• 公開日:2025.06.23
  • 最終更新日: 2025.06.20
インパクト投資の鍵はステークホルダーとの「エンゲージメント」 
  • 松島 香織

企業のサステナビリティに関する情報開示について、国内でも義務化に向けた動きが進んでいる。2025年3月には、日本版の情報開示基準内容がサステナビリティ基準委員会(SSBJ)から発表され、2027年以降に開示が義務付けられる見通しだ。そうした中、本セッションではインパクト投資を行う投資家らが登壇し、企業が真に持続可能な成長を実現するための鍵となるステークホルダーとの「エンゲージメント」について議論した。 

Day2 ブレイクアウト

ファシリテーター 
田中信康・サステナブル・ブランド国際会議 ESGプロデューサー 

パネリスト 
小野塚惠美・エミネントグループ 代表取締役社長CEO 
清水裕・カディラキャピタルマネジメント 代表取締役CIO 
田淵良敬・Zebras and Company 代表取締役 

インパクト志向が強い企業は、財務指標も優れる 

小野塚惠美氏

まず、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントで、長らく企業のエンゲージメント向上に従事していたエミネントグループ代表取締役社長CEOの小野塚惠美氏がセッションの前提を整理した。投資スタイルにはパッシブ運用とアクティブ運用があり、その上でそれらにかかるエンゲージメントには「守り」と「攻め」があると説明した上で、小野塚氏は2022年の経団連のレポートを紹介した。 

このレポートでは、従来型のESG指標に基づいたエンゲージメントではなく、インパクト指標を活用した対話によって、その企業の在り方やビジネスモデルの変革、企業価値を高めることを提案。さらに金融庁金融研究センターの2023年のレポートでは、インパクト志向が強い会社は総じて企業価値が高く、ROEなどの4つの財務指標でも優れた数値が出ていると示されていたことが共有された。 

企業のインパクト志向を応援 

清水裕氏

2022年に投資資産運用会社として設立されたカディラキャピタルマネジメントが目指すのは、投資企業の価値を高めてファンドのリターンを上げることだけではなく、「投資企業の先にいるステークホルダーが豊かになっていくこと」だ。だが一方でこうしたインベストメントチェーン(投資の連鎖)は、資金を持っている人がより豊かになる構造もあり、格差を拡大する役割を負うことにもなりかねない。同社代表取締役CIO (チーフ・インベストメント・オフィサー)の清水裕氏は「投資活動が世の中にどういう影響を与えているのか、負の側面をどうやって減らしていくのかを考えながら投資している」と述べた。 

同社の投資手法で特徴的なのは、一般的なアプローチとして企業価値を見つつ、地球環境や社会に対するポジティブ・ネガティブなインパクトの要素を、価値計測の中に組み込んでいる点だ。こうしたデータから投資判断することで、「企業がよりインパクト志向になっていくことを応援することができる」と清水氏は強調した。 

ゼブラ企業が市場のパイを大きくする 

田淵良敬氏

米国で最初に提唱された「ゼブラ企業」という概念は、短期間で成長し上場するような「ユニコーン企業」とは異なり、自社の事業活動が社会にどのようなインパクトを与えていくのかを第一に考える企業のことだ。Zebras and Company 代表取締役の田淵良敬氏もこれに賛同し、自社の社名にも採用、積極的にゼブラ企業への支援を行ってきた。同氏は「上場」や「短期」を当たり前とする投資側と、そういった成長を望んでいない企業側の考え方のギャップを感じていたといい、「一人勝ちするのでなく、市場のパイ(競争力)自体を大きくしてみんなで勝っていくこと」を目的にしていると述べた。 

投資だけでなく経営支援も行う同社の目標は、「まずはゼブラ企業という日本語を広めて、ムーブメントやコミュニティにしていく」ことだ。岸田政権時代の2023年、「骨太の方針」の中でゼブラ企業を推進することが明記されたことも紹介され、田淵氏は「自分たちの手を離れて、さまざまな企業が自らゼブラ企業を名乗ってくれるようになってきている」と変化を説明する。 

ステークホルダーとの関係性は財務結果につながる 

事例発表を受けて、ファシリテーターを務めたサステナブル・ブランド国際会議ESGプロデューサーの田中信康氏は、「清水さんと田淵さんは、フレキシブルな考え方が共通している」と感想を述べ、小野塚氏も「インパクトを企業価値算定の中に組み込む清水さんは、本当にレアでユニークなアプローチをしている」と称賛。 

清水氏はこれを受け、「ポジティブインパクトの要素をキャッシュフローの予測に組み込む部分はユニークだと言われる。サステナビリティ活動をきちんとやっていれば、ステークホルダーとのコミュニケーションでエンゲージメントが高まり、サプライチェーンが豊かになる。そういった企業は長く成長できる」とエンゲージメントの重要性を強調した。 

田淵氏も「ステークホルダーとの関係性が変わると、財務結果につながる。つまり、企業にとって持続可能性が高まる」と清水氏に同意。さらに両氏は、従業員や継続的な取引先や、中長期で保有する投資家などに企業理念やブランド価値を伝える「インナーブランディング」にも触れ、清水氏は「会社がどういうインパクトを生んでいるかが伝われば、パーパスに共感した人が会社に集まってくる。従業員が自社に対して良い評価をしていれば、外部に伝わり、そのコミュニティは大きくなっていく」と展望を述べた。 

written by

松島 香織(まつしま・かおり)

2016年株式会社オルタナ在職中に、サステナブル・ブランド ジャパン ニュースサイトの立ち上げメンバーとして運営に参画。 2022年12月株式会社博展に入社し、2025年3月までデスク(記者、編集)を務めた。

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