• 公開日:2025.07.07
ESGだけでは不十分 「パーパス志向」の企業に投資する新たな動き
  • Coro Strandberg 
image credit: shutterstock

企業や投資家にESGの考え方が浸透した今、企業経営や投資における「パーパス」の重要性に注目が集まっている。ESGの枠組みでは、リスク緩和に重きが置かれ、取り組みが受動的になりやすいという課題がある。一方、企業の社会的な存在意義を示すパーパスは、未来を見据えた一貫性のある企業経営の指標となる。本記事では、カナダでパーパス志向の企業経営を推進するカナダ・パーパス・エコノミー・プロジェクトの会長が、ESGの問題点とパーパスの意義を解説する。(翻訳・編集=茂木澄花) 

進化を続ける投資の世界に「パーパス投資」という新たな分野が生まれている。これは、ESG(環境・社会・ガバナンス)の評価基準にとどまらず、パーパスをESGの新たな「G」として組み込み、長期的な価値を生み出す原動力と見なす動きだ。ESGは重要な課題を浮き彫りにする役割を果たしてきたものの、ESGだけでは不十分であることも明らかになってきた。現在、その不足を補うパーパスに注目が集まっており、投資の手法と企業に期待される事業活動の在り方に大きな変化の兆しが見られる。 

先頭に立ってこの変化を推進しているのが、カナダ・パーパス・エコノミー・プロジェクト(Canadian Purpose Economy Project)。ビジネスと金融に社会的パーパスを導入することを推進するカナダの団体だ。社会における資本の役割を見直すことを促し、経営者たちを巻き込み、経済的な意思決定の根幹にパーパスを組み込むための新たな基準を作っている。 

筆者は先日、インパクト投資に関する講座を提供するインパクト・ユナイテッド・アカデミーのウェビナーで、「パーパス・レンズ:カナダの投資慣行を変革する」をテーマに話した。ESG投資の分野で関係者からの信頼が厚いミラニCEOのマイラ・クレイグ氏と対話する中で、投資家も企業も、転換の時を迎えているということが明確になった。ESGの枠組みにも意義はあるが、受動的になりやすく、リスク緩和に集中しすぎて企業の中心的な戦略から切り離されてしまうことも多い。それに対して社会的パーパスは、先を見越した積極的な考え方だ。利益を超えた企業の存在意義を明示し、大きな社会的目標に沿うような事業活動や製品、サービス、ガバナンスにつなげる。 

投資家はなぜ「パーパス」に注目するのか 

パーパス志向の企業が長期的に大成する可能性を認識する投資家が増えている。一貫した社会的パーパスを持つ企業は、イノベーションを育み、優秀な人材を集めて維持し、ステークホルダーとの信頼関係を築き、社会的な期待を見越して行動できるということがすでに証明されているのだ。これは慈善活動やマーケティングではなく、事業戦略の問題だ。 

従来型の投資手法では、この側面を見逃してしまうことが多い。多くの企業にとってESGは、今やコンプライアンス対応のための形式的なチェックと報告の作業になってしまっている。しかし、投資家の関心が高まっているのは、次のようなことだ。 

  • 社会のためにどんな問題を解決している企業か 
  • どんな未来の実現に貢献しているか 

こうした問いの答えとなるのが、パーパスだ。  

リスクと価値を捉え直す 

パーパスによって、リスクの捉え方も変わる。自社が社会と環境に与える影響を無視する企業は、規制リスク、レピュテーションリスク、事業運営リスクにさらされる。だが、そもそも説得力のある社会的パーパスがなければ、もっと根本的に、企業の存在意義自体が危うくなる。 

将来を見越したパーパスの考え方によって、投資家が重視する要素も変わってきている。業績とレジリエンスを評価するための優れた指標として、投資家たちはパーパスに注目し始めている。パーパスに根差した企業は、自社を取り巻く環境が変化する中でも混乱をうまく切り抜け、チャンスをつかみ、ステークホルダーの信頼を維持する可能性が高い。 

受託者責任を考え直す 

パーパスは、企業だけの問題ではない。投資家自身にも果たすべき役割がある。受託者責任は、短期的な経済利益に重点を置く狭い解釈から進化し、長期的な共有価値の創造や世代を超えた資産、システムレベルでの思考を含む幅広い概念になってきている。 

この考え方において、パーパス志向の企業に投資することは単なる選択肢の1つではない。複雑につながり合った世界で受託者責任を果たすためには欠かせないことだ。投資家には、より良い未来につながる形で資本を管理・運用することが求められている。 

投資家が今できること 

パーパス投資への移行はまだ初期の段階だ。しかし、未来志向の投資家たちは、すでに次のような行動を起こしている。 

  • 新たな問いの提示 

ESGスコアにとどまらず、企業が社会的パーパスを明確に定義し、組み込んでいるかを調査している。 

  • 情報開示の支援 

パーパスを戦略、ガバナンス、業績に結び付けられるよう、パーパスの開示と統合的な報告を提唱している。 

  • 経営陣への働きかけ 

取締役に対し、利益だけでなくパーパスを追求する企業統治を行うこと、経営陣の報酬をパーパスの成果に結び付けることを強く求めている。 

  • 資本の配分 

世界の変化に対応し、パーパス志向かつパーパスに適合した企業に優先的に投資している。  

未来を見据える 

企業が社会の進展をけん引するエンジンとなり、投資家がより良い未来を築くためのパートナーとなる――そんな経済の形である「パーパスエコノミー」が広がりを見せている。しかし、この動きをさらに前進させるには、投資システムのあらゆる関係者が勇気を持ち、透明性を高め、積極的に関与することが必要だ。 

パーパスは流行ではなく、戦略的に不可欠なものだ。リスクを管理し、チャンスをつかみ、継続的な価値を創造しようとしている投資家たちが次に開拓すべき分野は、パーパス投資である。 

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