日常の風景にすっかりなじんだ太陽光パネル。クリーンエネルギーの中でも断トツで成長している太陽光発電は持続可能性にとっての心強い味方だ。その市場をさらに拡大する可能性を秘めた意外な技術が浮上している。身近な素材でパネルを紫外線から守るフィルムから、どこにでも貼り付けられる薄型の太陽光パネルまで、気候目標の達成を目指す企業が注目すべき太陽光発電の新技術を5つ紹介しよう。(翻訳・編集=遠藤康子)

太陽光発電設備をやけに見かけるようになったと思っているなら、それは間違いではない。2024年だけでも、全世界の太陽光発電容量はおよそ600GW(ギガワット)増加した。米国内の全ての照明、冷蔵庫、ノートパソコン、スマートフォンに電力を供給するのに十分な量だ。前年比では33%増と、「太陽光発電がいよいよ現実のものになりつつある」と断言できる段階に来ている。
太陽光発電は現在、最速で成長しているクリーンエネルギー分野で、再生可能エネルギーとして新たに導入される全世界発電容量のほぼ半分を占める。とはいえ、急成長の要因は屋根や屋上に設置される太陽光パネルだけではない。素材や蓄電システム、AIを使った最適化ツール、スマートアプリケーション、革新的な金融モデル、循環型デザイン思考などの背景技術が太陽光発電をよりスマートに、より安くし、利用の幅を広げている。
本稿では、持続可能な電力供給を実現できる太陽光発電の革新的技術5つを取り上げ、その仕組みと企業が注目すべき理由を説明しよう。
1.鉄道レールの間に設置できる太陽光パネル

スイスのスタートアップ、サン・ウェイズ(Sun-Ways)が2本の鉄道レールの間に取り外し可能な太陽光パネルを敷き詰めて、線路をソーラーファームに変えようとしている。この方式なら列車運行に何の支障も来さず、新たな土地が必要になったり景観を壊したりすることもなく、活用されていない土地でクリーンエネルギーを発電できるというわけだ。
- 技術的な仕組み
サン・ウェイズが考案したのは、線路の保守点検用車両に積み込んだ太陽光パネルを標準軌道の間に直接設置していく特許システムだ。このやり方なら、1日におよそ1000㎡分のパネルを設置できる。しかも、モジュラー式で取り外し可能なので、線路の保守点検が必要になった時にはただ撤去すればいい。発電された電力は、電車の高圧電線に直に供給するか、公共送電網に戻す。
- 環境意識の高い企業が注目すべき理由
敷設済みレールの総距離は世界全体で130万kmに及ぶ。そして、レール間のスペースは活用されず、クリーンエネルギーが発電される場となるのをただ待っている。インフラの使い道を見直せば、土地を奪い合うことなく気候変動対策で膨大な成果が得られることを、サン・ウェイズは伝えようとしているのだ。現在は、スイス南西部に位置するビュットの公共鉄道にパネルが100mに渡って試験設置されているが、国内の全鉄道網に設置すれば、最大で年間1テラワットの電力を生産できるという。1テラワットは同国内の公共交通機関が必要とする電力量の3分の1に相当する。交通、インフラ、持続可能な物流に投資する企業がこのイノベーションを活用すれば、既存の資産をクリーンエネルギーの発電手段へと転換できるだろう。
2.太陽光パネルを紫外線から守る赤玉ねぎの色素

キッチンにある素材で一工夫を凝らせば、太陽光パネルはより長持ちするそうだ。太陽光電池のコーティングに赤玉ねぎの皮から抽出した色素を使うと、紫外線のダメージを防げることが明らかになった。発見したのは、フィンランドのトゥルク大学ならびにアールト大学、オランダのワーゲニンゲン大学の研究チームだ。
- 技術的な仕組み
太陽光パネルは時間とともに劣化する。紫外線放射に絶えずさらされることが主な原因で、電力出力は25年で最大23%も低下してしまう。現在は、紫外線ダメージの防止策として石油由来のプラスチックコーティングが使われている。
しかし、石油由来コーティングより持続可能な代替策を同研究チームが発見した。それが赤玉ねぎの色素で加工したナノセルロース(植物繊維の主成分であるセルロースを幅10ナノメートル以下にほぐしたもの)のフィルムだ。リグニンと鉄イオンを用いた他のバイオ由来のコーティングより紫外線の遮断効果が高い上に、可視光透過率は80%を超えるという。可視光を透過できることは発電にとって不可欠である。このフィルムは太陽光の疑似的な光を1000時間投射した後でも、効果が落ちなかった。
- 環境意識の高い企業が注目すべき理由
このフィルムにはメリットが3つある。従来型の石油由来プラスチックコーティングより耐久性に優れ、よりクリーンな素材で、発電効率がより持続する。太陽光発電設備の寿命を延ばせるばかりか、化石由来の素材を除外できるという点でさらに優れたイノベーションだと言えよう。太陽光発電の力を借りてネットゼロの目標達成を目指す企業は、こうした解決策でROI(投資収益率)と環境に関する評価を向上できる可能性がある。
3.熱帯地域の食品ロスを減らすソーラー式冷蔵車

