最新機種が毎年のようにリリースされるスマートフォンなどの電子機器。過剰生産と過剰消費による電子廃棄物は今や最速で悪化する環境汚染源だ。「ファストテック」と呼ばれるこの風潮に歯止めをかけようと、電子機器の整備と修理の欧米大手2社が立ち上がった。バッテリー交換や修理でスマホの寿命を2倍に延ばせばCO2の年間排出量は半減できると訴えている。 (翻訳・編集=遠藤康子)

スマホなどの電子機器を再生・整備するフランスのマーケットプレイス大手、バックマーケットが新しい世界的キャンペーンに着手した。その目的は、電子機器を数年置きに買い替える消費スタイル「ファストテック」や過剰生産と過剰消費の文化に立ち向かうよう消費者を促すことである。
バックマーケットは、修理やサーキュラリティ(循環性)の向上を通じて電子機器の寿命を延ばし、すでに身近にあるものを使いながらより良い世界をつくっていくことをミッションに掲げている。2014年の創業以来、17市場で販売してきた電子機器のリファービッシュ品(整備済み製品)は3000万台を超え、抑制したCO2排出量はおよそ16億キログラム(160万トン)に上る。また、電子廃棄物の影響についての意識向上や環境に配慮した消費習慣の推進に加え、計画的な陳腐化(メーカーが製品寿命を意図的に短くする行為)に抗議すべきだと消費者を鼓舞してきた。
リユース、リペア、リファービッシュ
同社は「Let’s End Fast Tech(短命化するデバイスサイクルを終わらせよう)」と名付けた今回のキャンペーンで2つの目標を掲げている。1つ目は、ファストテックの過剰生産・過剰消費による環境への影響が気候危機につながっており、その責任が増大していることを浮き彫りにすること。2つ目は、影響軽減に向けて自ら役目を果たすよう消費者の背中を押すことで、可能な限りリユース(再利用)、リペア(修理)、リファービッシュ品の購入という方法を通じて電子機器の寿命を延ばし、埋立地行きになる製品を減らそうと呼びかけている。
「電子廃棄物とファストテックは世界的な問題です。国際社会全体でその問題を認識し、解決策を見つけなくてはなりません。テクノロジー依存が及ぼす影響について、私たちは会話を始める必要があります。そのきっかけとして、スマホが旧モデルから新モデルに移行していく中で環境がどのくらい変化したのかを比較できる写真を紹介しています」。バックマーケットの最高マーケティング責任者(CMO)ジョイ・ハワード氏は2025年4月16日にニューヨークで開いた記者会見でそう述べた。
その際に同時に発表されたのが、バックマーケットとiFixitのグローバルパートナーシップの立ち上げだ。iFixitは米カリフォルニア州が本拠地だが、電子機器の修理を世界的に支援する企業で、大手の電機メーカーと手を組んで製品の循環性向上に取り組んでいる。「ファストテックに異議を唱えるこのキャンペーンの成否は、消費者が自らに深く根付いた行動を変えられるような解決策を私たちが提案できるかどうかにかかっています。iFixitと協力して、使っている電子機器を再利用、修理、整備する必要性を広めていけることを光栄に思っています」
iPhoneの画像で環境破壊を表現
Let’s End Fast Techでは、アップルの人気キャンペーン「Shot on iPhone(iPhoneで撮影)」に倣って、iPhoneの旧モデルと新モデルを使った「ビフォーアフター」画像を並べ、その間に環境がいかに悪化したのかを明らかにしている。衝撃的な画像で、電子機器を次から次へと買い替える文化が招いた損失の大きさを痛感させられる。電子機器だけが気候危機の原因ではないが、一大要因であるのは間違いない。

「昨今の広告は、持続可能な消費の促進に力を注いでいるとは言えません。それどころか、もっと買うようあおる一方で責任ある行動を求めるという、矛盾したプレッシャーを消費者に日々与えています」。バックマーケット・フランスのマーケティング責任者クエンティン・ヴァンデグヒト氏はそう話す。「だからこそ私たちは、変化を象徴化することでファストテックを終わりにしようと呼びかけているのです。象徴化には真のパワーがありますから」
