
リジェネラティブ社会の実現のために、環境負荷の低減と製品の機能向上を両立する「次世代マテリアル」が注目されている。本セッションでは、繊維と容器、活性炭の素材メーカー3社が登壇。脱炭素や循環型経済に向けて、それぞれがどのような技術を研究開発し、製造から販売、その先の回収までの仕組みを構築しているのかといった事例を共有した。
Day1 ブレイクアウト ファシリテーター 細田悦弘・公益社団法人 日本マーケティング協会「サステナブル・ブランディング講座」 講師 パネリスト イヴ・ドバイル・Jacobi Carbons President Asia 大森悠子・日本テトラパック サステナビリティディレクター 勅使川原ゆりこ・東レ マーケティング部門環境ソリューション室 室長 |
冒頭、ファシリテーターの細田悦弘氏は、「素材が変われば抜本的なトランスフォーメーションにもつながる。今日は3社の話を通じて素材の持つ力を伝えたい」と、セッションのタイトルである『次世代マテリアルでつかむ! リジェネラティブ社会の競争優位』に込めた意味を説明した。
日本のものづくりの良さを大切に開発

東レは2018年にサステナビリティビジョンを策定し、2050年に目指す4つの世界を定めた。GHG排出量ゼロの世界、資源が持続可能な形で管理される世界、自然環境が回復した世界、そして、誰もが健康で衛生的な生活を送る世界、だ。こうした目標を達成すべく同社が取り組んでいるのが、リサイクルや植物を原料とした繊維の研究開発だ。
同社では、リサイクル繊維を使った製品を展開するため、主にアパレル製品を扱う「&+(アンドプラス)」というブランドを立ち上げた。同社マーケティング部門環境ソリューション室 室長の勅使川原ゆりこ氏は「(購入者が)手に取ったファッションアイテムがリサイクル製品で、環境に優しい取り組みをしているんだなという気づきにつながれば」と話し、同ブランドを通じてペットボトルでできた繊維で婚礼衣装の白無垢を作ったり、遮熱効果のある技術を加えて大妻女子大学の学生たちのアイデアによる日傘を作ったりしていることを紹介。
さらにトウモロコシと、油脂植物のヒマを原料とするバイオナイロンの開発では、開発途中で糸切れの現象が起きるなどの壁に直面しながらも、「先人たちの知見といろんな人の知恵を組み合わせて解決できた。丁寧でサステナブルな日本のものづくりの良さをこれからも取り入れていきたい」と話す若い女性社員の声を通して、同社が次世代マテリアルの開発においても、「人の力」を大切にしていることを伝えた。
官民で連携し、紙容器のリサイクル率向上に注力

テトラパックは1951年にスウェーデンで創業し、160カ国以上で紙容器や食品加工機器の製造販売を展開。名前の由来でもある「テトラパック」とは四面体の形状をしたパッケージを指し、1962年に日本法人として日本テトラパックが設立された当時、学校給食の牛乳にこのパッケージを提供したという。
同社のサステナビリティディレクター、大森悠子氏は、この牛乳のパッケージを、「少ない紙で多くを包装でき、瓶に比べて非常に軽い。輸送効率も良かった」と話し、この頃から、同社がすでに省資源で機能的かつ経済合理性のある包装を追求してきたことを強調。また近年はグローバルで2050年までにネットゼロを達成する目標を掲げ、特に、スコープ3における温室効果ガス排出量の削減を課題に、原材料サプライヤーとの共同研究や、世界中のリサイクルプログラムへの投資を積極的に推進していることが明かされた。
そうした中、同社の次世代マテリアルの一つとして大森氏が紹介したのは、「サステナブル・ブランド国際会議 2025 東京・丸の内」の会場でも提供されたミネラルウィーターのパッケージだ。このパッケージはFSC認証紙を使用しているだけでなく、キャップはサトウキビから作られ、専用の回収ボックスで集めた空き容器は、主にトイレットペーパーにリサイクルされる。ただその回収率は約3割と、ペットボトルや缶が8割以上であるのに比べても非常に低いことが課題と言い、大森氏は、「行政や民間企業と連携してこの数字をどうにか上げていきたい」と力を込めた。
活性炭メーカーとしてサステナビリティをけん引

