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  • 公開日:2023.06.14
  • 最終更新日: 2025.03.11
世界の電気自動車 2040年には7億台に急増も「ネットゼロ達成には政府や産業界の緊急の行動が必須」――脱炭素戦略分析機関が予測と提言
  • 廣末 智子

Photo by Zac Ong on Unsplash

世界の電気自動車(EV)は今後数年間で急増し、今年初めの2700万台から2026年までに累計で1億台以上、2040年までに7億台以上になる――。世界の脱炭素戦略の分析を行うブルームバーグNEFはこのほど、EVを巡る長期見通しについて調査した最新のレポートを発表した。それによると、新たな政策が全く実施されないと仮定した場合でも全車両セグメントにわたるEVの累計販売額は2030年までに8兆8000億ドル(約1223兆円)、2050年までには57兆ドル(約7923兆円)に達すると予想されるが、「今世紀半ばまでに世界全体でゼロエミッションを実現するため、道路交通を軌道に乗せるには、各国政府や業界関係者らによる緊急の行動が不可欠だ」と提言している。 (廣末智子)

レポートは、「EVの勢いが高まるにつれて、新たな経済機会が形成されつつある」と前置き。基本となる経済移行シナリオとして新たな政策が全く実施されないと仮定した場合の世界のEV台数は2022年の1050万台から2025年には2200万台(売上高の26%)、2030年には4200万台(同44%)、2040年には7500万台(同75%)へと増加し、「北欧や中国、ドイツ、韓国、フランス、英国など一部の国ではさらに急増する」と予測した。これにより、EVは世界の累計で2030年までに2億4400万台、2040年までには全車両の46%を占める7億3100万台にまで普及するという。

内燃機関自動車は2026年までにピーク時から39%減少か

一方、内燃機関自動車の販売台数については、全体の自動車販売台数がパンデミックによるサプライチェーンの寸断などを経て世界的に回復するなか、2026年までにピーク時から39%減少すると予測。これに伴い、道路交通セクターの石油需要は今がピークアウト寸前で、2027年には自動車用燃料需要がピークに達する。国別では米国と欧州がすでにピークを越え、中国も2024年にピークに達する見込みという。

車両種類別によるネットゼロに向けた進展(出典:ブルームバーグNEF、政府機関資料。自動車台数はすべての駆動技術タイプを対象とし、推定台数は各種資料およびブルームバーグNEFのデータに基づく。一部の数値は四捨五入済み。直近排出量および自動車台数に関するデータは2022年のもの)

さらにレポートは「今世紀半ばまでに世界全体でゼロエミッションを実現すること」を想定した「ネットゼロシナリオ」の分析も行い(上図)、「現在この野心的なシナリオに完全に沿っているのは道路交通では三輪車のみだが、バスと二輪車も極めて近くに位置づけている。商用バンや乗用車も勢いを増しているものの、ネットゼロの軌道に乗るにはさらなる政策支援が必要になる。大型トラックは軌道から大きく遅れており、政策立案者は優先して取り組まねばならない」などと指摘した。

蓄電池のサプライチェーン全体で大規模な投資が不可欠

具体的にはネットゼロシナリオを推進した場合のEVは世界で2030年までに2億9800万台、2040年までには11億台にまで増える見込みで、これを踏まえ「2030年末までに少なくとも1880億ドル(約26兆1320億円)をバッテリーセルと関連部品の工場に投資する必要がある」など蓄電池のサプライチェーン全体で大規模な投資が不可欠とする見方を示した。

また基本となる経済移行シナリオでは、EVの普及により世界の電力需要が2050年までに約14%増加するが、ネットゼロシナリオでは、EVの普及台数は増えるものの電力需給は12%にとどまるという結果も出た。その理由については、「EVからの電力需要の増加は、ネットゼロを達成するための幅広い電化推進の一部であるため」としている。

政府は2035年までに内燃機関自動車の新車販売を段階的に終了する後押しを

ブルームバーグNEFによる各国政府と産業界に対する具体的な提言は以下の通り。

・今世紀半ばのネットゼロ目標を掲げる各国政府はすべての車両セグメントにおいて、内燃機関自動車の新車販売を遅くとも2035年までに段階的に終了する目標を設定すべき。政府は設定した目標の実現を法律で後押しし、中間目標を立てるとともに具体的な政策手段で支援する必要がある。

・燃費基準やCO2排出量基準を一段と厳格にし、現行より長期にわたり有効とすることが求められる。バンやトラックなどの商用車に対するより厳しい基準が、すべての国々において緊急に必要である。

・各国政府は、EV用蓄電池のリサイクルに関する要件や基準を設定し、次世代バッテリー技術の研究を継続的に支援しなければならない。資金調達と許可プロセスの合理化により、原材料の新たな供給を促進することができる。

・ナトリウムイオン電池、固体電池、次世代負極などの進歩は実用化されつつある。政府はこれらの技術分野において国内開発を支援する方法を検討し、重要な原材料への依存を軽減する新たな電池技術の研究開発を引き続き支援する必要がある。

・公共充電施設網を拡充する必要がある。これにより消費者が必要に感じるEVの航続距離が短くなり、ひいては蓄電池原材料の供給圧力が緩和される。

・クリーン電力への投資は、道路交通の電化投資と連携して進めるべきだ。太陽光発電が増加するにつれ、より多くのEVの充電を昼間に移行すれば、排出量削減効果の最大化とコストの削減を実現できる。

written by

廣末 智子(ひろすえ・ともこ)

サステナブル・ブランド ジャパン編集局  デスク・記者

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーを経て、2022年より現職。サステナビリティを通して、さまざまな現場の思いを発信中。

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