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  • 公開日:2025.05.13
  • 最終更新日: 2025.05.12
日本初「プラスチックフリー認証」――ミシュラン星レストランが取得
  • 環境ライター・箕輪 弥生


プラスチックフリー認証を持つ宮本シェフを中心に集合した「スィークル」のスタッフ


使い捨てプラスチックの使用を抑える「プラスチックフリー認証」を、今年3月、東京・大手町のレストラン「CYCLE by Mauro Colagreco」(以下、スィークル)が日本で初めて取得した。ラップフィルムやプラスチックボトルの使用を廃止し、食材のプラスチック包装削減にも取り組むなど、サプライチェーン全体を含めた改革を進めている。また同店は、生物多様性の保全を意識したメニュー開発や、ゼロウェイストを目指すレシピを考案する「循環型ガストロノミー」を推進しており、プラスチックフリー化はその一環だ。脱プラスチックの流れは、飲食業界にもさらに広がりそうだ。

調理や梱包、配送に至るまで、多くのレストランは利便性が高く、安価で料理ツールとしても活用できる使い捨てプラスチックを大量に使用してきた。一方で、プラスチックによる海洋汚染や生態系への影響は、自然の資源を調理して提供する飲食業にとっては見過ごせない重大な問題になりつつある。

世界でこの問題にいち早く取り組んだのが、スィークルを率いる南仏のミシュラン三つ星レストラン「Mirazur(ミラズール)」のシェフ、マウロ・コラグレコ氏だ。氏は2016年、メキシコの海岸で見たプラスチックごみの惨状に心を痛め、使い捨てプラスチックを使うというレストラン運営の根本を見直す決断をした。

「ミラズール」のマウロ・コラグレコ氏

スィークルが取得したプラスチックフリー認証マーク


その結果、2020年、ミラズールは世界で初めてプラスチックフリー認証を取得。これは2018年に創設されたイタリアの非営利団体による国際認証であり、使い捨てプラスチックの使用を排除した業態に対して発行される。現在、世界で52の認証例がある。

今回、ミラズールの東京店であり、ミシュラン1つ星をもつスィークルは、この認証制度において、国内で初めてマネジメントシステムに関するBランクを取得した。これは、使い捨てプラスチックの削減などの基準をクリアした上位から2つ目のランクとなる。

スィークルで使われるふた付き金属容器

野菜は再利用可能なワックスペーパーで納品


同レストランでは、ラップフィルムを調理場からなくし、金属製のふた付きの容器などで代用している。南仏ミラズールで5年間マウロ氏の元で研さんを積んだ宮本悠平シェフは、「ミラズールでは朝、畑で収穫した食材からメニューを考えることも多く、その経験が身についているため、食材を長期保存せず使いきる工夫をしている」と話す。

「日本でもプラスチックフリーができることを証明したかった」と話す宮本シェフ

店内のテーブルからワインクーラーまで自然素材が使われる


さらに、野菜などの納品時に使用されるラップ包装を段ボールや紙製に変更してもらうことで、年間約16.5kgのプラスチック包装を削減した。「この取り組みには、納入業者をはじめとするサプライチェーン全体の協力が欠かせなかった」と宮本シェフは説明する。

そのほか、スタッフのユニフォームなどのクリーニングに使用される使い捨てプラスチック袋も廃止し、年間10.2kgのプラスチック削減を実現している。

宮本シェフによると、「欧州では、野菜の包装でもラップフィルムを用いることはまれで、代替の素材も選択肢があったが、日本ではプラスチック包装が一般的なため、フランスよりプラスチックフリーの実現はハードルが高かった」そうだ。

循環型ガストロノミーが提唱、プラスチックフリーの意義

このようなプラスチック削減の取り組みは、マウロ氏が提唱、実践している「循環型ガストロノミー(Circular Gastronomy)」のひとつの重要な要素である。

循環型ガストロノミーとは、環境負荷を最小限に抑え、持続可能な方法で食材を生産・調理・提供し、料理を通じて社会・環境・文化をつないでいこうという、ガストロノミーの新たな形である。生物多様性の重視、ゼロウェイスト、再生可能資源の活用と並び、プラスチックフリーもその実践項目として位置づけられている。

ユネスコ生物多様性親善大使でもあるマウロ氏は、この考え方を広げるため、欧州で若手シェフの教育にも力を入れており、世界中の料理人および飲食業界に大きな影響を与えている。

スィークルでも、マウロ氏の考え方に基づき、調理過程でプラスチックを排除するだけでなく、メニューや店内備品に再生可能素材を多用し、食品廃棄物のコンポスト化を行っている。さらに、店舗でハーブや野菜を栽培し、地域の生態系を脅かす存在となっている鹿や猪の活用、未利用魚の使用など、循環型ガストロノミーの取り組みに力を入れる。

都心の真ん中、大手町にあるスィークル脇の小さな畑ではハーブ類が育っている

アースデーの4月22日、ガストロノミーにおけるサステナビリティを考察するワーキングセッションがスィークルで開催された。参加した金沢市のレストラン「レスピラシオン」の梅達郎オーナーシェフは「宮本シェフにプラスチックを削減する方法などを聞き、自店でもできることを実践していきたい」と語った。

スィークルがプラスチックフリー認証を取得したことは、他のレストランにも少なからず影響を与えそうだ。

written by

箕輪 弥生 (みのわ・やよい)

環境ライター・ジャーナリスト、NPO法人「そらべあ基金」理事。

東京の下町生まれ、立教大学卒。広告代理店を経てマーケティングプランナーとして独立。その後、持続可能なビジネスや社会の仕組み、生態系への関心がつのり環境分野へシフト。自然エネルギーや循環型ライフスタイルなどを中心に、幅広く環境関連の記事や書籍の執筆、編集を行う。 著書に「地球のために今日から始めるエコシフト15」(文化出版局)「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」「環境生活のススメ」(飛鳥新社)「LOHASで行こう!」(ソニーマガジンズ)ほか。自身も雨水や太陽熱、自然素材を使ったエコハウスに住む。JFEJ(日本環境ジャーナリストの会)会員。 http://gogreen.hippy.jp/

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