
サステナビリティに関心の高い大学生に学びを深めてもらう「SB University 2025」が、今年も「サステナブル・ブランド国際会議2025東京・丸の内」の1プログラムとして開催された。今年は積水化学工業の協力で、大学生30人が参加。最終日の午後には、「社会課題を解決する製品・サービスを生み出す手段としての統合思考」をテーマに掲げたワークショップが行われ、2日間の学びの集大成として、大学生たちが環境・社会・経済の複合的な視点から、社会課題解決のアイデアを生み出すことに挑んだ。
Day2 SB University 2025 Wrap UP-Meeting 講師 三浦仁美・積水化学工業 ESG経営推進部 環境経営グループ グループ長 野澤育子・積水化学工業 ESG経営推進部 環境経営グループ 担当課長 進行 足立萌愛美・nest[SB Japan Youth Community] プロデューサー 吉田悠馬・nest [SB Japan Youth Community] メンター |
2日間のプログラムが参加者の統合的視点育む
大学生の特別招待プログラムであるSB University 2025は、2日間にわたって国際会議に参加し、参加者の視野を段階的に広げる設計となっている。初日の基調講演では国内外のサステナビリティ有識者や先進ブランドの代表者から最新の動向を学び、ブレイクアウトセッションでは具体的な事例に触れる機会を得た。参加者限定のランチ交流会やネットワーキングレセプションでは、同世代の仲間や業界のプロフェッショナルとの対話を通じて、多様な価値観に触れることができた。
2日目も同様に基調講演や第7回未来まちづくりフォーラムへの参加を通じて知見を深め、昼食会では一般参加者とのネットワーキングも行われた。このような段階的な学びのプロセスを経て、最終日のWrap Up Meetingでは、参加者が5つのグループに分かれてワークショップに臨み、それぞれが2日間で得た知識と経験を、独自のアイデアとして結実させた。

各グループは事前に配布されたワークシートに基づいて、題材となる施設(学校・病院・レストラン・スポーツ競技場・テーマパーク)を選び、アイデアを検討した。そこから解決したい社会課題の特定、提案内容の詳細化、ハード面とソフト面それぞれにおける社会課題解決ポイントの整理、そして最後にそれらを統合思考で考えたポイントの明確化という流れに沿って企画を構築する。こうした体系的なフレームワークにより、環境・社会・経済の複合的な視点から課題解決策を練り上げ、統合思考の実践を通じて多角的なアプローチを模索することが狙いだ。

そうしてWrap Up Meetingでは、各グループが約40分の討議を通じ、各人の意見を集約して作り上げた統合思考による社会課題の解決策を発表した。いずれも独創性に溢れた、レベルの高いアイデアで、発表者も、聞く側も、真剣な表情だ。
「自給自足型食育学校」で地域と連携
Aグループは、公立小学校を対象とした「自給自足型食育学校」を提案した。教育格差や地域コミュニティの希薄化、フードロス問題の解決を目指すこの取り組みは、地域の空き地や農地を活用して生徒が農作物を栽培し、それを給食で消費、残渣(さ)はコンポストで堆肥化して再び農地に還元するという循環システムを核としている。
この取り組みを通じて、「どうやったらもっとうまく栽培できるのかを自分たちで考え、答えを見つけることにつながるし、環境問題や社会問題などにも主体的に行動できるようになる」と発表者はその効果を統合思考の観点から説明した。

講師を務めた積水化学工業の三浦仁美氏は講評で「統合的な発想で面白いアイデア。ただし、小学校が舞台ということなので、子どもたちの学力向上との両立も合わせて考えるともっと良かった」と建設的なアドバイスを送った。
園芸療法で患者の社会参加を促す
Bグループは「野菜のおいしい病院」をテーマに、閉鎖的になりがちな病院環境の改善を提案した。病状が軽度な入院患者が病院内の畑で園芸を行うことで、メンタルケアや社会参加を促進する仕組みだ。屋上緑化やコンポスト設置により、CO2削減とフードロス削減を同時に実現する。 「患者が職員と一緒に園芸をすることで、ストレス軽減を図ることができる」と発表者は園芸療法の効果を強調した。

こちらの講師は積水化学工業の野澤育子氏が務め、「患者の活力を伸ばすという良いコンセプトだ」と評価しつつ、「安全面への配慮や重度患者への対応も今後の課題」と指摘した。
地域特性を生かした交流創出レストラン
Cグループは西多摩地域を具体的な立地として設定し、「地域の魅力と交流を創出するレストラン」を提案した。空き家問題、GHG排出削減、コミュニティの希薄化という3つの社会課題に同時にアプローチする野心的な企画だ。
大学生と連携した空き家リノベーション、地産地消メニューの提供、農家を招いた野菜勉強会、囲炉裏を中心とした交流スペースの設置など、多世代・多主体の交流を促進する仕組みが盛り込まれている。
三浦氏は「場所を西多摩に特定したことで、より具体的な要素が見えてくる。実際のビジネス化には更なる調査と統合的視点が必要」と実践に向けた課題を示した。
行動変容を促すスポーツ競技場のゼロウェイスト
Dグループは「お皿を持ってスタジアムへ」を合言葉に、スポーツ競技場でのごみ削減を目指した。観客が容器を持参すれば料金を割り引き、持参しない場合はリターナブル容器とデポジット方式を採用する、価格差による行動変容の仕組みを特徴とする。
「料金に差をつけることで、普段から利用者がリユース習慣を身につけ、最終的には環境に良い行動が広がる」と発表者は価格インセンティブの効果を説明した。
野澤氏は「価格差による行動変容の仕組みが良い」と評価し、「アスリートの協力に加え、地域企業との連携でより多くの人に知ってもらう工夫が重要」とアドバイスした。
体験型テーマパークで環境教育と地域創生を両立
Eグループは茨城県大洗町を舞台に「ブループラネットラグーン」という体験型テーマパークを提案した。サンゴ再生、海洋プラスチック回収、未利用魚の活用、地産地消農園など、海洋環境・脱炭素・資源循環の3つの軸で社会課題解決を図る、こちらも統合的なアプローチだ。
カーボンクレジットをポイント化して来園者の環境行動を促進する仕組みや、洋上風力・波力発電による再生可能エネルギーの活用など、先進的な取り組みが随所に散りばめられている。
三浦氏は「体験型であり、統合的な発想が魅力的」と評価しつつ、「初回訪問の動機付けやターゲット層へのアピールが今後の課題」と指摘した。
身につけた統合思考は、次世代のイノベーションにつながるか――

わずか40分という短い検討時間にも関わらず、各グループは見事に具体的なアイデアに落とし込んで見せた。特に印象的だったのは、各グループが地域との連携や多世代交流を重視していた点だ。持続可能な社会の実現には、技術革新だけでなく、人と人とのつながりや地域コミュニティの再生が不可欠であることを、彼らは直感的に理解しているのだろう。講師たちの鋭く、的を射たアドバイスも彼らに刺激を与えていた。
国際会議の基調講演やセッションの聴講からネットワーキング、そして最終的な成果発表まで一貫したSB Universityというプログラムは、参加者にとって、単なる知識の習得を超えた、実践的な統合思考を身につける場として確実に機能していた。ここから次世代のイノベーションへとつながることが期待される。
いからし ひろき
プロライター。2人の女児の父であることから育児や環境問題、DEIに関心。2023年にライターの労働環境改善やサステナビリティ向上を主目的とする「きいてかく合同会社」を設立、代表を務める。