Let’s End Fast Techのキャンペーンは、仏パリに拠点を置くクリエイティブエージェンシーのマルセルと共同で立案され、パリに加えて、ハンブルク、ロンドン、マドリード、ニューヨークなど世界の主要都市でも展開中だ。また、コンテンツを集約した専用オンラインサイトの開設やソーシャル広告などを通じ、電子廃棄物による影響や、ファストテック文化への依存度低減に向けて消費者として何ができるのか、学べる機会を提供している。
バッテリー交換でスマホの寿命は2倍に
バックマーケットとiFixitがこのパートナーシップで力を入れているのは、再利用、修理、整備だ。それにあたり、バックマーケットのサイトやアプリにはiFixitからツールキットと修理マニュアルが、iFixitにはバックマーケットから整備技術と製品についての情報が提供されている。
バックマーケットとiFixitは、スマホの使用期間を2年半から5年に延ばすよう消費者に呼びかけている。またメーカーに対しては、10年以上長持ちして修理がしやすい機器の生産を求めている。修理可能な製品の生産で必要となるのが、部品を取り外してスペアパーツと交換がしやすい製品設計だ。この取り組みで先頭に立っているのがオランダのFairphoneや米国のFrameworkといったメーカーである。スペアパーツと修理の情報、ソフトウェアアップデートを10年に渡って提供し、ソフトウェアブロッカー(特定のソフトウェアや機能を制限する手法)など修理させない行為を禁止している。
iPhone 13の場合、途中でバッテリー交換して寿命を2年半から5年に延ばせば、CO2の年間排出量を49%削減できる。年間1560万トンものCO2排出を減らせるのだ。iPhone 13を修理と整備で10年間使い続ければ、CO2排出量の削減割合は68%になる。バックマーケットでは、世界中の人がこれに従えば、CO2e(二酸化炭素換算)は年間2160万トンも減らせると予測している。
電子機器の使い捨ては持続不可能
デジタル業界が生産や使用によって排出する温室効果ガスの世界全体に占める割合は4%で、2040年にその割合は14%に増える見込みだ。結果として生じる電子廃棄物は現在、最速ペースで増加している汚染源で、2022年には世界全体でおよそ6200万トンに上った。2050年までには倍増する見込みだという。米国は目下、電子廃棄物量が世界第2位で、そのうちリサイクルされる割合は15%に過ぎない。
メーカーは今も、「なくてはならない機能」という謳(うた)い文句で新型の機種や機器をリリースし続けている。それに対してバックマーケットとiFixitは、リファービッシュ品を購入したり修理したりするのが当たり前の世の中になるよう力を注ぐと同時に、消費者には使用しているスマホの寿命について改めて考えてほしいと呼びかけている。
「電子機器を現行のペースで捨て続けることはできません」。iFixitの共同創業者で最高経営責任者(CEO)カイル・ウィーンズ氏はそう話す。「iFixitは20年以上、利用者が自分で電子機器を修理できるよう支援してきました。今はバックマーケットと手を組んで、リファービッシュ品を購入し、それが故障したら修理して使ってほしいと呼びかけています。メーカーに対しては、ソフトウェアとセキュリティアップデートについて10年間の提供を求めています。私たちが使っているモバイル機器はそのくらい長持ちしますし、長持ちすべきなのです。私たちが共有する未来はそれにかかっています」
*記事内の予測値やデータは以下をもとに算出:製造時のカーボンフットプリントについてはアップル製品環境報告書。リファービッシュ品の排出量は仏環境エネルギー管理庁(ADEME)調査。修理に関する排出量はFairphone 5のLife Cycle Assessment、CO2と世帯エネルギー消費換算は米国環境保護庁(EPA)の温室効果ガス換算値、スマホ販売数は2023年数値。