源オークションなどで、原発に手厚い補助をつけている。実態として「補助が必要なほど高い」のなら、「最も安く見える」上のグラフは“詐欺まがい”と言われても仕方がないのではないか。

    実際にどれだけ高く、どういう理由で、どれだけ補填(ほてん)するのか、もし新設に向かうのであれば、説明は絶対的な必要条件となる。

    もう一つ、前回のコラムでも示したが、不明点の象徴として福島事故の処理を挙げておく。廃炉にかかる期間と費用である。廃炉に関わる専門家で、2051年の廃炉を信じる者は一人もいないと断言してよい。また、廃炉費用(賠償金、除染を除く)は8兆円とされているが、これもあり得ない。筆者は、ドイツで原発の廃炉作業を取材したことがある。福島事故当時に廃炉には100兆円かかると書いた。決してブラフではなく、計算の基準は違うが、最近イギリスで通常運転した原発の廃炉費用が27兆円という報道もあった。

    もちろん、最終処分場も重要である。EUは原発をクリーン電源とするための条件に最終処分場の確保を挙げていることを忘れていないだろうか。

    説明が不足しているのではない。説明がないか、逃げていることばかりが目立つ。原発がもたらすリスクは事故だけとは限らない。経済的な損失(ロス)、国際的な信用を含め、あいまいさでごまかせるほど小さいものではない。

    【参照サイト】

    ・経済産業省「エネルギー白書2025」
    https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2025/pdf/whitepaper2025_all.pdf
    written by

    北村 和也(きたむら・かずや)

    日本再生可能エネルギー総合研究所代表、日本再生エネリンク代表取締役、埼玉大学社会変革研究センター・脱炭素推進部門 客員教授

    民放テレビ局で報道取材、環境関連番組などを制作した後、1998年にドイツに留学。帰国後、バイオマス関係のベンチャービジネスなどに携わる。2011年に日本再生可能エネルギー総合研究所、2013年に日本再生エネリンクを設立。2019年、地域活性エネルギーリンク協議会の代表理事に就任。エネルギージャーナリストとして講演や執筆、エネルギー関係のテレビ番組の構成、制作を手がけ、再生エネ普及のための情報収集と発信を行う。また再生エネや脱炭素化に関する民間企業へのコンサルティングや自治体のアドバイザーとなるほか、地域や自治体新電力の設立や事業支援など地域活性化のサポートを行う。

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