
毎年恒例のエネルギー白書が6月に発表となった。今年は、2月に「第7次エネルギー基本計画」や「GX2040ビジョン」など重要な指針が閣議決定された直後で、政府のエネルギー方針の総まとめでもある。よって白書に新規性を求めるのは酷であるが、それにしても混とんとした時代の出口戦略が見えてこない。
あまりに、データセンター増加による電力不足を強調し、世界が否定する化石燃料や国民の不安が残る原発への依存が過ぎる。一方、個別の内容では、水素やアンモニアの用途を的確に示しているのに、その主たる利用目的は発電であると結論づけるなど、整合性の取れない箇所が随所で見られる。
今回は、日本のエネルギー戦略への疑問をピックアップする。
ニュースの見出しが立たない“地味な白書”
冒頭書いたように、エネ基などの焼き直しといっては失礼だが、正直言って、今年の白書の第一印象は「地味」であった。なぜだろうと調べると、まず図表が極端に少ない。ちなみに、図表目次を見ると、昨年の10ページ分に対して、2025年版は2ページちょっとしかない。筆者はデータやグラフなどを白書からよく引用するが、今年はあまり役に立たない気がする。また、全体の総ページ数も例年の半分となっていた。
マスコミの扱いも同様で、NHKが「特定電源に依存せず再エネ・原子力など活用」と、代わり映えのしない見出しをとっていた。さらに報道のボリュームも少ない。
本論に入ろう。
今年の白書の“話題=ニュース”といえば、データセンターの拡大などによる電力需要の増加に尽きるようだ。エネ基などで何度も見たグラフがここでも登場する。

2034年に向け、すごい勢いで電力の需要が増えるように見えるが、グラフは7800億kWhから下が省略されている。増減を強調する手法である。実際の増加は465億kWhで、10年間で6%にすぎない。1年平均0.6%程度で、省エネ技術などの進歩で十分吸収可能な“誤差”の範囲だと専門家は話す。
しかし、白書は、この説明から後に、今後の各地でのデータセンターの増加などの解説が数ページ続く。
その流れは、
[データセンターの拡大⇒電力需要増⇒脱炭素電源に近い立地⇒データセンターの需要に適した原発の活用]
である。
一方、前後を読むと、電力需要増の要因を「データセンター需要、平均気温の上昇、EV需要拡大など」とIEAの報告書を基に列挙している。データセンターだけが増加要因でないというのである。とすると、上の「流れ」との整合性はどうなのか。
上のグラフと同じものは、以前から資源エネルギー庁の資料で使われているが、いつもは需要上昇の折れ線グラフに付いていた「データセンター・半導体工場の新増設等」という注釈が消えている。誰かに指摘を受け「正確な説明」に替えたが、データセンター中心の論理展開はそのまま、という読みは、穿(うが)ちすぎであろうか。
重箱の隅をつつくようで申し訳ないが、実は、「水素、アンモニア」の項でも同様なことが起きている。これについては後述する。
化石燃料を残すため? 無理な理由付けと重なる矛盾
政府が、エネルギー白書をはじめ、各種のエネルギー政策の中で必ず謳(うた)うのが、「特定の電源や燃料源に過度に依存しないようバランスのとれた電源構成を目指していく」である。2025年版白書では、「エネ基」の引用として示されている。
よくできた文言で、そのものを否定するつもりはない。しかし、電源の「組み合わせの対象」は精査が必要である。
特定のエネルギー産出地域や価格の変動に依存しないための防衛策でもあるが、そもそも太陽光や風力発電など、地域内で無料で手に入るものは、元々その心配がない。といっても、「お天気まかせ」の反論はすぐに飛んでくるであろう。しかし、再生可能エネルギーには、地熱や水力など天気に影響を受けないものもあるし、また蓄電池の利用がそろそろコスト面で現実味を帯びてきている。
つまり、「特定の電源」というときに、再生エネをひとまとめでカウントしてはいけない。それぞれ特徴のある多種の電源と考え、蓄電池も含めたミックスの検討の時代に入っているのである。十年一日のごとく、過去のアイテムでのバランスを考えていると世界に取り残される。というか、すでに取り残され始めている。
背景に見えてくるのは、どうしても火力発電を残したい一定の企業や団体の人たちである。その勢力が、結果として日本のエネルギー政策を歪め、世界から遅れさせ、また、エネルギー白書に矛盾の足跡を深く残しているのではないであろうか。
水素、アンモニアの話に移ろう。白書には、こういうフレーズがある。
「水素は、アンモニアや合成燃料、合成メタンの基盤となる材料であり、これら水素等は幅広い分野(鉄鋼・化学・モビリティ分野・産業熱・発電など)のカーボンニュートラル化に寄与する次世代燃料として期待されています。」

