• 公開日:2025.06.11
  • 最終更新日: 2025.06.10
サーキュラーファッションの実践方法や言説には欠陥がある 英大学指摘 
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現在、語られ、実践されているサーキュラーファッション(循環型ファッション)は本当に持続可能な解決策と言えるのか――。英ラフバラー大学クリエイティブフューチャー研究所の研究者らは、サーキュラーファッションという考え自体は将来性があるものの、いまの実践方法や議論の在り方には欠陥があると指摘する。現行のサーキュラーファッションへの批判から、より良い未来の選択を考える。(編集・翻訳=小松はるか) 

Image credit: Hannah Morgan 

 

サーキュラーファッションを巡っては、衣類の再販やレンタル、リサイクルを通じて、衣類が十分に活用されずリサイクルされていないことで失われている年間5000億ドル(約73兆4000億円)以上の価値を取り戻せるチャンスがあると広く主張されている。英国でもさまざまな組織がこの数字を採用している。しかし、ラフバラー大学の研究者らはこの数字が見込み違いだと指摘する。 

根拠となるエレン・マッカーサー財団(Ellen MacArthur Foundation)の資料によると、5000億ドル以上のうちの4600億ドル(約67兆5400億円)は、廃棄された衣類を100%回収し、再利用した場合に防げる新品の衣類の販売価値だという。しかしこの4600億ドルは業界が失う収益とも言え、さらにその価値がそっくりそのまま他のセクターの利益やチャンスになるという意味でもない。例えば、新しい衣類代わりに古着を売った場合、販売価格は新品より下がってしまうため、4600億ドルの収益が生まれるとは言えない。 

論文『王様の古着:灰色文献で議論されるサーキュラーファッションについての批判的な批評』は2025年2月、ジャーナル『Frontiers in Sustainability』(サステナビリティの最前線)に掲載されたものだ。(「王様の古着」は「裸の王様」の意味。童話『裸の王様』の英語名が『王様の新しい服』であることから、それに引っ掛けた言葉が使われている)。 灰色文献は、商業出版ではなく一般の流通ルートで手に入れることが難しい政府や学術機関、企業、産業などが発行する情報のことだ。 

同論文では、ビジネス・オブ・ファッション(Business of Fashion)、サークル・エコノミー(Circle Economy)、エレン・マッカーサー財団、国際労働機関(ILO)、PwC、国連環境計画(UNEP)などの学術機関以外の組織が発行した20本の重要な報告書を評価した。それにより明らかになったのは、サーキュラーファッションに明確な定義がないことと、学術的な経済理論から切り離されていること、最終的には消費者や労働者よりも主要ファッションブランドの利益に貢献しているということだった。 

今回の論文は、サーキュラーエコノミーの定義が不明瞭で実体を欠いていると警鐘を鳴らした、イギリスとスウェーデンの研究者チームによる2021年の論文『サーキュラーエコノミー批判』に同調するものだ。同論文の主要執筆者であるエルベ・コルベリック氏は、「『サーキュラーエコノミー批判』はサーキュラリティ(循環性)という概念に異議を唱えるものではありません。問題は、想定されている利益や恩恵が、矛盾や不完全な実態、十分な説明のない前提、課題、不明確な結論に基づいているということです」と指摘した。 

 

ラフバラー大学の研究はこれらの指摘をさらに掘り下げた。そして業界関係者や政策立案者に対し、さらなる検証を行わないまま、サーキュラーモデルの可能性に過度な期待を寄せないよう警告する。 

同大学の客員研究員であるタリア・フセイン博士は、「ファッション産業は多くのサステナビリティ課題に直面していますが、残念なことに、うまく対処できていません。水や土地の利用から化学物質、化石燃料由来の繊維、強制労働、過剰生産、最終的な繊維廃棄物に至るまで、あらゆる段階やあらゆる規模で問題を抱えています」と語る。 

彼女はさらに続けた。 

 

