• 公開日:2025.06.17
  • 最終更新日: 2025.06.13
森林再生プロジェクトに投資する企業は何を重視すべきか 鍵を握るのは地域住民 
  • Damien Kuhn

企業が気候変動対策に取り組むにあたり、森林再生プロジェクトへの投資は有力な手段だ。しかし、森林再生は単に木を植えただけでは成功しない。その土地に住む人々の声を取り入れなければ、倫理的な問題が生じるのに加え、長期的な管理がうまくいかない場合が多く、期待する成果は得られない。本来その土地にある生物多様性を尊重し、地域住民の経済的な利益にもつながるプロジェクトこそが、長期的な炭素除去の成果も上げられる。(翻訳・編集=茂木澄花) 

image credit: shutterstock

気候変動が加速する中、米国では公共機関の方針が揺らぎ、資金の提供が遅れている。支援を縮小する自治体もある。そんな中でも、この先の10年で成功が見込まれる企業は、この課題から逃げず、むしろ積極的に取り組んでいる。取り組みを後退させることはレジリエンス(強じん性)に反し、遅らせることは戦略に反するからだ。 

混乱した不安定な時期にありながらも、賢い企業は「気候リスクは事業リスクである」と認識しており、あくまで誠実な炭素除去活動を続けている。これは単なる数字上の炭素除去にとどまらない。気候変動対策における真のリーダーシップとは、人への投資だ。特に、気候変動によって最も大きな影響を受ける「フロントライン・コミュニティ(最前線に立つ地域社会)」への投資が求められる。 

森林の場合を考えてみよう。森林は現時点で最も有力な炭素除去の手段だ。しかし、樹木さえあれば未来は安泰、というわけではない。地域住民が管理に関与しない森林再生プロジェクトは、経済的にも、環境や倫理の面でも失敗に終わる。 

成功するのは、地域社会が主導する長期プロジェクトであり、炭素削減効果と経済的なレジリエンスの両方を目指すプロジェクトだ。その成果は狭い意味でのサステナビリティにとどまらない。市場を形作り、リスクを減らし、ブランドを築くことができる投資なのだ。 

人々、特に森林破壊と気候変動の影響を最も受ける人々を尊重した森林再生の取り組みは、上手く回るだけではない。長続きして共有価値を生み出し、実質的で測定可能な炭素除去の成果を確実に生み出せる。 

企業の資金提供による森林再生の取り組みは、失敗に終わるものも多い。その原因は、木が植えられなかったことではなく、重要な要素を無視したことだ。重要な要素とは、その土地に頼って暮らし、その土地を管理する人々である。地元住民の深い関与がなければ、森は続いていかないし、ましてや繁栄しない。気候変動への継続的な抑止力を期待するなら、投資を行う企業は、森林再生プロジェクトの評価方法を考え直す必要がある。 

後退の時代においては、現状維持ではなく前進する企業こそがレジリエントだと言える。未来の種をまく勇気を持った企業が、未来の担い手になるのだ。 

木を植えただけでは森林は成り立たない 

森林は、特に有力なカーボンシンク(CO2吸収源)であり、年間約76億トンのCO2を吸収している。この量は、工学的な炭素除去技術による除去量を全て合わせた量よりも多い。それにもかかわらず、約1000万ヘクタールの森林が毎年失われている。森林の保全と再生は、もはや「望ましいこと」ではなく「必要なこと」だ。 

とはいえ、森林再生プロジェクトであれば何でも良いわけではない。企業が良かれと思って取り組んでいるプロジェクトの多くが、1種類の木を広範囲に植樹し、単一樹種の人工林を作ることに終始している。報告書上での印象は良いかもしれないが、こうしたプロジェクトは土壌を劣化させ、水資源を枯渇させ、生物多様性を育めない場合が多い。さらに悪いことに、こうした森林は年月とともに荒廃し、持続的に炭素を除去できないことも多い。実際、ネイチャー誌が2019年に実施した調査によると、新しい計画的な森林の半分近くは、木材用に育てられる単一樹種の森林で、気候変動に対する長期的な効果は弱まっているという。 