Jacobi (ジャコビ )グループも同じスウェーデンで、1916年に創業された活性炭のメーカーだ。まずスリランカの工場でヤシ殻の活性炭を生産し、90年代にはアジア地域から石炭と活性炭を輸入し、主に欧州と米国で販売。オフィスや工場は約20カ国にあり、日本では10年前から大阪ガスケミカルグループの傘下で活性炭以外にもイオン交換樹脂や活性炭フィルターのサービスを展開している。
Jacobi Carbons President Asiaのイヴ・ドバイル氏によると、活性炭には200以上の用途がある。浄水処理をはじめ、PFASや焼却炉のダイオキシンの吸着、食品や医薬品の生成などだ。主な原料はヤシとココナッツで、同社は1年間で約8万トンの活性炭を生産。多くの工場は環境負荷の低いクリーンな環境下で稼働しているが、「やはり完璧ではない。我々のミッションは、この産業のサステナビリティリーダーになることだ」とドバイル氏。
そうしたなか、同社は、チャコール(炭)を作る際に出る熱に注目し、「Jacobi Green Power」と名付けた電気として利活用を推進。今後は業界全体にこの技術を広めていく計画で、石炭ベースの活性炭を利用する顧客にはヤシなどに変えることを勧めている。ドバイル氏は「この2つができれば、スコープ3に大きな影響を与えられる」と力を込め、「次は活性炭の再生ソリューションを増やして、資源の消費を減らすこと。またイオン交換樹脂も再生可能な原料に向かうように研究を進めている」と展望を語った。
企業に求められているのは「社会との対話」
ディスカッションではさらに各社が苦労している点について深掘りした。勅使川原氏は「我々がいくら植物由来の原料で糸を作っても、それを世の中に出していく人がいないと、製品にならない」とサプライチェーンの連携の重要性に言及。東レでは、約3年前にマーケティング部門を設置し、顧客やサプライチェーンの事業者ととともに、資源循環を推進しており、「化石資源の方が製品を作りやすい。だが、次の世代につなげていけるものづくりをすることが必要で、お客さまと一緒に製品の価値や良さを示していくことが大事だ」と続けた。
日本テトラパックも同じBtoB企業として、「我々は容器を飲料メーカーに納めてしまえば、そこで仕事は終わる。だが、容器の回収まで一貫して考えると、回収事業者などと広い連携が重要になる」と改めて強調。
同社は昨年、王子ホールディングスとのリサイクル協働を開始。通常はトイレットペーパーに再生される回収容器を、段ボールに再生することで、そこに環境価値を見出した飲料メーカーが、商品の出荷にこの段ボールを使用する動きも生まれているという。「資源循環の可視化や価値化が実現した取り組み。我々だけでできることではないので、さまざまなステークホルダーとの連携がないと、何も進まないと日々痛感している」と大森氏は語った。
ドバイル氏も、「我々の商品のブランド力だけでは、(社会への)サステナビリティインパクトが与えられない」と述べ、「イノベーションは研究所から出るものではなく、パートナーとの協力から出るものだ」と続けた。また同社は、工場のある国のコミュニティとの関係を非常に大事にしており、コミュニティ活動への参加や寄付などの支援、子どもやその家族への活性炭とは何かといった教育に力を入れているという。理由の一つには、「その子どもたちはわが社の社員になる可能性があるから」ということもある。
そうした話を受け、勅使川原氏は、「やはり人だと思う。生成AIではできない人の力、こういったところをフォーカスして伝えていくことが大事だ」と述べ、リジェネラティブ社会の構築に向け、「今、企業に求められているのは、競合他社とも連携しつつ、社会との対話をし続けることではないか」とセッションを締めくくった。
松島 香織(まつしま・かおり)
2016年株式会社オルタナ在職中に、サステナブル・ブランド ジャパン ニュースサイトの立ち上げメンバーとして運営に参画。 2022年12月株式会社博展に入社し、2025年3月までデスク(記者、編集)を務めた。