
日本のビジネス街の中心で、次代を見据えた再開発が進む、東京・丸の内。その中で一際注目を集めるのが、三菱地所が関係権利者と10年以上を掛けて進める「TOKYO TORCH 東京駅前 常盤橋プロジェクト」だ。2021年には地下5階・地上38階建ての「常盤橋タワー」が完成。その施設内から出る生ごみを液肥化し、液肥で育った農作物を活用したクラフトビール「TOWN CRAFT-まちの未来を考えるビール-」(以下、TOWN CRAFT)のシリーズが続々誕生している。
ゼロ・ウェイストタウン、上勝のブルワリーとコラボ
三菱地所は循環型社会の実現に向けて、丸の内エリアにおいて2030年までに廃棄物再利用率100%の達成などを目標としている。その一環として、ゼロ・ウェイストタウンとして有名な徳島県上勝町で資源の有効な再利用を推進する「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」やブルワリー「RISE & WIN Brewing Co.」(以下、RISE & WIN)を運営するスペック社(徳島市)と協業。両者のコラボレーションから生まれたのが、食の循環を意識したクラフトビール「TOWN CRAFT」だ。

2023年9月、オフィスや飲食店などが入る常盤橋タワーの地下に、1日当たり50kgの生ごみを処理できるコンポストが設置された。飲食店などで発生した生ごみを投入すると、乳酸菌などの微生物が分解し、液体肥料(液肥)に変える。その液肥を活用し、埼玉や群馬など提携先の農園がコメや麦、野菜などを栽培。それらはタワー内の社員食堂で提供されるとともに、上勝町のRISE & WIN醸造所でビールに生まれ変わる。
オフィスビル由来の生ごみが液肥に変わり、農場で使われ、ビールへとつながる――。この取り組みは都市と地方の資源循環でもあり、ごみを「資源」と捉えるスペックは、ポジティブな資源循環の仕組みを「reRise(リライズ:再生・再興という意味)」と命名している。

「TOWN CRAFT」ブランド第1弾として、2024年5月に爽やかな喉ごしの「ゴールデンライスエール」を発売。液肥を活用して育てたコメを原料に使っており、話題となった。続けて2025年1月には、上勝町特産の柚香(ユズとだいだいの自然交配種)の果皮を香りづけに使用した「シトラス柚香ホワイト」を発売。もちろんこの柚香も、常盤橋タワー内で生成した液肥を葉面散布に活用し、育てたものだ。
そして第3弾として登場したのが、「柚香セゾン」だ。常盤橋タワー由来の液肥で育てた大麦に加えて、上勝町産の完熟柚香の果皮や果汁を使用。5月16日に販売を開始したばかりで、RISE & WINを運営するスペックの北澤舞さんによると、「フルーティーさとドライな飲み心地が絶妙に調和し、さっぱりした後味が楽しめる」という。
未来を担う子どもたちへ 学び深めるWSも
「TOWN CRAFT 柚香セゾン」は5月16、17日にTOKYO TORCH Park(東京都千代田区)で開かれた「Future Beer Garden 2025」(主催:上勝町、運営:スペック)で初披露された。このイベントは昨年に続く2回目の開催で、「ゼロ・ウェイスト」を掲げる上勝町の取り組みに共感する飲食店などが出店。「未来を担う子どもたちのために今、何ができるか」を考えようと、上勝の木材を使ったMY箸作りなどのワークショップやトークセッションを初めて実施した。
17日はあいにくの悪天候となったが、親子連れらが上勝の食材を生かした特別メニューやクラフトビールを楽しんだ。5月上旬に家族旅行で上勝町を訪れた女性(47)=都内=は、小学校3年生の息子と参加。上勝町の分別方式にならったごみステーションに興味津々で、タブレット端末のカメラで熱心に撮影していた。旅行後、息子が街中のごみ拾いに参加するようになったといい、「学びを深めていけば、世界の見え方が変わり、意識も変わってくる」とクラフトビールを味わいながら、笑顔で話した。

RISE & WINのコンセプトは「JUST DRINK KAMIKATZ BEER」。北澤さんによると、そこには「まずは乾杯しましょう。おいしいビールを飲むだけで、実は環境に少し良いことにつながっているのです」といった意味が込められている。北澤さんは「ビールは資源循環を知ってもらうためのツール。気軽にビールを楽しみながら、より多くの人たちにゼロ・ウェイスト活動を体験してもらい、自分ごと化してもらえたら」と意識の高まりに期待した。
「TOWN CRAFT 柚香セゾン」は常盤橋タワー内の一部店舗や、RISE & WINの直営店・オンラインストアで販売中。夏が近づき、ビールがおいしい季節がやってくる。ビール片手に、資源循環や「まちの未来」に思いを巡らせてみてはいかがだろうか。
眞崎 裕史 (まっさき・ひろし)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
地方紙記者として12年間、地域の話題などを取材。フリーランスのライター・編集者を経て、2025年春からサステナブル・ブランド ジャパン編集局に所属。「誰もが生きやすい社会へ」のテーマを胸に、幅広く取材活動を行う。