それに代わるべき森林は明確で、その土地に自生していた多様な樹木による森林だ。生態系を再生し、レジリエントなCO2吸収源と、生計を立てるための持続可能な手段を生み出す。しかし、森林の健康的な生態系は勝手に育つわけではない。熟練した森林管理と、長期的な資金供給が必要だ。そして最も重要なのは、その土地を「故郷」とする地域社会がしっかりと参画することだ。 

森林再生投資、成功の鍵は地域社会 

森林再生プロジェクトが着実に継続するための鍵を握るのは、その土地の地域社会だ。多くの地域で、経済的な必要性に駆られて森林破壊が行われている。持続可能でない方法による農業も、木材の切り出しも、土地の転用もそうだ。この流れを逆転させる唯一の方法は、森林再生と経済的な利益を両立させることで、地域社会にメリットを実感してもらい、森の管理人になってもらうことだ。 

質の高い森林再生プロジェクトは、ただ木を植えるだけではなく、持続可能な生計の手段も生み出す。森林農業、養蜂、エコツーリズムなどを通じ、生物多様性を保全しながら収入も得ることができる。森林再生に資金を提供する企業は、カーボンクレジットで満足せず、自社の投資が、継続して地域住民に経済的なレジリエンスをもたらすかどうかを評価しなければならない。 

投資を行う企業は、経済的な面だけでなく、プロジェクトが公正かどうかという面も考慮する必要がある。特に熱帯地方の疎外された地域社会は、森林破壊と気候変動の打撃に耐えてきた。現地の意見を排除したトップダウン式の保全活動は、そうした地域の人々を支援するどころか、追い払うことになる恐れがある。今では、地域社会を中心に据えた炭素プロジェクトも出てきており、正しい実施方法について明確な指針も示されている。経済的な利益を公正な形で共有し、地域のガバナンスを支援し、全ての段階で地域社会の知見を取り入れるプロジェクトが望まれているのだ。 

投資に値する森林再生プロジェクトを選ぼう 

森林再生に関わる産業は変化している。企業にはもう、土地利用の現実や地域経済、地域社会のガバナンスを無視したせいで失敗するようなプロジェクトに資金を投じている余裕はない。こうした中、環境・社会分野の基準を策定する米国の非営利組織ヴェラ(Verra)は昨年、新たな基準「ネイチャーフレームワーク」を発表した。この基準は、自然保護・再生活動における地域社会との関わりについても厳しく定めている。例えば「利害関係者の意見と参画」の項目には「地域の慣習、価値観、地元機関を尊重し、弱い立場や疎外された利害関係者が自己申告する機会を継続的に提供しなければならない」とある。これは、大きな成果をもたらすプロジェクトと、短命に終わるプロジェクトを識別する基準でもあると言える。 

企業のサステナビリティ部門は、森林再生に資金を提供する前に、次のことを確認すべきだ。 

  • 単一樹種の人工林よりも、在来種と生物多様性を優先するプロジェクトであるか 
  • 地域社会はどのように直接的な利益を得られるか(金銭的な利益、またはその他の利益) 
  • その土地に頼って生きる人々が、森林再生と長期的な保全に関与しているか 

将来性ある「住民第一」の森林再生を 

森林再生に投資するにあたって、企業には2つの選択肢がある。一時的な見栄えが良いプロジェクトに投資するか、何世代にもわたって炭素隔離に貢献する森に投資するか。そこにある違いは、結局のところ「人」だ。地域の知見を支持し、公正な対価を確実にもたらし、プロジェクトの全段階に地域社会の責務を組み込んでいくことが、持続可能な森林再生につながる。 

本当に問うべきは、企業が森林再生を支援するべきか否かではなく、正しいプロジェクトに投資しているかどうかだ。地域に根差した持続可能な森林再生プロジェクトは、炭素除去で成果を上げ、生物多様性に貢献し、地域社会に経済的な利益をもたらす。これらを両立できないプロジェクトに投資することは、機会を逸することになるだけでなく、リスクでさえあるのだ。 

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