• 公開日:2025.05.21
  • 最終更新日: 2025.05.20
サステナ意識の高い消費者が製品を実際に購入しないのはなぜなのか?
  • Sustainable Brands Staff

持続可能性への意識が高い消費者が、いざ購入を決断するとなると、サステナブルな製品を手に取らないケースが多い。米国とカナダの消費者を対象にしたコンシャス・コンシューマー調査でこんな実態が明らかになった。「セイ・ドゥー・ギャップ」と言われる言行不一致が消費者に生じるのはなぜなのか、マーケターや企業はそのギャップを埋めるために何ができるのか。カギとなるのは持続可能性に関するメッセージにあるようだ。(翻訳・編集=遠藤康子)

Image: Kampus Production

カナダのエージェンシーが発表した新たな調査報告書「The Conscious Consumer Report」によると、消費者はサステナブルな製品を望んでいながら、今もなお実際の購入に至っていないという状態が続いていることが分かった。調査対象となったのは3000人以上の米国とカナダの消費者だ。

調査に応じた消費者のおよそ76%は「コンシャス・コンシューマー(持続可能性について十分に考えた上で製品やサービスを選ぶ課題意識の高い消費者)」を自認し、持続可能性に取り組むブランドを応援したいと考えている。しかし、「その価値観に従ってサステナブルな製品を購入している」と答えた人はわずか38%だった。こうした言うこととやることに差がある「セイ・ドゥー・ギャップ(say-do gap)」は依然として根強く、企業がサステナブル経済の成長推進に取り組むべき必要性が示された形だ。

この調査は、創造的なインパクト実現を掲げるクリエイティブエージェンシーのパブリック・インクが市場調査会社イプソスの支援を受けて実施した。調査報告書では、自らの信念と価値観に従って消費する「コンシャス・コンシューマリズム」を阻む大きな壁として、企業が発信する持続可能性のメッセージが紛らわしいことが挙げられている。「持続可能性に関するメッセージが曖昧か、誤解を招くせいで製品の購入を取りやめたことがある」と回答した消費者は全体の49%近くを占めた。最も意識の高い消費者の場合、この割合は87%と驚くべき数に上る。

「ブランド側は的外れなのです」と話すのは、パブリック・インクの創業者で最高経営責任者(CEO)のフィリップ・ヘイド氏だ。「コンシャス・コンシューマリズムを推進していくためには、持続可能性についてもっとシンプルなメッセージを発信し、消費者個人の目先の利益に焦点を絞る必要があります。人々の暮らしからかけ離れた野心的なメッセージで消費者を圧倒するのは効果的ではありません。米国では政治的な揺り戻しが起きて『DEI(多様性、公平性、包摂性)の終わり』が叫ばれていますが、消費者は引き続き、自身の価値観に基づいて選択しています」

「ビジネスの未来は利益とパーパスの調和を取れるかどうかで決まるでしょう。本物であることと責任を担っていくことは消費者の共感を得ていて、この変化は単にエシカルであるだけでなく、戦略的に重要でもあるのです。社会的価値観と足並みがそろい、より良い世界を想像できる企業は成長するでしょう」

調査では、価値観に従って製品を購入する頻度別に消費者を5つのセグメントに分類した。例えば、最も頻度が高いセグメントはサステナブルな製品の購入確率が80%から100%の消費者「持続可能性スチュワード(Sustainability Stewards)」(9%)、頻度が最も低いセグメントはサステナブルであることを理由に製品を購入したことが一度もない消費者「無関心層(Apathetic Actors)」(31%)だ。調査結果では、どのセグメントの消費者を相手にする場合でも、持続可能性に関するメッセージをよりシンプルにし、製品と購入者個人の目先のニーズとを合致させれば、サステナブルな製品の購入を促せる可能性があることが示された。

主な調査結果

  • DEIを縮小した企業の不買運動が起きるかもしれない:「今後1年以内に社会的あるいはエシカルな理由から購買行動を変更する可能性がある」と答えた人は半数を超えた(55%)。このデータの通り、北米では不買運動が実際に起きている(編注:例えば、2025年4月にはDEIの取り組みを縮小した小売り大手ウォルマートに抗議する1週間の不買運動があった)。
  • マーケターは的外れ、サステナブルに関する主張が紛らわしい:調査回答者全体の約49%、意識が非常に高い「持続可能性スチュワード」に至っては87%が、サステナブルのメッセージが分かりにくいことを理由に製品の購入を取りやめたことがあると回答した。
  • なかなか解消されない「セイ・ドゥー・ギャップ」:「自分は意識の高い消費者だ」と答えた人は全体の76%に上ったが、購入決断時にその価値観に従うと答えた人は38%にすぎない。
  • 消費者を行動に駆り立てるのは目先の利益:消費者がより反応しやすいのは、漠然とした未来のインパクトよりも個人的な目先の利益(「耐久性がある」「健康に良い」など)を伝えるメッセージである。

マーケターが考慮すべき5つの戦略

パブリック・インクはこの調査結果を踏まえ、サステナブル経済の成長推進と、セイ・ドゥー・ギャップの解消に効果的なマーケティングのポイントを5つ提案している。

1.持続可能性のメッセージはシンプルに:簡潔な言葉遣いを心がけ、消費者の利益に直結する内容に力を入れる(「エネルギー効率が高い」より「光熱費を削減できる」の方が効果的)。

2.目先の利益を全面に押し出す:長期的な利益が得られると約束するより、持続可能性が消費者の現在の暮らしにどう役立つのかに焦点を絞る。

3.個人のニーズに訴える:消費者の心を動かすメッセージとは、個人の目先のニーズが満たされると主張するものであり、抽象的な目標をみんなで達成しようとの呼びかけにはあまり効果がない。

4.耐久性と性能をアピールする:インパクトに関するメッセージの内容を、製品の効率性、安全性、耐久性と関連付ける。

5.無関心な消費者でも無視しない:無関心層は主要なターゲットにはならないかもしれないが、材料を現地調達し、環境汚染を引き起こさないというメッセージには反応を示す。

「私たちのデータからも分かるように、サステナブルな製品は未来だけではなく現在の暮らしにも役立つことを全面に押し出して明快かつ単刀直入に伝えたほうが、消費者の反応が良くなります」。パブリック・インクのリサーチ担当副社長ケイリー・ファレル氏はそう話す。「マーケター、ビジネスリーダーである私たちは、消費者が自らの利益に従って行動するという現実を無視し続けてはいけません。そんなことをすれば、人類の前に立ちはだかる圧倒的なまでの危機に立ち向かう上で何よりも必要なときに、サステナブル経済の成長は失速してしまうでしょう」

調査報告書の全文はこちら。サステナブルな製品を提供する企業だけでなく、持続可能なブランドと従来型のブランドを両立させる企業にとっても役立つ実用的な洞察が盛り込まれている。

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