異論のない正しい説明である。
特に、材料としての水素を明記し、アンモニアの原料として書いている点、鉄鋼・化学・産業熱などでの利用など、他のエネルギーでは代替しにくい用途をきちんと取り上げていることは評価に値する。アンモニアも同様である。政府の資料では肥料の原料など欠かせない使い道がちゃんと示されている。
それなのに、2025年版白書の別のページでは、水素・アンモニアの主たる用途は発電であると記述している。他にいくらでも替わりの発電方法があり、さらに安く、国内産が使えるのに、である。
先ほどの、電力需要増の原因と同様の展開である。
先に、化石燃料発電を残したいとの結論ありきで、それに合わせたツールを無理やり持ってきたと指摘されたら、どう反論するのであろうか。
そのうえ、エネ基などでは、これらの水素・アンモニアの製造は、海外の安い再生エネ電力によってグリーン化し輸入する、とある。海外頼みなら、「エネルギーの安全保障」は、どこに行ってしまったのか。
さらに、化石燃料に対する再生エネ燃料(木質バイオマス、グリーン水素など)の混焼は、RE100で使用禁止の方向が決まっている。化石燃料は、まさに“詰んでいる”のである。
“出口の見えない白書”からの脱却を
例年の半分のボリュームとなった今年のエネルギー白書だが、イラン情勢など国際環境の激変の中、適切な『解(かい)』の要求に耐えうるものでなければならなかった。化石燃料に限らず、脱炭素燃料まで海外からの輸送に頼るエネルギー政策は、まさに矛盾の『塊(かたまり)』であろう。

あえて最後に書く。
毎年、白書の第1章に「福島復興の進捗」が繰り返し置かれているが、その内容は、冒頭にふさわしいものであろうか。
今年は、デブリの取り出しを誇らしげに載せているが、実際には、ほんの微量を、使用しない方法で行っただけである。何より、関係者を含めてだれ一人信じていない2051年の廃炉という、完全に現実を無視したスケジュールが残り、具体的な道筋が何も書かれていない。唯一言及のあるスケジュール感「中長期ロードマップに継続的な検証を加えつつ、必要な対応を安全かつ着実に進めていきます。」が空しく響く。
日本のエネルギー政策には、地に足が着いた、まともな出口戦略が必要である。
【参照サイト】 ・経済産業省「エネルギー白書2025」概要版 https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2025/pdf/whitepaper2025.pdf ・経済産業省「エネルギー白書2025」 https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2025/pdf/whitepaper2025_all.pdf |
北村 和也(きたむら・かずや)
日本再生可能エネルギー総合研究所代表、日本再生エネリンク代表取締役、埼玉大学社会変革研究センター・脱炭素推進部門 客員教授
民放テレビ局で報道取材、環境関連番組などを制作した後、1998年にドイツに留学。帰国後、バイオマス関係のベンチャービジネスなどに携わる。2011年に日本再生可能エネルギー総合研究所、2013年に日本再生エネリンクを設立。2019年、地域活性エネルギーリンク協議会の代表理事に就任。エネルギージャーナリストとして講演や執筆、エネルギー関係のテレビ番組の構成、制作を手がけ、再生エネ普及のための情報収集と発信を行う。また再生エネや脱炭素化に関する民間企業へのコンサルティングや自治体のアドバイザーとなるほか、地域や自治体新電力の設立や事業支援など地域活性化のサポートを行う。