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  • 公開日:2025.04.02
  • 最終更新日: 2025.04.15
自社の歴史から学ぶ、人の感動起点の製品開発とサステナビリティ
  • 横田 伸治


サステナビリティを経営の本流に位置づけるヒントは、積み重ねてきた自社の歴史とストーリーにこそあるかもしれない。創業70年を迎えるヤマハ発動機から「サステナブル・ブランド国際会議2025東京・丸の内」のプレナリーに登壇したのは、青田元・執行役員 CSO 経営戦略本部長。これまでにオートバイや船外機、電動モビリティなどを数多く手掛ける同社だが、製品単体ではなく、人と製品の関わりや人の感動に注目して製品開発を行う。こうした企業目的はサステナビリティへの取り組みにまで一貫しているが、その源流は、創業時から続く価値観にあった。

Day2 プレナリー
青田元・ヤマハ発動機 執行役員 CSO 経営戦略本部長


ヤマハ発動機は1955年、日本楽器製造からスピンオフする形で独立し、エンジンの製造開発をコア事業としながら多くのモビリティを発表してきた。青田氏は同社製品の写真を会場に投影しながら、「人が乗らないと意味が無い製品だからこそ、技術ビジョンとして『人間開発』を掲げている」と開発の哲学を披露した。この考え方は、経営戦略全体にも共通する。同社は1990年から企業目的を「感動創造企業」と定めており、青田氏は「小さい頃に自転車に乗れるようになったときのように、自分の体を使って乗り物に乗れた喜び、感動は大人になっても残るもの。そうした感動を振り返りながら企業活動をしている会社」と説明する。

創業70年を迎える老舗企業として、リジェネレーションの重要性も青田氏は指摘し、創業時以来の歴史を振り返る必要性を訴えた。青田氏によれば、ヤマハ発動機の創業者・川上源一は海外出張からの帰国時に「レジャー」の概念を持ち込んだといい、「企業経営としてレジャーにどう関わるかは難しい問題だが、日本人にとってレジャーは必要なはず」との視点から企業活動を続けてきたという。青田氏は会場に向けて「皆さんも、どうしたらサステナビリティの取り組みを経営陣に納得されるのか、どのように将来の利益につなげるのか、考えてみませんか」と問いかけ、「当時のレジャーも、サステナビリティも、リジェネレーションも、日本語にしづらい概念。それでも私たちは、創業時の思いに立ち返りながら言葉と向き合っている」と語った。

企業目的をストーリー化する議論を進める中で2018年に発表したのが、2030年に向けた長期ビジョン「ART for Human Possibilities」と、「人はもっと幸せになれる」とのスローガンだ。この文脈の中で行われる、いくつかのサステナビリティへの具体的な取り組みも紹介された。たとえばビーチクリーン活動は、「海岸が綺麗でないと、海の乗り物が楽しくない」という思いで社員が自発的に開始したもの。また高いシェア率を誇るゴルフカートを、地域交通支援に役立てるプロジェクトも手掛ける。免許返納後の高齢者の日常を支えることが目的で、「面白いことに、ゴルフカートに乗り合わせた人同士では自然とコミュニケーションが生まれる」(青田氏)という。やはり、製品が生み出す人の体験そのものを重視する姿勢が表れており、青田氏は現在、同社が生み出す社会的価値を「モビリティの楽しさ」「豊かな人生」「地球との共生」と定義し、統合報告書での情報開示に向けて価値創造ストーリーとして取り組みを整理していることも明かした。

最後に青田氏は、会場に集まった参加者らに向けていくつかのメッセージを届けた。まず経営者層に対しては「担当者の意見を、リスクマネジメントの視点で聞かないようにすべきだ。リスクマネジメント的なコメントは、未来をつくる社員たちの思いとパッションを消してしまう」。また学生に向けては「就職活動の際は、『御社の経営者が何のサステナビリティを大切にしているか』『何を実現しようとしているか』と質問してみてほしい。その会社の思いと、社員一人ひとりにどれだけ伝わっているかが分かるはず」。 そして最後に、サステナビリティに関わる全ての人に対して、小説家ジュール・ヴェルヌの言葉を引用し「『人間が想像できることは、人間が必ず実現できる』と信じている。しかしヤマハ発動機だけでは達成できないことがあり、この会場にいる人が一丸となって取り組まないといけない。ぜひ、私たちと一緒にサステナビリティの旅をしてもらえるとありがたい」と訴えた。

written by

横田 伸治(よこた・しんじ)

サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者

東京都練馬区出身。毎日新聞社記者、認定NPO法人カタリバ職員を経て、現職。 関心領域は子どもの権利、若者の居場所づくり・社会参画、まちづくりなど。

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