ケニアのスタートアップ、キープ・イット・クール(Keep IT Cool)は、生鮮食品が市場にたどり着く前に腐敗し無駄になるという、熱帯地域にありがちな大問題に取り組んでいる。アフリカでは冷蔵設備が整っていないため、全食品の30%から40%が輸送中に腐敗してしまう(魚類の場合は60%にも達する)。同社はこうした状況を改善するため、小規模の農家や漁師を対象に、ソーラー式冷蔵車と冷蔵流通体系(コールドチェーン)全体を支援するプラットフォームを提供している。
- 技術的な仕組み
キープ・イット・クールはまず、多数の小規模食品生産者向けに、電力網を必要としないソーラー式の冷蔵保存施設を提供している。その結果、農作物や水産物の貯蔵期間が延びて腐敗しなくなるため、生産者は販売条件を自ら決定できるようになる。また、冷蔵車をオンラインプラットフォームで予約できるので、中間業者を介さずに新規市場に参入することも可能となる。同社はさらに、電子商取引ポータルを運営し、生産者が事前に決定した買い手と公正価格で商品を取引できるよう支援している。
- 環境意識の高い企業が注目すべき理由
これぞ人間を中心に据えた気候テクノロジーである。キープ・イット・クールは2022年以降、150万kg分の農産物の収穫後損失を98%削減した。つまり、サプライチェーンの効率化だけにとどまらず、食料安全保障を向上し、農家の収入を増やし、廃棄物による排出量を削減していることにもなる。同社は現在、ロックフェラー財団とグーグルの支援を受けて規模を急拡大中で、年内には70t(トン)分のパネルを備えた太陽光発電施設を稼働させる予定だ。アフリカ市場から原料を調達しているブランドや気候正義を掲げる企業は、強じんな環境再生型バリューチェーンを実現しているキープ・イット・クールに注目すべきである(同社は2024年、環境保護に貢献した組織を評する英国王立財団のアースショット賞を受賞した)。
4.AIの「頭脳」を備えた太陽光発電システム

自らのソーラー運用状況を自力で診断できる――。それを実現させたのがオーストリアの企業ライクーン(Raicoon)だ。同社の自律型運用センター(Autonomous Operations Center)にはAIが搭載されており、太陽光発電システムを自動で監視、分析、調整するため、人の手は不要である。いわば、頭脳を備えた太陽光パネルだ(非常に優秀な頭脳でもある)。
- 技術的な仕組み
同社が開発した自律型運用センターは、太陽光施設から続々と送られてくる大量のデータをAIの機械学習で処理する。そして、人間のオペレーターに誤認警報を発信したり、スプレッドシートを絶えず送り付けたりすることなしに真の問題を特定し、本当に重視すべき問題に関してのみ注意を促す。しかも、精度はほぼ完璧だ。そのため、不具合があれば早期に発見し、保守点検を能率的に実施できるので、エネルギー出力は最大で6%も向上する。運営コストの削減率は最大50%と、「わずかな努力で多くを得られる」実にまれなケースなのだ。
- 環境意識の高い企業が注目すべき理由
国際エネルギー機関(IEA)によると、気候変動との闘いにおいてエネルギー効率を高めることは「最初の燃料」である。そして、そう言われる理由をライクーンが証明している。太陽光発電インフラに投資している企業がこうしたプラットフォームを導入すれば、発電能力がフルに発揮され、理論的な「設備容量」を実際に発電することが可能になるだろう。ライクーンはまた、2023年10月に400万ユーロの資金を新たに調達したほか、2024年にはアマゾンが持続可能性推進のスタートアップを支援するアマゾン・サステナビリティ・アクセラレータに選出された。今後注目すべき企業と言って間違いない。
5.どこでも貼り付けられる超薄型の太陽光パネル

曲げたり伸ばしたり、あちこちにくっ付けたりできる太陽光パネルが誕生している。米マサチューセッツ工科大学(MIT)発のベンチャー企業アクティブ・サーフェシズ(Active Surfaces)が開発したのが、非常に軽くて柔軟に曲げられるソーラーフィルムだ。重さは従来のパネルの120分の1で、人間の髪の毛よりも薄い。これからは、屋根やベランダ、公共建築物はもちろん、交通機関の拠点など、太陽の光が届く場所ならどこででも発電できる。
- 技術的な仕組み
同社は、重くて壊れやすく保護ガラスが必要なシリコンを使わずに、薄くて柔軟な太陽光吸収素材の開発に挑んだ。そうして生まれたのが、羽根のように軽量で、曲げ伸ばしができるモジュールだ。運搬や設置が容易で、建物の表面になじむし、お金のかかる改修工事も必要ない。同社はまた、生産コストと設置コストを大幅に削減できる特許取得済みの高速生産技術を採用している。
- 環境意識の高い企業が注目すべき理由
太陽光パネルはもはや、扱いづらくもなければ、畑など広い場所に限って設置するものではない。同社が開発した技術によって、これまで生かされてこなかった都会の遊休スペース(古い建物の屋根や不便で狭い場所、特殊な建築様式の建物など)でクリーンエネルギーを発電できる。実用的かつ拡張可能で、都市環境に適したソーラー技術であり、事業用不動産やインフラ資産、気候目標を持つ企業にとっては当然とも言える選択肢だ。