
ネットショッピングの拡大やホリデーシーズンのギフト交換に伴い、小売企業は顧客からの返品対応に追われている。返品は物流の負担となり、炭素排出量の増加に直結することに加え、返品された商品の廃棄も問題だ。サステナビリティと顧客の利便性を両立するために、小売企業が取るべき3つの対策を紹介する。(翻訳・編集=茂木澄花)
小売企業と消費者にとって、ホリデーシーズンのセールはもはや恒例行事だ。ブラックフライデーからクリスマス、そしてメモリアルデーにかけて実施されるあらゆる割引セールを、消費者が見逃すはずがない。一方の小売企業は、ホリデーシーズン中の売り上げの波に備えるだけでなく、押し寄せる返品の波にも備えざるを得ない。
特に1月は、ギフト交換によって発生した、要らない靴下やサイズの合わないセーター、奇抜な模様のネクタイなどが、小売企業に大量に戻ってくる。これによってサプライチェーンは詰まりを起こし、知らぬ間に環境負荷が積み重なっていく。2024年から2025年にかけてのホリデーシーズンには、約65%の消費者がギフトを返品したという。こうした状況の中で、企業は物流の問題にとどまらず、あらゆる面で危機に直面している。
返品は、サプライチェーンに甚大な影響を及ぼすだけでなく、環境にも大きな打撃を与える。しかし、消費者はネットで購入したものを返品できるという気軽さと便利さによって、自らの行動が地球に与える影響から目をそらし、自分の都合で購入と返品を繰り返してしまう。
返品の問題は、単なる大量消費の問題にとどまらない。ネット上で購入された商品が返品された場合、その移動距離は2倍になり、カーボンフットプリントは一気に増加する。配送と返品を合わせた温室効果ガス(GHG)の排出量は、小売業界における排出量合計の37%に上る。返品によって余計に排出される炭素は、最初の配送による排出量の30%に上るという試算もある。1件1件の返品が、トラックの往来や貨物航空機の運航を増やし、排出量を増やしているのだ。そして返品された商品は、使用には全く問題ない状態でも、未開封であっても、最終的に埋め立て地行きになることが非常に多い。
2020年の1年間に、米国だけで推定260万トンの返品が埋め立て地行きとなった。それらの返品に伴う輸送は、1600万トンのCO2排出につながった。これは、約200万世帯分の電力を1年間供給した場合の排出量に相当する。このまま消費者がスマートフォンアプリの手軽さや、お急ぎ配送のスピード、ファストファッション・ブランドの安さなどに依存し続ければ、残念ながら排出量は増え続ける一方となる。
ファッション業界は、高い返品率による無駄の代表例だ。ネットで購入された衣類の半分以上は返品されるという。ファストファッションや低価格・低品質の小売店では、返品された商品を再販することで得られる価値よりも、返品の取り扱いにかかる費用のほうが高くなる場合が多い。このことが問題をさらに深刻にしている。つまり、多くの企業にとって、返品された商品は再販するよりも廃棄したほうが経済的で効率的であるため、結果として大量の廃棄物と環境への害が生じる。
一方、消費者の期待という視点から見ると、話はまた違ってくる。「小売企業が提供すべきサービスは何か」と聞くと、40%の消費者が「円滑な返品プロセス」を1位か2位に挙げる。しかし同時に、米国の消費者の78%は「サステナブルな生活スタイルを重視している」と答えるという。簡単に言えば、現代の消費者は、個人的な不便は最小限にしながら、罪悪感のない消費をしたいと思っている。そして、そのバランスを取れるかどうかは小売企業にかかっているのだ。
つまり小売企業は、サステナビリティへの期待に応えつつ、消費者が期待する便利な返品プロセスも提供するという、矛盾した無理難題への対応を求められているのだ。そして消費者は、中身のないサステナビリティ公約を見抜くリテラシーを備えつつあり、企業に対して実質的な行動を期待している。そうした中、ただウェブサイトにサステナビリティの文言を追加したり、「エコ」に関するあいまいな目標を掲げたりするだけでは十分とは言えない。
