
コンビニATMが果たす役割は進化し続けている。本セッションでは、ATMを持続可能な社会のインフラにするべく開発に励むセブン銀行とパートナー企業3社が登壇した。社会の困りごとを解決する多機能型ATMはどのように生み出されているのか。その裏側と、環境負荷を低減する取り組み、コンビニATMの行く末について語った。
Day1 ブレイクアウト ファシリテーター 小山嚴也・関東学院大学 学長・経営学部教授 パネリスト 大元成和・野村総合研究所 常務執行役員、NRIセキュアテクノロジーズ 取締役会長 髙橋 賢・綜合警備保障(ALSOK) 常務執行役員 田熊範孝・日本電気(NEC) 執行役 Corporate EVP 兼 CSCO 松橋正明・セブン銀行 代表取締役社長 |
世界トップのATMプレイヤーを目指す

コンビニATMの機能と聞いて、なにを思い浮かべるだろうか。
セブン銀行の第4世代ATMには、顔認証による入出金のほか、募金の受け付け、外国人居住者向けの口座開設、海外送金、子育て・生活支援給付金の受け取り、マイナポイントや健康保険証利用の申し込みなどさまざまな機能が備わっている。
松橋正明社長は「ほかの金融機関があまり手がけていない分野のアクセス性を高めることで社会に貢献していきたい。近い将来、銀行や行政に関わる業務がコンビニにおいてワンストップでできる世界を目指している」と話す。
2001年創業の同社は、2025年3月時点で、世界で4万8800台を超えるATMを展開。そのうち国内のATMは約2万7000台に上る。松橋氏は、自社を「銀行の免許を持ったスタートアップ」と表現し、チャレンジ精神を持ち続け、新たなテクノロジーを駆使して開発に取り組んできたことを強調した。
社会課題を解決するインフラとしての機能を拡大し、「世界トップのATMプレイヤーを目指す」過程では、設計段階から省エネで、リサイクル素材を活用したメンテナンスしやすい構造を採用するなど、環境対策にも力を入れる。そうした開発と運用を支えるのが、この日ともに登壇したパートナー企業だ。
現場のエンジニアの声を生かす

NEC(日本電気)はセブン銀行のATMを製造し、製品の企画、開発、生産、設置、保守サービスの行程に携わる。両社は企画段階から密に連携しているという。
松橋氏は「現場のエンジニアの方と話すと答えが出てくる。どうすれば社会によりいいものを届けられるか意見を出し合う」と言い、NECの田熊範孝・執行役は2社の協力体制について「社会により良いものを提供するという大義とエンジニアリングがうまく回っている」と説明した。
両社の連携により、消費電力は、第3世代のATMが約147W/hだったのに対し、第4世代では約86W/hと約40%低減した。さらに製造工程では、自動化の推進と生産効率の改善によって環境負荷を下げ、作業者が無理のない体勢で作業できるラインを確立することで高効率・高品質を持続させてきたという。また工場の屋根に太陽光発電を取り入れ、脱炭素化も推し進めている。
世界一止まらないATM

一方、ATMの運用を担い、現金の管理と補充、障害への対応、機械の警備などを一手に引き受けるのが、総合警備保障(ALSOK)だ。
障害発生時における同社の迅速な対応によって、セブン銀行のATMの稼働率は99.98%に達し、「世界一止まらないATMだ」と髙橋賢・常務執行役員は自負する。さらに同社はセブン銀行のコンビニATMのために遠隔画像監視システムを開発し、すべてのATMを監視できる体制を確立することで、犯罪の記録・解決にも寄与している。
近年、キャッシュレス社会へ移行する中、ATMの全体数は減少しており、コンビニATMへの集約が進んでいるという。かつては1社につき1台だった現金輸送車も、いまは1台で数社の現金を回収・輸送する。こうした効率化に加え、同社では警備輸送車両にEVやクリーンディーゼル車を導入することでCO2排出量の削減も進める。
災害や障害などのリスクに強いデータセンター

野村総合研究所はシステム面からATMの運用を支える。東京と大阪の2カ所のデータセンターを稼働させ、災害時にも停止することなくサービスを提供できる体制を整えている。
大元成和・常務執行役員は「24時間365日体制で運用を支えるなかで、特に重要なのは機密情報を扱うデータセンターの施設であり、人も含めた運用・監視体制だ」と語った。
同社ではデータセンターのある施設を24時間365日運用監視するために、時差のある日本、米国、デンマークの3拠点で従業員が日中に対応できる働きやすい体制をとっている。建物自体も堅ろうな造りで、地震の少ない地域に設置。さらに2021年度からは再生可能エネルギーを100%利用し、省エネに努めている。
ATMはどこまで進化するのか

最後に、ファシリテーターの小山嚴也氏はATMの未来について各氏に問いかけた。
「数年後には、『ATMは昔、現金をおろす機械だったんだよね』と言われるほどに様変わりしていくだろう」
松橋氏はそう話し、次世代ATMの開発に向けて産学連携を進めていることを明かした。
「持続可能な社会を実現するには、地道な活動と大胆なリープフロッグ(かえる跳び)的なものを繰り返していく必要がある。大胆な発想を繰り広げながら、パートナー企業の皆さんとうなるぐらいの難題に挑戦し、社会課題を解決して、お客さまには便利に使っていただけるよう取り組んでいきたい」(松橋氏)
NECの田熊氏は、「バーチャルなどがもてはやされるなかでも、人が触れる『人間接点』はなくならないし、大事だと考えている」とATMの価値に言及。そうした位置付けのもとに、「これからもパートナーとして取り組んでいきたい」と述べた。
ALSOKの髙橋氏は、「ATMの遠隔画像監視システムを活用することで、オレオレ詐欺などの犯罪を防止し、防災や見守りにも役立てるのではないか」と展望を語り、「社会の安全、安心のためにATMが活用されるようにしていきたい」と期待を込めた。
野村総合研究所の大元氏は、「日本は高齢化が進み、少子化で労働力も減っていく。社会基盤としてのATMが非常に大きな役割を担っていく」と、コンビニATMが未来において果たす役割の重要性を強調した。
社会インフラとして日々、進化を遂げるコンビニATMを異業種の力強い連携が支えている。
小松 遥香(こまつ・はるか)
アメリカ、スペインで紛争解決・開発学を学ぶ。一般企業で働いた後、出版社に入社。2016年から「持続可能性とビジネス」をテーマに取材するなか、自らも実践しようと、2018年7月から1年間、出身地・高知の食材をつかった週末食堂「こうち食堂 日日是好日」を東京・西日暮里で開く。前Sustainable Brands Japan 編集局デスク。