• 公開日:2025.06.25
  • 最終更新日: 2025.06.25
学校と企業がタッグを組んで教育の変革を
  • 眞崎 裕史


日本発の教育理念「ESD(持続可能な開発のための教育)」を推進する小中高の教員が「サステナブル・ブランド国際会議」に集い、国内外のサステナビリティの動向について学びを深めながらネットワークを広げる、「ESD Teacher’s Camp」(主催:日本持続発展教育(ESD)推進フォーラム/サステナブル・ブランド ジャパン、後援:文部科学省/日本ユネスコ国内委員会)。6回目となる今年も全国各地から約50人が参加し、恒例のプログラム「教員と企業が囲むCamp Fire」では、学校と企業が協働して次世代を育てる、教育変革の在り方を熱く議論した。

Day2 ESD Teacher’s camp

ファシリテーター
住田昌治・学校法人湘南学園 学園長
 
スピーカー
小林春佳・インテージホールディングス グループR&Dセンター 主任研究員/インテージ リサーチイノベーション部 主任研究員
前いずみ・一般社団法人Jミルク 学術調査グループ 主任
中里洋介・博展 Experiential Design Lab クリエイティブディレクター


冒頭、ファシリテーターを務める住田昌治氏は、本プログラムの狙いを「企業と学校関係者がつながり、子どもたちを一緒に育てていく場づくりだ」と説明。その上で「知識は与えられるものではなく、みんなで作り出すもの」(ナレッジ・コクリエーション)とするユネスコの教育勧告を紹介し、参加者に積極的な議論を求めた。名刺交換などアイスブレイクの後、インテージホールディングス、博展、一般社団法人Jミルクから3氏が登壇。サステナビリティ教育や教材開発など、それぞれの取り組みを発表した。なお本プログラムは、これら協賛企業の支援で全国の教員を会議に招待する形で行われている。

データで探究を後押し――インテージホールディングス

小林春佳氏

インテージホールディングスは343万人の生活者からデータを収集しながら、マーケティングリサーチを手掛けている。教育現場にはそれらの資源を活用した支援を行っており、同社の小林春佳氏は「教科書では学べないような、実践的な学びを提供できる」として、楽しみながらマーケティングリサーチを学ぶカードゲームを紹介。さらに探究学習において「リサーチの指導が難しい」「実践的なデータがない」といった教員の悩みに対し、今後、体験型補助教材を活用してサポートしていく考えを示した。

具体的には、(1)マーケティングとリサーチの基礎講座を動画で配信(2)アンケート回答を体験(3)アンケートで回収したデータを分析――の3種類を考えており、データサイエンスの授業での活用を期待。自身、大学や高校でマーケティングなどの授業を行っている小林氏は「学生自ら課題を見つけ、解決策を導くことで、自信を持ってもらえるような授業提供を心掛けている」と力説した。

可変空間が子どもたちの創造性を刺激――博展

中里洋介氏

イベントや展示会など空間デザインを手掛ける博展は、教育機関向けに、木材を使った体験型コミュニケーションツール「Kumoo」を開発。名前は「一緒に組もう」の意味を持つ「くもう」に由来しており、協働と創造性の重要性を示しているという。Kumooは10分の1サイズの模型から始まり、パネル、ジョイント、ベースの3つのパーツで構成。それらを組み合わせることで、いすやパーテーションなどを自由に作ることができる。同社の中里洋介氏は「子どもたちの主体性や創造性をどう育てられるかを考えて、余白をデザインできるような仕組みをつくった」と説明した。

Kumooはすでに、かえつ有明中・高校(東京都)に導入。学校のある地域は材木店が多く、そこから出る木材の端材を活用している。そうすることで地場産業への興味を誘引し、「持続可能な地域」との接点をつくる狙いがあるという。最後に中里氏は「昼休みの居場所をどうつくるか」をテーマに、Kumooを使ったワークショップも行っていることを紹介。「Kumoo自体がまだ開発段階にある」として、導入を希望する学校を募った。

1杯の牛乳の背景を学習材に――Jミルク

前いずみ氏

酪農家や乳牛メーカーなどで構成する一般社団法人Jミルクの前いずみ氏は「1杯の牛乳から考えるみんなでつくる持続可能な未来」と題して発表。乳牛は短期的な生産調整ができず、大型連休や夏休みで学校給食が休止すると、需要が極端に落ち込んでしまう。一方、給食のない日、子どもたちは牛乳1〜2本分のカルシウムが不足している、と前氏は説明。そこで、牛乳の需要問題と子どもたちの栄養課題の両方を解決しようと、2022年から開始したプロジェクトが「土日ミルク」だ。

土日ミルクは学校、家庭、地域が連携した食育や啓発活動を展開しており、「なりきり広告クリエイター」と名付けた授業プログラムを作成。子どもたちは広告クリエイターになりきって、牛乳を題材にしながら、相手に伝える工夫を考える過程で、作る楽しさを友達と分かち合い、教科を超えた学びに触れる。また、授業を通して牛乳について調べる中で、自身の健康や牛乳の大切さなどに気付くという。前氏は急減する酪農家の戸数なども説明しながら、「牛乳には持続可能というキーワードから迫ることができる、さまざまな現代的価値がある。1本の牛乳の背景を学習材として活用してほしい」と呼びかけた。

子どもたちの声に耳を傾けよう

プレゼンテーション後は9グループに分かれ、講師を交えたディスカッションが行われた。その後は各グループの代表が、このプログラムに参加した感想を発表した。主な内容は次の通り。

・どの会社の教材も面白くて、授業に取り入れたら子どもたちが伸びるだろうと思った。学校現場にアイデアを持ち帰りたい。

・自分が暮らしている地域や生活に密着した課題が見えてきた。私たち教員が興味深いと思ったことは、生徒にとっても意義のあることだと思う。ここで学んだことをしっかり活用していきたい。

・生徒にはいつも「グローカル」という言葉を掛けている。地域のことや身近な問題を自分ごとと捉えて、自分なりの解決方法を企業と一緒に見出し、学ぶ機会をつくっていきたい。

・学校の中で、教員と教科書だけではできないことがたくさんある。企業の力を借りることで、子どもたちの可能性がどんどん広がっていくことが改めて分かった。

・教員と企業だけでなく、子どもたちも一緒にブレーンストーミングしたら、子どもたちの突拍子もない意見がたくさん出てきそうだ。そういう場をつくることができれば面白いのではないか。

キーワードは「ばか者、よそ者、若者」

住田昌治氏

最後に住田氏が教育変革のキーワードとして「ばか者(教員)、よそ者(企業)、若者(子どもたち)」を挙げ、参加者に対して、前例にとらわれずにチャレンジするよう求めた。その上で、「子どもたちの声に耳を傾けられるかどうかが今、すごく問われている」と強調し、「これからの教育を変えていくためには、学校と企業がパートナーとしてタッグを組むことが大事だ」と述べ、2時間半に及ぶセッションを締めくくった。

written by

眞崎 裕史 (まっさき・ひろし)

サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者

地方紙記者として12年間、地域の話題などを取材。フリーランスのライター・編集者を経て、2025年春からサステナブル・ブランド ジャパン編集局に所属。「誰もが生きやすい社会へ」のテーマを胸に、幅広く取材活動を行う。

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