• 公開日:2025.06.09
  • 最終更新日: 2025.06.06
海藻を活用した新しい技術基盤が浮上――米企業が海水の鉱物資源を回収
  • Sustainable Brands Staff

現代テクノロジーになくてはならない重要鉱物のレアアース(希土類)やレアメタル(希少金属)。しかし、かねて採掘による環境破壊が問題視され、安定供給の前には地政学的課題も立ちはだかる。この2つの問題を一気に解決し得る秘策と言われているのが「海藻」だ。米企業がバイオマイニングと呼ばれる環境再生型の手法で、海藻を使って海水の鉱物資源を回収する技術基盤を開発し、持続可能な国内サプライチェーンの構築に乗り出している。海藻は鉱物業界の救世主となれるのか。(翻訳・編集=遠藤康子)

Image: Rachelle Hacmac/Blue Evolution

気候ソリューションが求められている今、グリーンに輝く希望の星として注目を集めているのが海藻だ。スーパーフードであるとともに、成長が驚くほど速く、並外れた炭素隔離力を持つ海藻は、次世代を担う頼もしい原料とされている。海藻由来の製品には飼料やプラスチックフィルム、包装資材、繊維、バイオ燃料などがある。

そんな海藻の使い道がまた一つ増えそうだ。海藻の潜在能力を生かして持続可能な解決策を創造し、カーボンネガティブの未来実現を目指す米カリフォルニア州の気候テック企業ブルー・エボリューションが、「オーカ・ミネラルズ(Orca Minerals)」というバイオマイニング技術プラットフォームを開発した。バイオマイニングとは自然界に存在する金属を抽出・分離する環境再生型の手法だ。米国初のバイオマイニング企業である同社は、戦略的鉱物資源の供給を巡って世界的に緊張が高まりつつある現状を受け、養殖海藻を使ったレアアースなど重要鉱物のバイオマイニングに着手する。

オーカ・ミネラルズは、ブルー・エボリューションが10年以上にわたって積み重ねてきた海藻養殖とバイオプロセス(生物由来の原料から食品や製品を生み出すプロセス)の成果を基に、重要鉱物の回収分野で新たな世界基準を打ち立てることを目指している。鉱物を鉱床から採取せず、海藻から回収するモデルを確立しようというのだ。海藻を養殖してレアアース元素や戦略的に重要なレアメタルといった微量元素を吸収させることにより、オーカ・ミネラルズが掲げる廃棄物ゼロ、枯渇ゼロ、破壊ゼロ、排出ゼロという「Zero+フレームワーク」を鉱物経済で実現させる。それと同時に、生態系と地域社会に測定可能なコベネフィット(相乗便益)をもたらそうとしている。

「オーカ・ミネラルズの技術プラットフォームは、海上(オフショア)養殖と管理された陸上(オンショア)養殖の両方に対応しており、海藻の種類や場所、回収したい鉱物に応じて調整できるようになっています」。オーカ・ミネラルズの取り組みを指揮するマット・マクガービー氏はそう説明する。「モジュラー式なので、生物多様性目標や海洋管理ルールに合致させ、現地に合わせて生産することが可能です」

採取型に代わる環境再生型の鉱業

鉱床から鉱物を採掘する従来型の鉱業は今も、世界的なサプライチェーンに依存して精製処理を行っている。一方、オーカ・ミネラルズの手法なら、陸上で自然の力を借りた鉱物の採取と処理が可能になる。海水中の微量元素を海藻に吸収させ、グリーンケミストリーを応用して国内で精製することで、国家が掲げる資源安全保障の強化という目標を支えつつ、環境への影響を低減する。

オーカ・ミネラルズのチームは、米エネルギー省エネルギー高等研究計画局(ARPA-E)から多額の助成金を得て、米国パシフィックノースウエスト国立研究所(PNNL)と戦略的提携を結び、カリフォルニア大学デービス校やバージニア工科大学といった一流研究機関とともに、以下のような課題に取り組んでいる。

  • 海水に含まれている鉱物を海藻で吸収する方法の最適化
  • 鉱物を効率的に回収するための抽出技術の改善
  • 地域的ならびに世界的なサプライチェーンで経済的な実行可能性と回復力の確保
  • オフショアと管理されたオンショアの両環境で採用できる方法

オーカ・ミネラルズは、研究機関と科学面で連携しているだけではない。次世代型の温室効果ガス排出量の測定・報告・検証(MRV)システムや、炭素会計プロトコル、ブルーカーボン(海底や深海に蓄積されている炭素)を自然の力で回収・活用・貯留するための新たな枠組みなどを他に先駆けて提唱し、生態学的なコベネフィットを見える形で追跡調査し収益化しようとしている。

「海藻などの海洋植物にはレアアースやレアメタルなどが濃縮されています。この生物濃縮と呼ばれる現象をどう活用すれば、複雑な鉱物調達の問題を解決できるのかを解明するのが研究の目的です」と話すのは、PNNLで藻類研究チームを統括するマイケル・ヒューズマン博士だ。「私たちはブルー・エボリューションと手を組んで、規模の拡大が可能で非採取的、かつ持続可能な解決策を模索しています。その解決策がいつか、従来型の採掘を補うものになるかもしれません。採掘の必要性が減ることだってあり得るでしょう」

