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  • 公開日:2025.04.30
  • 最終更新日: 2025.04.25
AIの環境負荷を評価する「AIエネルギースコア」が登場 
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Image: Salesforce

企業による生成AIの利用が拡大する中、その環境負荷を算定するための方法論や枠組みの確立が求められている。こうした中、米セールスフォースがこのほど、AI関連企業や大学と協働し、AIモデルのエネルギー効率を評価する新ツールを開発した。このツールによって、少ないエネルギーで動くAIモデルを選択することが可能になり、持続可能なモデルの開発が進むことが期待される。(翻訳・編集=茂木澄花)

 

米IT大手セールスフォースは2月10日、カーネギーメロン大学、AI関連企業のハギングフェイス、コーヒアと協働で開発したツール「AIエネルギースコア」(AI Energy Score)を発表した。AIの開発者やユーザーがAIモデルのエネルギー消費量を算定・比較することを可能にする、初めての評価ツールだ。 

セールスフォースはさらに、この新たな枠組みの下で、AIモデル開発企業として初めて、自社が提供するモデルのエネルギー効率に関するデータを開示する。 

「AIのエネルギー消費を減らすことは、業務上のコスト削減、インフラの最適化、長期的な持続可能性と収益性の向上につながります」。こう話すのはセールスフォースのエグゼクティブ・バイス・プレジデント兼最高インパクト責任者、スザンヌ・ディビアンカ氏だ。「透明性の高いAIエコシステムを構築するために、業界のリーダーたちと協働できることを誇らしく思います」 

仏コンサルティング会社の社内シンクタンク、キャップジェミニ・リサーチ・インスティテュートが最近発表した調査では、経営層の半数近くが「生成AIの導入によって自社の温室効果ガス排出量が増加している」ことを認めた。また42%が、AIの資源消費が原因で気候変動に関する目標を再検討する必要に迫られたという。4分の3近くが「AIの環境負荷を算定することは難しい」と考えていることも分かった。その理由は、パートナー企業からのデータ提供が不足していること、透明性が不十分なこと、業界に環境負荷を算定する方法論がないことだった。 

世界的な物流会社であるキューネ・アンド・ナーゲルの最高デジタル責任者(CDO)兼シニア・バイスプレジデントであるニクラス・スンドベリ氏は次のように指摘する。「コパイロットやチャットGPTに『最近入力したクエリのカーボンフットプリントは?』と質問できてしかるべきですが、今のところ、その質問に答えてくれるツールはありません」 

こうした透明性がない状況の改善を目指して今回開発されたのが「AIエネルギースコア」だ。過去には、省エネ製品のラベリング制度「エネルギースター」が、電子機器のエネルギー効率に関する基準を大きく変えた。これと同様に今回の取り組みも、AIモデルにおける、明確で信頼できるサステナビリティの基準を確立するだろう。 

今回ツール開発に関わったハギングフェイスは、フランス出身の起業家が米国で立ち上げた機械学習企業だ。同社でAIと気候変動の責任者を務めるサシャ・ルシオーニ博士は、次のように語る。「AIエネルギースコアの登場は、持続可能なAIを目指すにあたって画期的な出来事です。私たちは、透明性のある評価システムを作ることで、AIの環境負荷を軽減する上で最も大きな障壁を乗り越えようと取り組んでいます。このプロジェクトを発表できることにわくわくしていますし、広く活用されることを楽しみにしています」 

AIエネルギースコアは、2月前半に開催されたAIアクションサミットでお披露目された。このツールは、AIモデルの透明性を高め、市場における効率的なモデルの選択を加速し、持続可能なAI開発の動機付けとなり得る。AI関連業界に変革をもたらす可能性があるとして、フランス政府やパリ平和フォーラムからも評価されている。主な特徴は以下のとおり。 

  • 基準に則ったエネルギー効率評価 

AIモデルのエネルギー効率を、基準に則って算定、比較する枠組み。 

  • 公開スコアボード 

一般的なAIのタスク10種(テキスト生成、画像生成、要約など)における、AIモデル166種の成績を表示する包括的なスコアボード。セールスフォースのSFR-Embedding、xLAM、SF-TextBaseもこの中に含まれている。 

  • ベンチマーキングポータル 

AI開発者が公開モデルまたは非公開モデルを提出し、評価を受けることができるプラットフォーム。結果はスコアボードに掲載される。公開モデルのテストは自動的に実施され、非公開モデルの評価は、安全なテスト用のサンドボックス環境で行われる。 

  • 一目で分かるエネルギー使用ラベル 

AIモデルのエネルギー使用を評価する星1つから星5つまでのラベル。星5つが最もエネルギー使用効率が良い。これにより、開発者やユーザーは持続可能性の高いモデルを見分け、選びやすくなる。評価が完了すると、AI開発者は基準に沿ったラベルを発行し、モデルのエネルギースコアを共有できる。視認性が高く効果的なラベルの表示方法についての指針も提示される。 

「AIエネルギースコアは、AIアクションサミットのミッションを体現しています。AIの透明性と持続可能性という差し迫った社会課題に、大胆なイノベーションと国を超えた協働で取り組んでいるのです」。フランス投資総局長ブリュノ・ボネル氏は語る。「サミットでこの革新的な取り組みを発表できることを誇りに思います。世界の学術と産業が、新しいものを生み出す力を持っていること、そして責任あるAI開発に向けて団結した行動を求める声が高まっていることの有力な証となる取り組みだからです」 

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