返品によって生じている危機的状況の解決を図りながら、消費者の満足度を維持するために、小売企業が取り得る3つの対策を挙げる。
1.詳細かつ正確な商品情報を提供する
返品の主な理由の1つに、顧客の期待と実際の商品とのミスマッチがある。正確なサイズ、質の良い画像、360度画像、動画、素材の詳細、取扱方法や互換性が商品説明に掲載されていれば、消費者はそうした情報に基づいて確かな購買意思決定ができるだろう。
ファッションの返品理由として最も多いのは、サイズが合わないことだ。詳細なサイズガイド、AIを活用したサイズのおすすめ機能、バーチャルな試着機能などがあれば、返品率は格段に下がるだろう。IT機器や家具でも同様に、正確な寸法、互換性表示、顧客によるレビュー、写真などがあると、顧客の期待を現実と揃えることができる。また、小売企業は商品説明を定期的に更新すべきだ。頻繁にデザイン変更やアップデートのある商品であればなおさらだ。
2.物理的な接点を活用してハイブリッドに対応する
ネットショッピングにおける返品率は、実店舗よりも顕著に高い。購入前に試したり、試着したり、実際に見たりすることができないのが主な原因だ。地域の返品受付拠点など、物理的なタッチポイント(顧客接点)を取り入れると、包装によるゴミや余分な排出を減らすとともに、返品プロセスを合理化できる。
返品の受付を所定の場所に集約すると、個々の消費者から物流センターへの輸送を減らせるため、消費者から発送元に戻すリバースロジスティクスの環境負荷を最小限に抑えられる。一部の小売企業では「リファービッシュメント・センター」を導入する動きもある。返品された商品を廃棄するのではなく、評価と修理を施して再販するための拠点だ。これにより、廃棄品を減らせるだけでなく、企業は返品から再び価値を生み出すことができ、価格に敏感な消費者に再販品の購入機会を提供できる。
小売企業は、顧客体験と商品の流れの両方を考慮しなければならないが、ハイブリッドな仕組みを構築して柔軟性を高めることで、両方を改善することが可能だ。例えば、オンラインで購入した商品を実店舗で返品できる「BORIS(Buy-online-return-in-store)」の選択肢を設けることや、サードパーティの返品拠点との連携、店舗内で再販する取り組みなどがある。これらを通じて小売企業は、持続可能性と顧客の利便性を兼ね備えた返品管理を実現できる。
3.商品情報のローカライズや効果的な翻訳を進める
複数の国で商品を販売している小売企業は、言語の壁に加え、サイズ表記や技術的な仕様の違いが原因で返品率が高くなることが多い。しかし、その違いを顧客に正しく理解してもらうための取り組みを行い、返品率を下げている企業もある。商品説明のローカライズ、説明書の翻訳、地域特有の情報を提供することで、顧客の適切な購買意思決定につながり、誤解や誤った期待による返品リスクを減らせる。
サイズ表を現地の基準に合わせること、価格を現地通貨で表示すること、一般的に知られている用語で商品の機能や素材を説明することで、消費者を安心させ、混乱を避けられる。しかし、これはどんな商品にも当てはまる解決策というわけではない。商品によって、必要な対応の程度は異なる。例えば電子機器であれば、現地の電力基準に合わせた説明書が必要であるのに対し、アパレルブランドは、地域ごとのサイズ選択や季節に合わせた案内をすべきだろう。
顧客の理解を妨げているものを取り除き、商品の詳細を顧客の期待に沿った内容にすることで、顧客は円滑に買い物を楽しむことができる。その土地の文化に合った明確なコミュニケーションができれば、返品の可能性を減らすだけでなく、顧客からの信頼と、ブランドへのロイヤルティを高めることにもなる。
顧客体験を妥協することなく返品を減らす
返品がゼロになることは現実的にあり得ない。しかし、顧客の安心感と満足感を向上し、不要な返品の悪循環を絶つ仕組みを作ることは可能だ。
小売企業は、顧客の期待が変化するのに合わせ、利便性とサステナビリティのバランスを取る方法を見つける必要がある。上記3つの対策は、企業と顧客の双方にメリットがあり、顧客が情報に基づいて選択することを可能にする。これが結局のところ、返品を減らす一番の近道なのだ。