ブルー・エボリューションの創業者で最高経営責任者(CEO)のボー・ペリー氏は、「PNNLとの共同研究で、私たちはこれまで見たことのない発見をしました。当社が養殖している海藻からレアアース元素と白金族元素群が見つかったのです」と話す。「米エネルギー省の支援でそれが分かり、これまで以上に大きな可能性が見えてきました。それがオーカ・ミネラルズの立ち上げにつながったのです」

海藻の養殖で中国に対抗

海藻が海水から吸収する重要な鉱物には、スカンジウムやイットリウムなど現代テクノロジーに不可欠なものも含まれている。従来型の採掘は資源を大量に消費し環境を破壊するが、バイオマイニングであれば生態系への影響が最低限で済み、生物多様性も維持される。

オーカ・ミネラルズは、米国が海外での加工処理に頼ることなく重要鉱物を確保・精製する方法を模索しているさなかに立ち上げられた。海藻を使ったバイオマイニングには、重要鉱物を国内調達できる持続可能なサプライチェーンが構築されるという利点もある。そうしたサプライチェーンこそ、米国が輸入品に厳しい関税を課すという状況下で多くの業界が必死に確立しようとしているものだ。オーカ・ミネラルズは2025年4月のブログでこう説明している。

「米国ではほとんど知られていない事実ですが、中国は全世界の養殖海藻の半分以上を生産しています。中国は太陽光パネルやリチウム電池、マグネットと同じく海藻についても、生産だけでなく加工処理、研究開発、価格設定を支配しているのです」

「私たちは中国に太刀打ちできます。ただし、中国をまねずにもっと賢い方法を使います。米国が持つ遺伝学や自動化、人工知能、環境再生型デザインといった分野のイノベーション力があれば、中国の現在の総生産量を上回る海藻をアラスカだけで養殖することができます。これは単なる希望的観測などではありません。地理学、生物学、政策の連携はいつ起きてもおかしくないのです」

クリーンテック原料をより近場で調達

オーカ・ミネラルズのチームが現在、海藻から抽出しようと試みているのはクリーンエネルギーに不可欠なレアアースや戦略的メタルなどさまざまだ。それらの現行サプライチェーンは、環境に悪影響を与えていたり地政学的な制約を受けたりしている。以下に例を挙げよう。

  • ネオジム、ジスプロシウム――電気自動車(EV)エンジン、風力タービン、高性能電子機器のための高性能磁石に使われる。
  • スカンジウム――レアアース元素の1つで、全固体電池や、航空用ならびに防衛用の軽量アルミニウム合金に使われる。
  • コバルト――パーソナル電子機器、EV、エネルギー貯蔵システムに必要なリチウムイオン電池の主要な要素。
  • 白金族金属(PGM)――水素燃料電池や触媒コンバーターに使われる。

オーカ・ミネラルズの手法は、自然に基づいた環境再生型の代替策となる。

従来型鉱業よりスピーディな展開が可能

また、ペリー氏は米サステナブル・ブランドへのメールで、バイオマイニングで重要鉱物を調達する手法には従来型の採掘による経済モデルより優れた利点がもう一つあると述べた。「海底採掘や硬岩採掘のプロジェクトは生産開始にこぎ着けるだけでも7年から15年はかかることが多々あります。一方、海藻を使ったバイオマイニングなら3年から5年で成果を得られる規模に到達できると考えています」と説明する。「(3年から5年という)所要年数はプラットフォームの成長初期段階です。新たなサプライチェーンの構築や抽出技術の開発導入といったことが含まれますが、それは一度限りで済みます。その先は、新しい拠点の拡張スピードはずっと速くなるでしょう。許認可の障壁が下がり、資本の投入も減るからです。私たちが目指しているのは、海藻から他の価値ある副産物を得ると同時に、重要鉱物をより早く、よりクリーンな方法で、事業拠点に近い場所で生産できるシステムの構築です」

地域社会と共に目指す環境再生

ブルー・エボリューションのチームは、海藻と海洋養殖に関して100年以上積み重ねられてきた複合的な専門知識を結集し、先住民族ならびに沿岸地域社会と密に連携しながら本格的な環境の再生と回復、共有価値の推進に取り組んでいる。オーカ・ミネラルズは、先住民族と沿岸地域の人々がただ参加するだけでなく、新しい鉱物経済の共創者としての立場を確立できるよう尽力している。世界各地で提携する際には、所有権の共有や研究開発協力、収益の分配、意思決定への参加が可能な、公正な仕組みの構築を目指している。

ブルー・エボリューションは、2027年に実用的プロトタイプ第1号を稼働させ、2028年には商業化にこぎつけることを想定している。第一にやるべき作業には、鉱物を効率良く吸収できる海藻株の改良を行う陸上養殖設備の開発がある。手始めとして、ブルー・エボリューションがアラスカとメキシコにある拠点で生産中の紅藻類、緑藻類、褐藻類に力を入れていくという。

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