「私たちの論文は、政府や産業界が採用しているサーキュラーファッションの解決策がほんの些細(ささい)な精査にも耐えられないことを示しています。サーキュラーファッションに関する主要な報告書は差し引くべき4600億ドルを加えてしまっています。大通りで絶えず服が販売されているように、過剰生産への対策は打てていません」

 

米国の非営利団体「オア・ファウンデーション(Or Foundation)」にとって、ファッション業界の過剰生産問題の解決は重要なミッションだ。同団体のキャンペーン「生産量について話そう(Speak Volumes)」は、企業やブランドに対してアイテムごとの生産量を公表するよう促すことで、ファッション業界のさらなる透明性の向上を目指すものだ。 

創設者のリズ・リケッツ氏は、米サステナブル・ブランドに以下のように寄稿している。 

 

「ファッション業界が現在、新しい衣類にリサイクルしている衣類の割合は1%以下です。それを考えると、新たなリサイクルソリューションのみでどのように埋め合わせられるのか疑問です。現在の生産量を開示し、さらにバージン素材からつくられた新製品の製造を減らす取り組みが同時に行われなければ、企業やブランドが行なってきた繊維から繊維へリサイクルする技術への投資は無駄になるでしょう」 

ラフバラー大学の研究チームは、調査したサーキュラーファッションに関する資料は、消費者の行動変容に焦点を置くことで過剰生産を無視する一方、売れ残ったり返品されたりした在庫の廃棄というファッション業界で繰り返される問題を見過ごしていると指摘。またそれにより、廃棄の根本的要因に対処するサーキュラーファッションの可能性も損なわれているという。  

 

そのほかに論文が指摘していることを紹介する。 

  • 経済的な前提に誤りがある。再販売やレンタルといった循環型のビジネスモデルは新たな製品を販売するよりも利益が少ない。もし循環型ビジネスモデルによって新製品の生産をうまく減らすことができたら、ファッション業界の収益は減少する。これはサーキュラーファッションが謳って(うたって)きたことに矛盾する。もしも循環型ビジネスモデルが新たな生産を補完するだけなら、環境への効果はかなり限定的になるだろう。 

  • 政策提言が不十分。各報告書はビジネス用語や一貫性のない「バリューチェーン」の定義を多用し、構造的な問題の解決につながらない表面的な政策提言を行っている。

  • 労働問題を見落としている。利益が少ない循環型モデルへの移行は、大半がグローバルサウスで暮らすファッション業界の労働者の賃金や労働条件を改善できそうにない。一方で、古着を選別しリサイクルする段階でさらに不安定な雇用を生み出してしまう可能性すらある。 

サステナビリティの言説は業界によって統制されている。マッキンゼーなどのコンサルティング会社や国際的な指導機関が厳格な精査を行うことなくサーキュラーファッションに関する方針を策定している。その結果、主要ファッションブランドの権力が強化され、脱成長や充足性(足るを知る)といった代替モデルを脇に追いやっている。 

今回の論文は、現在の形式のサーキュラーファッションが、実体経済や環境課題に沿った解決策よりも、非現実的な予測と業界のレトリック(美辞麗句)の上に成り立っていることを注意喚起するものだ。企業の利益を優先し、現状維持を選ぶことで、サーキュラーファッションは既存の課題を解決するだけではなく新たな問題を生み出してしまう危険を冒している。 

 

研究者や政策立案者、業界のステークホルダーには、サーキュラーエコノミーを巡る言説を批判的に再評価し、収益性より構造的変革を優先する代替策を探るよう要請する。今後のサステナビリティの取り組みは、精査されていない主張ではなく、十分な実証を伴う研究に根差したものでなければならない。 

執筆者らは論文をこのように結んでいる。 
 

「過剰生産という見て見ぬふりをしてきた問題に取り組むことができなければ、サーキュラーファッションは、不必要な生産を終わらせることを求める脱成長モデルや充足性モデルと相反していると示すことになります。ファッションに関して、新たなパラダイム(考え方)が必要とされています。しかし私たちは、サーキュラーファッションを、その需要を満たすのに十分な推進や資金供給、支援が行われておらず、まだ発展していない多くの提案のうちの一つと捉えるべきだと主張します」 

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